こんにちは、石橋です。
今回は一見すると自然豊かな産業に見える農業について、実は深刻な環境問題について語りたいと思います。
農業の現場というと、のどかな田園風景が思い浮かびます。田んぼや畑にはたくさんの植物が栽培されているので、確かに豊かな自然が守られているように見えます。
もちろん植物が生育する過程では光合成によって二酸化炭素を吸収するので、その意味では環境保護に貢献しているといえます。しかし、農業を商業として成立させようとするとなおさら環境負荷を高めてしまう問題があります。
最も問題になっているのが、土壌汚染と水質汚染です。農業の効率を高めるために開発されている化学肥料や農薬はとても便利ではあるのですが、もともと自然界に存在していなかった物質です。そのため長期間にわたってこうした化学物質が散布されると土壌内に蓄積し、自然の働きだけでは分解できないものが残ってしまいます。これがやがて土壌汚染や水質汚染を引き起こし、環境破壊につながってしまいます。農業を効率化するために使ったものなのに、土壌や環境が汚染されてしまうと同じ場所で農業ができなくなるという本末転倒な事態も起きています。
土壌汚染はその場所だけの問題かもしれませんが、水質汚染を引き起こすとそこからの下流や海にも影響が及びます。それまで生活用水として使えていた河川の水が使えなくなったり、下流にある海域の海産物が食べられなくなるといったことも起きています。
このように土壌や水質の汚染が進むと、もともとそこで生活していた生き物たちが生きられなくなる可能性もあります。害虫を駆除するために使った農薬のせいで益虫(農業にメリットのある虫)まで住めなくなり、また別の農薬を使わなければならないといった事例もあります。こうなると農地は自然の一部ではなく、工場のような立ち位置になります。土地が荒れると自然環境や生態系が破壊され、不毛の地を増やしてしまいます。アマゾンでの焼き畑農業が砂漠化を進行させているとの指摘がありますが、こうした農業による自然破壊で砂漠化してしまった土地も相当数にのぼります。
もうひとつ、看過できない問題もあります。それは農業がもたらす地球温暖化です。農業で栽培している植物が二酸化炭素を吸収するのが良いのですが、その一方でビニールハウス栽培をしている農地ではビニールハウス内部を温めるために暖房を使います。その暖房のためには石油を使うのが一般的なので、巨大な暖房設備が稼働することになります。これが排出する二酸化炭素は、同じ農地で植物が吸収する量の比ではありません。ビニールハウス栽培が普及したおかげで、私たちは季節外れの野菜や果物を食べることができます。真冬にスーパーやデパ地下にイチゴが並んでいる風景を見たことがある人は多いと思いますが、これもビニールハウス栽培の恩恵です。クリスマスシーズンになるとケーキにイチゴを載せることも多いですが、これを作るために環境負荷が高まっているということですね。
こうした問題は日本よりも、海外で深刻化しています。農業の市場規模が大きく、ビジネスとしての農業が活発な国ほど自然環境へのダメージも大きくなるため、それらの国々では農業による環境問題が問題視されています。
そうした国々で注目されているのが、循環型農業です。今の世代だけでなく持続性のある農業モデルの構築です。化学肥料を使う代わりに伝統的な自然由来の肥料を使うというのは、最も分かりやすいモデルです。日本の里山では家畜や人間の糞尿を発酵させて肥料にするのが一般的でしたが、これは循環型農業といえます。自然由来のものは、最終的に微生物が自然に還元します。そのサイクルは永続性があるので、いつまで繰り返しても自然にダメージを与えることはありません。農薬の代わりに虫の天敵を飼うことで駆除するというモデルも、循環型農業のひとつのアイディアです。日本では古くから合鴨農法が行われてきました。
合鴨農法とは収穫が終わった田んぼで合鴨を飼うという農法で、合鴨が雑草や害虫などを食べてくれる上に、そこで糞をするため肥料もまいてくれるというモデルです。化学肥料や農薬ゼロで田んぼの健康を守ることができるため、素晴らしい日本の伝統的なアイディアです。
日本には、こうした素晴らしい伝統的な技術やアイディアがたくさんあります。いずれも先人の知恵で、「もったいない精神」から始まったものばかりです。世界が環境問題に直面する中、日本のノウハウが役に立つ場面はとても多いと思うのです。
私が代表を務める和上ホールディングスでは、太陽光発電と農業を融合させた営農モデルを提案し、実際に農園の運営も行っています。畑の上に太陽光パネルを付けることで太陽光をシェアし、太陽光が当たりすぎないようにすることと太陽光発電による収益を両立させます。近年では夏場の暑すぎ問題が農業にも深刻な影響を及ぼしています。それなら日陰を作り、同時に発電もすれば一石二鳥というわけです。まだまだ本格的な普及は進んでいないように感じますが、個人的にはもっともっと拡大してほしいと願っています。