こんにちは、石橋です。
いよいよ11月も終わりますね、気づけばもう年の瀬です。
すでに冬の足音が聞こえていますが、今回はすでに冬真っ盛りに突入している北海道の「熱い話題」を紹介したいと思います。
北海道では利用客の減少やメンテナンスコストの高騰に伴って、ローカル路線の廃線が相次いでいます。かつては石炭で栄えた町があちこちにありますが、今では石炭の採掘をしていません。そのため人口が減って鉄道の必要がなくなり、廃線となったところも多々あります。夕張市が財政破綻したことがそれを象徴していますが、夕張以外にも同様のところはたくさんあります。これは北海道のきわめてリアルな現実なんですが、それを逆手に取った面白いプロジェクトが動き始めました。それが今回紹介する、日高本線の廃線跡を活用する太陽光発電です。
プロジェクトの舞台は、北海道の真ん中から南に位置する日高地方です。図で示すと、このあたり。

苫小牧から襟裳岬に近い様似をつなぐのが、日高本線。北海道だけにとても長い路線で、元々は150kmくらいある路線でした。大阪からの距離でいうと名古屋の近くまで行けてしまうので、さすが北海道ですね。
ところでこの地図を見ると分かりますが、この日高本線は海岸線に沿うような路線です。平和であれば車窓から海が見える風光明媚な鉄道だと思いますが、2015年に発生した高波で大きな被害を受けます。線路の下には砂利のようなものが敷かれていて、それがクッションの役割を果たしています(これをバラストといいます)。高波をかぶってしまったことによって、線路の下にあった路盤やバラストが流れてしまい、線路だけが浮いた状態になったり、高波の圧倒的なパワーでぐにゃぐにゃに曲がってしまったりといった甚大な被害を受けました。
路線のほとんどが被災したため、バスで代行運行をしていたものの、実質的に廃線状態になって放置されてきました。それが遂に、2021年になった正式に廃線となりました。巨額の費用を投じて修理しても、大して乗る人はいない。こうやって地方からインフラがなくなっていくのはここだけではありません。寂しいというか、ちょっとリスクを感じる話でもありますね。
さて、ここからが本題です。こうして廃線になってしまった日高本線の敷地で、太陽光発電事業を始めるプロジェクトが立ち上がりました。北海道電力とJR北海道、そしてENEOSの再生可能エネルギー関連会社がコラボレーションをして、廃線跡に太陽光パネルを設置して電力供給を担うというわけです。
この事業で私が感じる大きな意義は、3つあります。
1つは、遊休地の有効活用と地域振興です。廃線跡というと、「衰退していく地方」を象徴するようなイメージをまとっていますよね。実際に衰退しているからこそ廃線になるわけですが、そこには今も人が住んでいて、地域経済もあります。廃線跡の太陽光発電が、それぞれの地域経済に貢献することは間違いありません。しかも他の産業と違って基本的に放置していて発電をしてお金を稼いでくれるのですから、過疎に悩む地域にありがちな人材確保の問題に直面する可能性も低いでしょう。その一方で一定の雇用を生み出す効果もあるわけで、過疎地域だからこそできるビジネスに目を向けるのはとても前向きだと思います。
このプロジェクトではオフサイトPPAといって、遠隔地にある発電所からの電力を再生可能エネルギーとして利用するスキームを採用しています。これにより、大口の電力消費家であるJR北海道は電車を走らせたり駅舎などの設備を維持するために使用する電力の一部を再生可能エネルギーでまかなうことができます。ゼロカーボンが叫ばれている昨今、もう使われなくなった(使えなくなった)廃線跡を活用して、脱炭素企業になれるとするならこれ以上はないほどの有効活用ではないでしょうか。これが、2つ目の大きな意義です。
そして3つ目は、最近よく問題になるメガソーラーの立地問題と無関係でいられることです。私は個人的に、この3つ目の意義が一番大きいのではないかと思っています。
同じ北海道では釧路湿原にメガソーラーが設置されることが大きな問題になっています。世界的な自然遺産である広大な釧路湿原でわざわざ太陽光発電をすることはないだろうと私も思うほど、かなり無理筋の計画です。他にも遊休地はいくらでもあるわけで、他に利用する価値のある土地、他の価値がある土地でメガソーラーをやるのは、再生可能エネルギービジネスの最前線にいる私も反対の立場です。そんなことをするから、真っ当に計画されているメガソーラーまで白い目で見られている部分がありますしね。
廃線跡にはかつて、鉄道が走っていました。鉄道は地域の足として役立つ一方で、公害の発生源でもあります。騒音やディーゼルカーであれば排気ガス、さらに昔であればトイレから排出される糞尿などなど。また、鉄道があることで踏切事故などのリスクもあるわけで、廃線になってヤレヤレと思っている人もゼロではありません。
そんな土地ですから、全く音を発することのない発電施設が設置されたとしても、「鉄道よりはマシ」と考える人もいます。しかも廃線跡はとても長細い土地だけに有効利用の選択肢も少なく、他に利用する価値は乏しいの現実です。そのため、ほとんどの廃線跡は放置されたままです。放置されているせいで不法占拠や不法耕作などの問題が起きているところもあります。
都市部の廃線跡であればそこを駐車場や地域の公共スペースにするなどの活用法もあります。実際、大阪にある廃線跡の多くは何らかの形で活用されています。しかし、北海道の過疎地にある廃線跡を活用するといっても、選択肢はおそらく発電所くらいしかないでしょう。ここに目を付けたのは、本当に意義があると思います。
この活用事例が成功するかどうかは、今後も全国各地の過疎地で発生する廃線跡の活用に大きく影響するでしょう。個人的には、成功してほしいと強く願っています。

