2021年5月に、それまでビットコインに対して積極的な姿勢を見せていたアメリカのEVメーカー大手テスラCEOであるイーロンマスク氏が、その姿勢を転換したことが大きなニュースとなりました。
■ビットコインに積極的だったイーロンマスク氏がスタンスを転換
それまではビットコインなど暗号資産がこれからの決済手段として大きな役割を果たすようになるという考えのもと、巨額のビットコイン購入も明らかに。さらにその後、その一部を売却したこともニュースとなりました。イーロンマスク氏はこの取引について「ビットコインの流動性を示すため」と話しており、ビットコインは従来の通貨のようにこうして頻繁に売買するのが当たり前であるとのスタンスを示しました。
そんな同氏が突然、「ビットコインを維持するためのブロックチェーンは大量の電力を消費しており、環境負荷が高い」として、それを理由にテスラもビットコインに決済を停止したのです。
■「イーロンマスク砲」に市場は騒然
これにはマーケットも大きく反応し、1ビットコインが700万円をつけていた相場は急落。300万円台をつけるなど、相変わらずの暗号資産らしい荒っぽい値動きとなりました。その影響は株式市場などにも及び、その端を発したイーロンマスク氏の発言は「イーロンマスク砲」とも呼ばれました。
ここで重要なのは、彼がビットコインに対して今さら「環境負荷が高い」と述べたことです。ブロックチェーンを維持するために世界中で膨大なマシンが稼働し、マイニング競争が行われていることは、もちろん彼も知っているはずです。それを知ったうえでビットコインを大量購入し、しかも一部売却をしたときにテスラ創業以来最大の利益を上げたのですから、ビットコインの恩恵を世界一受けている企業であると言っても良いでしょう。そのテスラが今になって「環境負荷が高い」というのですから、いやはやそこが宇宙人とも揶揄される所以なのでしょうか。
ところで、この「イーロンマスク砲」には続きがあります。テスラがビットコインを売ることはなく、マイニングに使われるエネルギーが持続可能なものになり次第、またビットコイン決済を再開するとも述べています。EVのメーカーは、いわば環境企業です。その環境企業が電力の大量消費に加担しているのは道理が通らないので、電力の問題が解決するのであればいつでも暗号資産の世界に戻る、と言っているわけです。
■マイニング悪者説の克服、解消が今後のカギ
こうした暗号資産のマイニング悪者説は、以前より指摘されています。すでにビットコインのブロックチェーンを維持するための消費電力がヨーロッパの小国1つ分にも相当すると言われており、莫大なエネルギーを消費していることは間違いありません。しかもビットコインの取引が行われるたびにブロックが追加されるため、ブロックチェーンはどんどん長く、そして複雑化しています。そのためマイニングにもよりハイスペックな処理能力が必要となっており、この流れは今後も加速していくでしょう。
一部では再生可能エネルギーを用いたマイニングも始まっていますが、今後の暗号資産はどのエネルギーを使ってマイニングしているかという質が問われる時代になっていくことは間違いありません。この問題が解決すればテスラは暗号資産の決済を再開し、再び相場が高騰するのかもしれません。