こんにちは、石橋です。
今回もお問い合わせの多い、系統用蓄電池についてのお話です。
とても魅力的な投資案件である一方、甘い話ばかりでもないことを再三このブログでお伝えしてきました。今回は、系統用蓄電池の最前線で今起きていること、今分かっていること、そして今後の見通しとして知っておくべきことをまとめてみました。

系統用蓄電池の収益モデルはいくつかありますが、そのなかのひとつに長期脱炭素電源オークションへの入札を前提としたものがあります。未来における電力の供給力を取引する仕組みで、その供給力が落札された事業者は、原則20年間にわたって固定された収入が約束されます。20年という長期目線で収益が確定するビジネスはそんなに多くはないので、系統用蓄電池の収益モデルとして大いに注目を集め、実際にオークションが行われた時には入札が殺到しました。この一点だけを見ても、長期脱炭素電源オークションによるビジネスモデルが魅力的であることが分かります。どれだけ言葉だけで「素晴らしい」と言っていても、実際に投資が殺到するのとは説得力がまるで違います。本当にお金が動いているところにこそ、ビジネスの真実があります。
去年(2024年)に行われた第2回のオークションでは、上限の5倍以上の入札がありました。他の募集枠が逆に上限に満たなかったため、その枠を蓄電池に回したほどです。その中には大手企業の名前もチラホラあったことを考えると、やはりビジネスとしての旨みを感じている企業がや投資家がいかに多いかが分かりますね。
さて、これが今後どうなっていくかについてもお話をしておきたいと思います。有望なビジネスには、必ず投資が殺到します。しかしすべての投資が実行されるのであればいいですが、期脱炭素電源オークションには募集上限があって、お金を出すと言っているのに全員が投資に参加できるわけではありません。ここに系統用蓄電池投資の難しさがあることは、すでに当ブログでお話をしている通りです。しかも日本の制度に魅力を感じて、海外勢も参入してきているため、余計に競争率を高くしている現実があります。
入札が殺到しているだけに今後は募集枠が拡大…と言いたいところですが、実は長期脱炭素電源オークションについては見直しが検討されています。現段階で分かっていることは、以下のとおりです。
1つ目は、系統用蓄電池が含まれる「蓄電池・揚水」の募集枠が第3回のオークションでは前回のほぼ半分にあたる800MWに縮小するかもしれないという点。ちなみに揚水というのは、余剰電力を使って水をくみ上げておいて、電力が必要な時にそれを流して発電する仕組みのことです。ダムなど高低差のあるところで揚水技術を導入すると、巨大な蓄電池のような役割を持たせることができます。この揚水は、オークションでは系統用蓄電池と同じカテゴリーに分類されています。今回よりも次回のほうが多くの入札があることはほぼ間違いがなく、その一方で上限が引下げられることで激戦の様相です。
もう1つは、対象となる蓄電池の厳格化です。蓄電池には運転継続時間によって仕様の違いがあって、「6時間以上」や「3時間以上6時間未満」といった分類があります。このうち後者にあたる「3時間以上6時間未満」は第3回のオークションでは対象外となる可能性が高いです。
いずれも「嬉しい悲鳴」に基づく措置ですが、競争が激化するといくら有望なビジネスであっても参入できないことがリスクになります。長期脱炭素電源オークションによるビジネスモデルの実践が難しいとなったら、どうするべきなのでしょうか。
その場合に最もシンプルなのは、JPEXを介した価格差のアービトラージです。当ブログをずっとお読みいただいている方であればすぐにご理解いただけると思いますが、専門用語が出てきましたね。JPEXとは日本卸電力取引所のことで、発電事業者や小売電気事業者などが電力の売買をする市場です。このJPEXを利用して安い時間帯に充電した電力を電力単価が高くなる時間帯に放電(売電)すれば、その価格差が利益となります。これを、電力価格差のアービトラージといいます。JPEXは電力を自由に売買できるため、長期脱炭素電源オークションで落札されなかったとしても、こちらで収益を目指すことは十分可能です。
ただし、JPEXは自由に電力を売買できることが大きな役割です。時価は常に変動するため、長期脱炭素電源オークションのように20年間利益が固定されるといったこともありません。短期的に大きな利益を上げることがある一方で、利益が少なくなる可能性もあります。
今回は、系統用蓄電池の最前線で起きていることや、参入を検討している方が現段階で知っておくべきことをお伝えしました。とても目まぐるしく状況が変化している世界だけに、来年の今頃はまた全然違う風景になっているかもしれません。だからこそ最前線からの情報は重要です。これからも最前線に携わっている者という立場をいかして、有益な情報をお届けてしていきたいと思います。

