放置すると再エネ、日本経済にも悪影響?系統用蓄電池の空押さえ問題とは

石橋大右

2025.10.6 エネルギー問題石橋の考え

放置すると再エネ、日本経済にも悪影響?系統用蓄電池の空押さえ問題とは

こんにちは、石橋です。
今回も、弊社和上ホールディングスへのお問い合わせがとても多くなっている系統用蓄電池の最前線で起きている問題について論じてみたいと思います。

今回のテーマは、接続申請の「空押さえ」問題です。
何となくこの言葉の響きだけでも、制度の隙を突くような手口を連想されるかもしれません。手口というとまるで犯罪ですが、もちろん空押さえ自体は犯罪行為ではありません。
しかし、モラルの問題といいますか、制度的な欠陥といいますか、どちらにしてもこの問題を放置していると再生可能エネルギーの今後の発展に悪影響を及ぼす可能性が高く、環境問題や再生可能エネルギーの最前線で活動する者としては看過できません。

それではまず、系統用蓄電池の空押さえについておさらいしておきましょう。
空押さえというのは、実際に事業化する見込みが低いのにとりあえず接続申請をしておいて「接続検討」を取得し、蓄電池を系統に接続するための「枠」を確保しておこうとする行為のことです。

ちょっと例えは違うかもしれませんが、発売されてから大ヒットとなったニンテンドースイッチ2の転売問題と似ています。
ニンテンドースイッチ2は大人気商品だけに、発売と同時に手に入れたいと考える人がたくさんいました。それに目を付けた転売ヤー(自分が使うわけでもないのに人気商品を大量に仕入れて高値で転売するブローカー)がニンテンドースイッチ2に殺到し、中には何台も購入することに成功した人もいました。その人たちは早速ネットで転売し、荒稼ぎをしました。
この問題の本質は、自分が使うわけでもないのに人が欲しいと思っているものを横取りするかのように大量に購入し、それを高値で転売して利益を上げている点です。マクドナルドのオマケでも、似たようなことがありましたね。
こうした行為が横行すると、本当に欲しい人が買いにくくなってしまい、どうしても欲しいとなると転売ヤーに高いお金を出して買わなければならなくなります。これっておかしいですよね。もちろん任天堂やマクドナルドは色々と対策を講じていますが、転売ヤーはそれをかいくぐって商品を購入しようとするので、いたちごっこです。
法律で禁止されているわけではないものの、モラル的にどうなの?と思われる行為。でも本人たちはお金のためなら何振りかまわず次の人気商品に照準を合わせて、大量に購入するための算段をしています。
話を系統用蓄電池に戻しましょう。系統用蓄電池の場合は転売をするわけではありませんが、とりあえず取得しておくと何かと有利になる接続検討を確保しておきたいと考える事業者によって、実現の可能性が乏しい申請が膨大な数に上っています。

なぜ、こんなことが起こるのか?理由は簡単です。
系統用蓄電池ビジネスが一気に注目を集め、自分も投資をしたいと考える人が殺到しているからです。人気が高まると、自分のところだけは少しでも有利になるようにと大量の接続申請をします。しかし、その多くは実現の可能性が乏しいため、空押さえというわけです。
空押さえをしてまでも枠を確保しようとする事業者が多いのは、系統接続に時間がかかるという事情もあります。
ここで、ひとつデータを見てみましょう。系統用蓄電池を所管している資源エネルギー庁のデータを見ると、2025年3月時点で系統への接続を検討している「接続検討」の受付数は、なんと約1億1,300万kW。これがどれほどの量かピンとこないかも知れませんので言い換えると、日本全国にある発電設備全体の半分近くです。これを知ると、いくらなんでも多すぎるやろ!となりますよね。
これだけ多くの接続検討、つまり順番待ちがある一方で、実際に系統に接続された系統用蓄電池の容量は、約23万kW。このあまりにも大きな規模感の差を見ると、いかに系統接続が大渋滞を引き起こしているかが分かります。

ここで、次の疑問がわいてくると思います。
なぜ、こんなに大渋滞が起きるほど系統申請が殺到し、空押さえをしてまで枠を確保しようとするのでしょうか?
その答えは、国の施策にあります。
ひとつは、電源オークション。正式には長期脱炭素電源オークションといいます。将来における電力の供給力を確保するためのオークションで、系統用蓄電池投資家はこれに参加することでビジネス的なメリットが期待できます。このオークションに応札するためには、接続検討を取得している必要があります。
もうひとつは、補助金。
系統用蓄電池に関連する補助金を申請するためには、接続検討回答書という書類が必要になります。
これらの制度は系統用蓄電池ビジネスへの参入を促す「オイシイ制度」なわけですが、これらの適用を受けるためにはいずれも接続検討が必要になるわけです。
かくして、実現性が乏しくてもなんでも接続申請をして接続検討の座を確保しようとする事業者が殺到しているということです。

私も系統用蓄電池の事業者として、事業者の立場は理解できます。
とりあえず複数の土地で接続検討を申し込んでおいて、その中で事業の実現性や収益性が見込める土地でのみ事業化を進め、他のところは捨てるようにしておけば、より確実に事業化が可能になります。
これだけ接続検討が殺到して大渋滞を引き起こしているのですから、とりあえず順番待ちには入っておきたいという思惑ですね。

しかし、この状態が続くことは意外に深刻です。
系統の容量は契約申し込み順で確保されていくため、空押さえの分も含めて系統の容量が確保されています。再生可能エネルギーの安定供給に貢献する系統用蓄電池の導入が進みにくいばかりか、逆に大規模な電力の需要家がなかなか接続できず事業を始められないといった弊害も考えられます。
特に最近ではAI関連のデータセンター需要が爆発的に伸びていて世界レベルでの競争が繰り広げられています。日本で起きている系統接続の空押さえのせいでデータセンター事業になかなか参入できないとなると、日本経済全体への悪影響が懸念されます。

こうした問題を打開するために、国も動き始めています。
国が取り組んでいる空押さえ対策、大渋滞対策については、次回のコラムでお話ししたいと思います。

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