2025.04.08
太陽光発電の設置場所としてカーポート(駐車場)が注目されている理由とは?

今回は、新たな太陽光発電の実現方法として注目されているソーラーカーポートについて、なぜこの設備が工場や倉庫に推奨されているのかを解説します。
昨今の日本では、脱炭素やカーボンニュートラルという言葉を耳にする機会が増えていて、工場や倉庫など、大量のエネルギーを消費する施設では、さまざまな環境対策が求められるようになっています。特に、太陽光発電など、再生可能エネルギーへの転換は、もはや企業が活動するうえで『義務』といえるような状況になっていて、各企業に省エネや環境対策の取り組みを行わせるためと思える法改正なども盛んに行われています。実際に、2023年4月1日に施行された改正省エネ法などは、大量のエネルギーを消費する工場などに対し、さまざまな環境対策を求める内容となっています。
なお、工場や倉庫における太陽光発電の導入は、企業にとっては負担ばかりが増えるわけではありません。広大な敷地面積を確保できる工場・倉庫では、かなりの発電量が期待できるため、発電した電気を自家消費することで事業活動に必要になる電気代を大幅に削減できるというメリットもあるのです。
これまで、工場や倉庫への太陽光発電の設置は、一般住宅と同じく建物屋根が選ばれていたのですが、昨今では、駐車場を利用した再エネ設備の導入を目指す施設が増えています。そこでこの記事では、太陽光発電の設置場所として、なぜ駐車場が選ばれているのかなどについて解説します。
太陽光発電の主な設置場所について
それでは、太陽光発電設備を設置するための場所について、主にどこに設置されているのかを簡単に解説します。
皆さんは、「太陽光発電の設置場所は?」と聞かれた際、どこをイメージするでしょうか?昨今では、住宅領域においても太陽光発電の導入率がかなり高くなっていて、ほとんどのケースで屋根に設置されていることから「太陽光発電=建物の屋根に設置する設備」というイメージが強いと思います。
ただ、太陽光発電設備は、屋根以外にも設置可能な設備なのです。特に、現在はまだ開発途上ですが、近い将来、窓部分を利用して発電が可能になる製品なども登場しています。ここでは、現在の主な太陽光発電の設置場所と、それぞれのメリットなどについて解説します。
建物の屋根部分
太陽光発電設備の設置場所として、誰もが真っ先に思い浮かべる場所が建物の屋根部分だと思います。工場や倉庫など、事業用施設以外でも、一般住宅の太陽光発電の主な設置場所となっているのが屋根です。
なお、屋根に設置するタイプの太陽光発電にも、「屋根一体型」と「屋根置き型」という2つの設置パターンが存在します。
屋根一体型は、屋根に施工される屋根材に太陽光パネルが初めから組み込まれていて、屋根工事をすれば自動的に太陽光発電が開始できるというタイプになります。このタイプは、屋根材と太陽光パネルが一体となっているため、後から屋根に穴を空けて架台を設置するといた手間がありません。また、屋根に穴を空けないという施工方法から、雨漏りの不安などが少ないとされています。ただ、屋根材と一体となっているため、太陽光発電が不要に感じたとしても、後からパネルだけを外すということができない点に注意が必要です。
屋根置き型は、一般的な太陽光発電設備の設置モデルといえるでしょう。これは、屋根が完成して、後から太陽光パネルを載せていくというタイプです。一体型と比較すると、太陽光発電の導入コストを抑えることができるとされていて、メンテナンスがしやすい、後からパネルだけを外すことも可能といった点がメリットとされています。しかし、屋根置き型の場合、屋根に穴を空けて架台を設置し、そこにパネルを設置するという施工方法が一般的なため、施工になれていない業者に工事を依頼すると、太陽光発電の工事が原因で雨漏りがはじまる…といったリスクが生じます。また、屋根塗装や屋根材の葺き替え工事の際には、パネルを一度取り外してから屋根工事をして、再度パネルを設置するといった手間が増えます。この際、一度パネルを外すという行為で、太陽光発電の保証が切れてしまうなんてこともあるので注意しましょう。
太陽光発電の設置場所として屋根を選ぶ場合のメリットは、建物の中で最も高い場所となるため、十分な日照量を確保しやすい点です。ただ、屋根への太陽光発電の設置は、屋根の向きや周辺建物との関係性に注意する必要があります。
土地に太陽光発電を設置する
二つ目は、地面に架台を設置して太陽光パネルを支えることで、太陽光発電を行うという方法です。分かりやすい例を挙げると、ゴルフ場や山林などを利用して、大量の太陽光パネルを設置するメガソーラーと呼ばれる施設などが、このパターンです。
野立ての太陽光発電設備については、メガソーラーなど、大規模な発電設備として運用するもので、個人や工場などの敷地で行うものではないというイメージがあるかと思います。しかし、そのようなことはなく、最近では、土地と太陽光発電設備をセットにした「土地付き太陽光発電」と呼ばれる投資物件が一般に出回るようになっていて、地面に太陽光発電を設置するパターンが増えているのです。
土地にそのまま太陽光発電を設置する場合のメリットは、建物部分にコストがかからないうえ、発電のために広いスペースを確保できる点です。建物の屋根や後述するカーポートを利用した太陽光発電は、建物の建築にもコストをかけなければいけません。しかし、野立ての太陽光発電は、パネルの設置のみを考えれば良いため、低コストに大規模な発電設備を構築することができるのです。現状は、投資用太陽光発電として運用されていることが多いですが、企業が自家発電・自家消費のために購入するケースが徐々に増えていると言われています。
駐車場の屋根に設置する(ソーラーカーポート)
3つ目の場所は、駐車場です。近年では、工場や倉庫などの大規模施設はもちろん、一般住宅でも新たな太陽光発電の設置場所として注目されているのが駐車場の屋根です。もう少しわかりやすく言うと、駐車場の利便性や車の保護機能を高めるために設置されるカーポートの屋根の上を、住宅屋根のように活用し、太陽光パネルを設置するという方法が注目されているのです。
従来の駐車場は、車を停めるためのスペースとしてだけ利用されていました。もちろん、工場や倉庫など、多くの人が出入りする施設では、「車を停められる」という機能だけでも十分に役立ってくれます。しかし、駐車場の上部空間は、なんの利用価値もないデッドスペースになってしまっていたのです。工場や倉庫は、広大な面積の駐車場が用意されているケースが多いため、ここがまるまるデッドスペースになるのは少しもったいないですよね。一般住宅においても、屋根を設置すれば、洗濯物を干したり、ちょっとした作業を行うためのスペースとして活用できるようになり、外構設備としてカーポートが人気です。
そして、脱炭素社会が目指される中で、この駐車場の屋根の上を有効利用するための設備として開発されたのがソーラーカーポートなのです。ソーラーカーポートの仕組みは非常に単純で、カーポートの屋根の上に太陽光パネルを設置して、発電できるようにするというものです。
ただ、ソーラーカーポートにも、既設カーポートの屋根の上に太陽光パネルを載せる「搭載型(後付け型)」と、太陽光パネルを屋根材として利用する「一体型」の2種類が存在します。
一体型の場合、屋根がフラットで無駄なスペースを生むことなく効率的にパネルを配置できるうえ、地面に反射した光も活用する両面発電が可能で発電容量をのばすことができるというメリットがあります。ただ、後から太陽光パネルを外すことはできないのでその点は注意が必要です。
一方、搭載型は、既存カーポートの屋根上に架台を設置して太陽光パネルを載せます。搭載型の場合、既に設置されているカーポートにパネルを後付けし、ソーラーカーポートとして運用することができるため、場合によっては低コストで自家発電を始めることができます。また、太陽光発電が不要になれば、パネルを取り外して通常のカーポートとして利用するといった応用性もあります。なお、もともと設置されていたカーポートが、屋根材としてポリカーボネートを採用している場合、耐荷重の関係からソーラーカーポートにすることはできません。
他の設置場所と比較してソーラーカーポートが推奨される理由
上述したように、太陽光発電の設置場所は、建物の屋根だけでなくなっています。一般住宅の場合、地面に太陽光発電を設置するのは難しいですが、敷地面積が広く、周囲に高い建物がないケースが多い工場や倉庫の場合、野立ての太陽光発電を設置するケースも珍しくないのです。
ただ、昨今では、太陽光発電を設置する場所としてカーポートへの設置が注目されるようになっています。それでは、カーポートへの太陽光発電の設置が推奨されるようになった代表的な理由もご紹介します。
空きスペースを活用して発電が始められる
カーポートを利用した太陽光発電の導入が注目されているのは、駐車場の上部空間は基本的にデッドスペースとなってしまっているため、そのスペースを有効活用することができるようになるからです。何も設置されていなかった駐車場で、ソーラーカーポートを設置して発電を始めたとしても、もともとあった駐車場の機能性を損なうことはありません。
地面にそのまま太陽光発電を設置する場合、その場所は、他の目的に使用することができなくなることから、この点はソーラーカーポートならではのメリットといえるでしょう。また、工場や倉庫の屋根は、空調のための室外機など、さまざまな設備の設置に場所をとられ、思ったほどパネルを設置できない…なんてことになるケースがあります。工場を新築する際は、太陽光パネルの設置も含めて設計できるため、屋根全面にパネルを設置するなんてことも可能ですが、後付けの場合、施設規模の割に発電量が確保できない…なんてことになりがちなのです。駐車場へのカーポートの設置の場合、他に邪魔になる設備などもありませんし、導入の難易度が低いことから太陽光発電の設置場所として推奨されているわけです。
屋根に太陽光発電を設置済みの場合でも、発電量を増やせる
近年では、工場や倉庫などの事業用施設に対して、環境対策や省エネ対策がどんどん強化されるようになっています。2025年は、東京都で新築住宅への太陽光発電の設置が義務化される事が話題となっていますが、工場や倉庫については、既に義務化がスタートしている自治体があるのです。
例えば、群馬県においては、太陽光発電など、再生可能エネルギー設備の導入を義務化する条例が2023年4月に施行されており、延べ床面積2,000平方メートル以上の建物を新築、増改築する際には、太陽光発電やバイオマスボイラーなどの再エネ発電設備の設置が義務付けられています。この他にも、一定以上の規模となる施設に対して求められる省エネ基準なども徐々に引き上げられています。
工場や倉庫などについては、広大な屋根面積があることから、自家消費を目的として既に屋根に太陽光パネルを設置しているという施設が多くなっています。しかし、昨今の省エネ、環境対策の強化のことを考えると、さらに発電量を伸ばしたいと考える施設も多くなっているのです。
こういった場合、駐車場を活用して発電量を増やすことができるソーラーカーポートは、非常に有効な設備とみなすことができます。既に、建物の屋根に太陽光発電を設置していて、これ以上パネルを設置できるスペースがないという施設でも、広大な駐車場スペースを利用して追加的に発電量を増やすことができる点から、ソーラーカーポートが推奨されているわけです。
建物の屋根に設置するよりもリーズナブルに導入できる
ソーラーカーポートによる太陽光発電の導入は、建物の屋根に太陽光パネルを設置する場合と比較すると、導入コストを抑えられるとされています。これは、カーポートの屋根が建物の屋根よりもスペースが小さいためで、設置するソーラーパネルの枚数が少なくなることから、導入コストを抑えやすいというのも一つの理由です。また、建物の屋根にパネルを設置する場合、足場を組み立てなければならないなど、工事そのものが大掛かりになりがちです。ソーラーカーポートの場合、何もない場所にカーポートをたてていくだけという工事となるので、施工費そのものが安くおさまる可能性が高いわけです。
ただ、設置するソーラーカーポートの数や施工条件などによっては、逆転する可能性もあるので、その点は注意しましょう。
駐車場による発電は、発電量が環境に左右されにくい
建物の屋根に太陽光パネルを設置する場合、向きや屋根の大きさ、周辺環境の影響で発電量が左右される場合があります。また、屋根の構造によっては、太陽光パネルの設置が適さないケースも考えられますよね。
しかし駐車場に設置するソーラーカーポートの場合、発電量が環境に左右されにくいという利点が得られるのです。通常、駐車場は、開けた場所にあるため十分な日当たりが確保できます。パネルの向きに関しても、それを考慮してカーポートを設置すれば良いだけなので、環境にあせて発電量が最大化するように設置していけば十分な発電量を確保することができます。さらに、建物から独立したカーポートの屋根にパネルを設置するわけなので「建物(屋根)の構造のせいでパネルが設置できない…」なんて問題も生じません。
駐車場の利便性を高めることができる
これは、発電量に関わるメリットではないのですが、工場や倉庫など、多くの人が出入りする施設にとっては非常にありがたい機能となります。
ソーラーカーポートは、発電機能が搭載されたカーポートのことを指しています。つまり、ソーラーカーポートを駐車場に設置すれば、自家発電ができるようになるだけでなく、駐車場に屋根機能を持たせることができるようになるのです。
駐車場に屋根があれば、雨の日でも駐車場の利用者が、乗り降りの際に濡れずに済むようになります。さらに、駐車場に停めている従業員や来客者の車を保護する機能まで高くなります。広い面積が求められる工場や倉庫は、周囲を山や畑に囲まれた郊外に建設されることが多いです。そのため、周囲には鳥などの小動物がたくさんいて、糞を落とされることで車が汚れてしまうことが多いのです。ソーラーカーポートは、こういった飛来物の影響から車を守るという屋根としても働いてくれるため、有用な設備としてオススメできます。
駐車場に太陽光発電を設置する場合のポイント
それでは最後に、工場や倉庫など、一般住宅ではなく事業用施設においてソーラーカーポートを設置する場合のポイントについてご紹介します。
先程からご紹介しているように、昨今では、建築物などに求められる省エネ・環境対策がどんどん強化されています。一般住宅でも、国が定める省エネ基準に適合しなければ税制優遇などを受けられなくなるなど、もはや太陽光発電などの環境対策設備の設置は必要不可欠なのではないかと考えられるようになっています。
ここでは、工場や倉庫などで、太陽光発電の導入を検討して、駐車場へ太陽光パネルを設置する際のポイントについて解説します。
ソーラーカーポートの設置方法について
ソーラーカーポートは、先ほどご紹介したように、既存カーポートの屋根に太陽光パネルを後付けするパターンと、屋根材そのものが太陽光パネルになっている一体型を設置するという二つのケースがあります。
既に、駐車場にカーポートを設置しているという場合、太陽光パネルを屋根の上にのせるだけの方が導入費用を抑えることができます。しかし、カーポートにパネルを後付けする場合、いくつかの条件を満たさなければならないのです。カーポートに太陽光パネルの後付けを考えた場合、既設カーポートの屋根材がポリカーボネート以外の素材を使用していることが大前提です。カーポートの屋根材として広く普及しているポリカーボネートは、衝撃や熱に強いという特長があるものの、パネルや架台を載せられるだけの耐荷重性は持っていません。したがって、既設カーポートにパネルが後付けできるのは、折板カーポートなど、金属製で耐荷重性があるものに限られると考えておきましょう。
また、既設カーポートの築年数も注意が必要です。一般的に、カーポートの寿命は15年程度と言われていて、当然、設備の寿命が近くなれば、建て替えが必要になります。例えば、築10年程度のカーポートに太陽光パネルを後付けした場合、5年後にはカーポートの建て替えが必要になり、再度パネルの工事を行わなければならないのです。この際には、単にパネルを載せる工事だけでなく、取り外しの工事まで必要になるので、無駄なコストがかかってしまうことでしょう。築年数がある程度経過したカーポートの場合、既存のカーポートを撤去したうえで一体型のソーラーカーポートを設置するのがおすすめです。
カーポートの屋根に後付けでパネルを載せるという方法については、一体型よりも導入コストが抑えられるものの、ソーラーカーポートの発電量は少なくなります。一体型の場合、反射光で発電できるなど、両面発電ができるのですが、屋根の上に搭載するモデルのソーラーカーポートは、屋根面だけでしか発電することができないからです。
工場の場合、工場立地法や改正省エネ法にも注目
工場への太陽光発電の設置の場合、工場立地法や改正省エネ法との関係性もきちんと調査しましょう。これは、ソーラーカーポートだけでなく、建物の屋根にパネルを設置する場合でも同じです。
まず、工場立地法については、太陽光発電設備が環境施設として認められるというメリットが得られます。工場立地法では、生産施設を敷地面積に対して一定の割合以下に抑え、同時に敷地内に環境施設を設置することを定めています。太陽光発電は、環境施設に認められるため、環境施設を設置するために新たに土地を確保する必要がなく、生産施設の面積を削る必要がありません。また、緑地の上に太陽光発電を設置する場合には、重複緑地として計上が可能になり、さらに敷地を有効利用しやすくなります。
改正省エネ法については、2023年4月以降、多くのエネルギーを使用する事業者に以下のような対策が求められるようになっています。
非化石エネルギーへの転換の促進
・工場等で使用するエネルギーについて、化石エネルギーから非化石エネルギーへの転換(非化石エネルギーの使用割合の向上)を求める
・一定規模以上の事業者に対して、非化石エネルギーへの転換に関する中長期的な計画の作成を求める
引用:経済産業省資料より
太陽光発電の導入は、これらの改正省エネ法への対応にもなります。
補助金が利用できるか確認する
事業領域でのソーラーカーポートの導入は、環境省の補助金が利用可能です。2025年度のソーラーカーポートの補助金については、先日、資料が公開されたので以下に貼り付けておきます。
補助金が利用できるかどうかは、設備の導入を相談する業者に確認してみましょう。
まとめ
今回は、太陽光発電の新たな設置方法として注目されているソーラーカーポートについて、工場や倉庫などの大規模施設の駐車場に太陽光発電を設置するメリットについて解説しました。
2050年カーボンニュートラルの実現が宣言されている日本では、建築物に対する省エネや環境対策が強く求められるようになっています。一般住宅においても、2030年以降の新築住宅は、ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)基準の水準の省エネ性能が確保されることが目標として設定されるなど、建物に求められる省エネ性はどんどん強化されているのです。
そして、工場や倉庫など、一般住宅とは比較にならないほど大量のエネルギーを使用する施設は、さらに厳しい省エネ基準などが求められるようになっています。自治体によっては、一定以上の規模を持つ施設には、既に太陽光発電などの再エネ設備の設置を義務化しているなど、事業を運営するためには環境対策を決して無視することができない時代になっているのです。
ソーラーカーポートは、再エネ設備の新たな設置手法として国も推奨しており、早めに導入に動くことで手厚い補助金を受け取ることができるようになっています。今後の日本では、省エネ、環境対策がさらに強化されると予想されるため、駐車場など、今までデッドスペースとなっていた場所を有効活用してみてはいかがでしょう。