こんにちは、石橋です。
太陽光発電や環境ビジネスに関わる企業の代表者として、とても気になる動きがあります。それは、太陽光パネル税です。おそらく聞いたことがないという方も多いのではないでしょうか。

太陽光パネル「税」という名称なので新しい税金が作られたのかと思うかもしれませんが、これは地方自治体が条例を制定しようとしているエリア限定の税金です。その自治体は、岡山県の美作市です。
岡山県は「晴れの国」との異名を持つほど晴れている日が多く、日照量に恵まれた土地柄です。たくさんの果物の産地であることを見ても、いかに岡山県が自然に恵まれた地域であるかが分かりますね。
その美作市の市議会で、太陽光パネル税が提案され、議会で可決しました。可決したということは即税金として成立するのかというと、そうはなりません。この太陽光パネル税が議会で可決されたあと、国の同意が必要です。なぜなら、この太陽光パネル税は法定外税といって国が定めている税金ではないからです。そしてその同意をする権限を有しているのが、総務大臣です。しかし、総務大臣が所管する総務省は、この太陽光パネル税に「待った」をかけ、再協議を通知しました。「もう1回協議して」と言っているだけのように見えますが、これは実質的に国が同意しない意思表示をしているのと変わりません。
この一連の動きには、美作市特有の事情があります。美作市内には約280か所の太陽光発電所があります。この数はかなり多く、全国的にもトップクラスです。美作市長は「日本一だと言っていい」と述べており、太陽光発電所による影響を受けやすい自治体であることがひとつの前提です。
メガソーラーの開発については、山林を切り開いて太陽光パネルが敷き詰められている風景がしばしばやり玉に挙がります。「これこそ自然破壊じゃないか」「土砂災害のリスクを高めている」などなど。一部には極論もありますが、確かに乱開発を続けていると災害のリスクが高まることは否定できません。そこで、太陽光発電所が開発されるのに伴ってリスクが高まってしまわないよう、周辺の整備をするために税金をかけようというわけです。受益者負担といって、利益を得る立場の人が税金を負担するというのが基本的な考え方ですから、太陽光パネル税を徴収して発電事業者に負担してもらうという考え方にも、違和感はありません。
もしこの太陽光パネル税が実現したら、10kW以上の太陽光発電所を運営している事業者から1平方メートルあたり50円を課税します。建物の屋根に設置されている太陽光パネルは対象外なので、この税金が家庭ではなく事業者を対象にしていることが透けて見えます。美作市に入る税収の想定は、1億1,000万円程度です。
当然、太陽光発電の事業者は反発します。自分たちの利益が減ってしまうのですから、当然でしょう。自分たちもリスクを負って巨額の投資をしているのですから後だしじゃんけんのように税金を作ったから納めろと言われても納得するのは難しいでしょう。この対立を総務省が問題視し、再協議をするようにと突き返したわけです。美作市での最大手となる発電所を運営している事業者曰く、税金を徴収しなくても自分たちの発電所には貯水池が設けられており、太陽光パネルを設置したことによる土砂災害のリスクをしっかりカバーしているとのこと。それに対してさらに税金を徴収するとは何事か、というわけです。
これに対して市側は水害が発生した際に太陽光発電所が関係している可能性が高く、住民の不安を解消するためにも制度の確立が必要と訴えます。市側は住民から多くの苦情のような声が寄せられているそうで、その意を汲んだともいえます。
これについては、双方に一理があると思います。事業者が「対策は万全」といっても、他の業者がしっかり対策をしているかどうかは分かりませんし、仮に全事業者が大丈夫と言ったところで住民の不安は解消しないでしょう。しかしその一方でこの太陽光パネル税が成立すると、他の自治体でも新たな財源として魅力を感じ、右にならえで同様の税金が成立する可能性があります。そうなると事業者の投資意欲を削いでしまい、太陽光発電の普及にブレーキをかけてしまいます。
これに対する根本的な解決は難しいと考えますが、自治体にとって太陽光発電事業者は現行制度でも税金を納めてくれる存在です。投資意欲を削いでしまうと税収が減ってしまいますし、その一方で過度の誘致を進めたり開発を認めてしまうと住民の不安が高まってしまいます。美作市は市長自身が「日本一」と言っているくらい太陽光発電所が多いので、こうした自治体だけに限定して一定の財源確保(つまり税金の確立)を認めて、それを全国に拡散させない基準を作るのが良いのではないでしょうか。環境に関する税金は批判をかわしやすいので、あまり太陽光発電と関係のない自治体まで財源を求めて課税をするのは本筋ではありません。そこで、全国一律ではなく太陽光発電による影響が大きい自治体だけに限ってこうした条例を認めていけば乱開発の抑止にもつながります。
この問題は現在進行形なので、引き続きどうなっていくのか注視していきたいと思います。