こんにちは、石橋です。
最近はメガソーラー開発に対する風当たりが強いですが、それを象徴するような問題が北海道で起きています。
それは、釧路湿原メガソーラー開発問題です。
聞いたことがあるという方も多いと思いますが、この問題の本質がどうもうまく世の中に伝わっているように思えません。
そこで今回は、釧路湿原で何が起きているのか?何が問題の本質なのか?という点を太陽光発電の専門家目線で語ってみたいと思います。

まずは、この問題を整理しておきましょう。
事の発端は、世界的な湿原として知られる釧路湿原に近い民有地に開発業者がメガソーラーの計画を立て、その工事を始めたことにあります。
6,600枚ほどの太陽光パネルを設置するというのですから、かなりの規模です。メガソーラーの中でも本格的な発電施設といっていいでしょう。
民有地に発電所を作る、これだけなら特に問題にならなかったはずです。しかし、問題は着工当時からありました。
何が問題で、何を指摘されているのかを整理してみました。
・森林法の許可を得ることなく森林を伐採していたことが発覚
・メガソーラー予定地の近くにはタンチョウヅルやオジロワシの生息地があり、それを脅かす可能性がある
・いろいろな問題を指摘されるも「すでにかなりの投資をしているので、今さら立ち止まれない」とコメントしたことさらなる炎上を招く
特にこの問題を大きくしたのは3つ目のコメントではないでしょうか。
「法律に違反して貴重な自然がある場所の森林を勝手に伐採して、開き直るとは何事か!」というわけですね。私もこれについては、ごもっともだと思います。
太陽光発電ビジネスに携わる者として、こういうことをしてくれると風評被害が起きるので、勘弁してよ、というのが本音です。
この問題が拡散・炎上していくのにつれて、問題の本質がすり替わってきているように感じます。
太陽光発電=中国、メガソーラー開発=中国による侵略、みたいな論調です。
メガソーラーを設置している企業の中には外資系企業もありますが、その場所はほとんどが田舎の遊休地です。土地活用の数少ない選択肢として採用されている事例が大半なんですが、こういう既存の自然を破壊するような事例が出てくると、全部が「けしからん!」となるのは最近特に強まっている風潮ですね。
こういう論調を声高に叫ぶ人たちに聞きたいのですが、それではどうすればこの問題を解決できるのか、また同類の問題再発を防げるのか、という点です。
釧路市も検討しているようですが、今後の新たなメガソーラー開発を規制するようにするか、もしくは外資の参入ができないように法整備するか、もしくは・・・?
メガソーラーの規制は、再生可能エネルギーの普及・発展の観点からは時代に逆行すると思います。本当に利用価値の低い土地を太陽光発電所として活用することは土地の所有者、周辺の電力需要家、そして社会にとってきわめて有益です。
しかし、だからといって何をやってもいいわけではありません。そんなことは、当事者の誰もが分かっているはずなんです。
「中国にとっては日本の自然を破壊できて一石二鳥なのではないか」なんて主張もあるみたいですが、そんなことをしたら以後のビジネスをやりにくくなるので、むしろ普通にビジネスをしている印象です。
釧路湿原のメガソーラー開発をしようとしているのも日本の企業、しかも大阪の企業ですしね。
この問題の本質は、制度設計にあると思っています。
釧路湿原の近くだろうと何だろうと、誰かが土地を提供しなければメガソーラー事業はできません。事業者がもともと土地を所有していたはずはなく、誰かが地主に「メガソーラーやったら儲かりますよ」「事業者が土地を高く買いますよ」と持ちかけているはずなんです。それに旨味を感じた地主が土地を手放しているからこそ、こういう事業が成り立ちます。釧路湿原のメガソーラーも、おそらくそんな構図でしょう。
しかも、土地はそのまま持っているだけでは固定資産税がかかります。そこにボロ家が建っている事例が多いですが、これってボロ家でも何でも建物があると「土地を活用している=遊休地ではない」と見なされるため、固定資産税が安くなるんです。しかも、6分の1にも。
逆に考えると、ボロ家がない更地は固定資産税が6倍になってしまうわけで、地主にとっては何かに活用しないと損をし続けることになってしまいます。
そんな地主の元に「太陽光発電なら問題を解決できますよ」と持ちかける人がいたら・・・言うまでもないですよね。
そして、もうひとつの制度設計の問題は、森林法の脱法行為です。天然の森林を伐採した場合、5年以内に植林をしなければならないというのが、森林法の規定です。今回の釧路湿原のケースではその許可すら取っていない部分があったそうなので論外ではありますが、正規に手続をしたとしても抜け道があります。
というのも、天然の森林を伐採したとしても太陽光発電に活用するのであれば、植林の義務が免除されるからです。国としては再生可能エネルギーの普及を優先しているということですね。
田舎の価値が低い土地であっても、メガソーラーなら活用できる。しかもメガソーラーとして活用したい事業者が高く買うと言っている。事業者にとっても、太陽光発電所にするのであれば植林義務がないので、まんまと安い土地を取得してメガソーラー事業ができる・・・。当事者の誰も損をしない構図になっているわけですね。
この構図が変わらない限り、同種の問題はどんどん起きるでしょう。再生可能エネルギーの普及を推進するのはいいんですが、その「質」にまで議論が及んでいなかったと思われます。
外資を排除するようにしたとしても、それは無意味です。
例えば中国資本が日本でメガソーラー事業をしたいと思った場合、日本にある既存の企業を買収したり日本人にお金を渡して会社を設立して、その会社が当事者になれば規制逃れができます。反社勢力がフロント企業を立ち上げて「シノギ」をするのと同じ仕組みです。
つまり、小手先の規制だけをしても意味がないんです。
こうした風潮って、特区民泊の問題とも似ています。
インバウンド需要でホテルが不足しそう、それなら民家を宿泊施設にできるように法整備をすればいい、そして特区民泊が乱立した結果、またぞろ「中国資本がやりたい放題をしている!」となったわけです。実際に民泊の多くは中国資本ですが、もちろん日本人の民泊投資家もたくさんいます。でもやっぱり、ここでも中国憎しなんですね。
そんな世論を受けて、大阪では一部の自治体が特区民泊から離脱を表明しました。世論に応えるという意味ではそれでいいと思いますが、今の時点で離脱を表明している自治体にはそもそもインバウンド客の宿泊需要がほとんどなく、直接の影響は受けていないと思います。ちょっと意地悪な言い方をすると、政治的パフォーマンスも含まれていそうです。
メガソーラー然り、特区民泊然り、何かにつけて中国がやり玉にあがりますが、そもそもこういう法整備をしたのは日本であって、それがどう運用されるのかというリスクにまで考えが及んでいなかった結果です。
地方の経済を疲弊させて、困った土地所有者がうまい儲け話に乗ってしまうのを止めないと、メガソーラー問題は今後も各地で起きるでしょう。そのたびに外資を悪者にしたところで本質的な解決はありませんし、ますます話が不毛な方向に進んでしまうだけです。
環境ビジネスや太陽光発電に対する正しい理解が進み(特に中央官庁や政治家にも)、メリットとデメリットをしっかり考慮した上での制度設計を強く望みます。もちろん、やってみてうまくいかないのであれば、修正すればいいんです。その動きがようやく起きているようにも見えるので、今後の動きにも注視したいと思います。

