深刻化する系統用蓄電池の空押さえ問題、国や業界の対策の現在地

石橋大右

2025.10.12 エネルギー問題石橋の考え

深刻化する系統用蓄電池の空押さえ問題、国や業界の対策の現在地

こんにちは、石橋です。
前回、当コラムでは系統用蓄電池の空押さえ問題についての現状と問題点について語りました。
今回はその後編として、前回語り足りなかった分として空押さえ問題への対策や諸々の現在地について、業界の最前線に関わる立場から語ってみたいと思います。

系統用蓄電池の空押さえ問題ってなに?という方は、ぜひ前編からお読みいただけますと幸いです。

【参考】放置すると再エネ、日本経済にも悪影響?系統用蓄電池の空押さえ問題とは

空押さえ行為が横行し、問題が深刻化すると、系統用蓄電池の存在意義そものが揺らぎかねません。私は長らく環境ビジネスに携わってきて、そんな風景を何度も見てきました。
国だって本気で脱炭素や環境保護を推進しようとしているのに、その制度に若干の甘さがあるがゆえに、それを悪用しようとする勢力は必ず出てきます。
系統用蓄電池の現場で起きている空押さえ問題も、まさにその流れにあるものです。

この状況は、もちろん国も認識しています。
それを受けて、系統用蓄電池の普及促進を所管する資源エネルギー庁は「次世代電力系統ワーキンググループ」という組織を立ち上げ、問題への対策取りまとめを進めてきました。
このワーキンググループがまとめた大きなポイントを紹介しましょう。

1つ目は、接続検討の申し込みを厳格化すること。これまでは誰でも申し込みができて早い者勝ちだったため、「とりあえず枠だけでも押さえておこう」という考えが働く構造になっていました(今もそうなっています)。それを厳格化することで、猫も杓子も接続検討を申し込む状況を止めようというわけです。
このポイントで私が注目しているのは、系統用蓄電池の設置工事について工事費負担金の支払期限を明確することを条件するという点です。本当に系統に接続して蓄電池事業をしようと思っているのであれば工事費の負担を想定しているはずで、資金調達にも具体的な計画があるはずです。それなら支払期限を明確にできますよね、というわけです。
実効性に乏しい計画で接続検討を申請しているだけだと、この部分で答えに詰まってしまうことでしょう。これはいいアイディアだと思います。

2つ目は、ノンファーム型接続の促進。
何のこっちゃ?となるかもしれませんので、ちょっと補足しましょう。
系統用蓄電池には、ファーム型とノンファーム型があります。めちゃくちゃ平たく表現すると、ファーム型は「あらかじめ容量が決まっている系統用蓄電池」で、ノンファーム型は「需給に応じて充電、放電の量が決まる系統用蓄電池」です。
現在、接続検討が殺到していてなかなか接続できない渋滞が発生しているのは、ファーム型の接続を希望する申し込みが多いからです。
これに対して需給に応じて柔軟に充電と放電を調節する方式であるノンファーム型は導入のハードルが低く、ノンファーム型の接続が増えることで混雑を緩和し、空押さえ問題の解消につながると期待されています。
このファーム型とノンファーム型の蓄電池の違いについては、私のブログでもう少し詳しく解説しているので、そちらもぜひ参照してください。

【参考】系統用蓄電池の「なかなか接続できない問題」をどう解決するか

ノンファーム型の系統用蓄電池は系統電力の需給によってどれだけ働けるかが変動するため事業者、投資家にとっては事業の安定性が影響を受けることになりますが、それでも系統への接続を優先したいと考えるのであれば、有望な選択肢といえます。

そしてもうひとつ、模索されている解決策があります。
これはなかなか条件が合致しないと難しい面はあるんですが、系統用蓄電池を設置する場所によっては、近隣に大規模な電力需要家が立地する可能性があります。工場やデータセンターなど、ですね。
こうした条件が整っている場合、大規模需要家にとっては電力の安定供給が大きな課題になります。系統電力に何らかのトラブルが起きて送電が止まってしまったから、サービスも止まりました・・・では済まされません。
それを回避するために、こうした大規模需要家は自前でバックアップ電源を設置することがあります。万が一停電になっても送電が回復するまでの間はそのバックアップ電源でサービスを継続します。
これを自社ではなく、系統用蓄電池にアウトソーシングする考え方があります。大規模需要が発生する場所の近くに系統用蓄電池事業をしている事業者がいるのであれば、両者が契約をすることによって、万が一の事態に電力を供給するバックアップ電源として活用することができます。
こうすることによって電力需要家は投資コストの圧縮につながり、系統用蓄電池事業者にとっては活用の幅が広がり「顧客」の確保にもつながり、WIN-WINですね。
こうした需要に応えるビジネスモデルを構築すれば、ファーム型接続にこだわる必要がなくなり、空押さえをしてまで枠を確保するという動機を削減することができます。

今回紹介した空押さえ問題への対策は、いずれもアイディアの段階です。
しかし国のワーキンググループで出され、議事録に残されているアイディアだけに、具体化していく可能性は高いでしょう。それもこれも、系統用蓄電池がまだまだ端緒についたばかりの新しいビジネスであり、未整備な部分があるがゆえのことです。
しかし、だからといって事業の有望性や電力の安定供給への貢献、ひいては再生可能エネルギーのさらなる普及に資することは間違いのない事実です。
こうやって紆余曲折をしながら、系統用蓄電池が本来の役割を果たせる市場環境になっていくことを望みます。

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