過熱する系統用蓄電池ビジネス、しかしそこには「闇」も見え隠れする

石橋大右

2025.7.9 エネルギー問題

過熱する系統用蓄電池ビジネス、しかしそこには「闇」も見え隠れする

こんにちは、石橋です。
先日、系統用蓄電池がアツい!とするお話を投稿しました。前回は有望な投資案件として紹介しましたが、今回は最前線にいる者として感じていること、すでに起きている問題などについて語っていきたいと思います。

系統用蓄電池がビジネスとして有望なのは間違いありませんが、今回は「闇」と思える部分についてもスポットを当ててみたいと思います。「闇」といっても犯罪まがいの問題があるわけではないのですが、有望なビジネスにはありがちなことなのかなとも思います。

系統用蓄電池の収益モデルのひとつに、長期脱炭素電源オークションがあります。これは2023年に新設された制度で、平たく言えば「電気の供給力」を取引する仕組みです。長期的に脱炭素電源を確保して安定供給するために、その供給力を担う事業者をオークションで募っているわけです。
この制度が面白いのは、従来からある電力会社をはじめとする電気事業者だけでなく、一般企業もオークションに参加できることです。このオークションに入札をしてそれが落札されると、原則20年間にわたって落札価格で電力を買い取ってもらえるため、少なくとも20年間は電力を供給することで利益が確保されます。これまで電力事業と縁のなかった企業も収益を得るひとつの事業として参入できる点は良いことだと思います。

しかもその電源に、蓄電池も含まれています。つまり系統用蓄電池を設置してオークションで落札されれば、20年間にわたって利益が約束されることになります。十分採算の取れる価格であれば、これは確かにオイシイと思います。蓄電池の他には太陽光発電や水力発電なども含まれているので、これらの発電設備を持っている企業も参入しやすいと思います。このように脱炭素電源を広く募って、クリーンな電力を安定供給してこうという制度なのですが・・・。

実際に蓋を開けてみると、入札のほとんどが系統用蓄電池でした。蓄電池部門には募集上限が設定されていたのですが、その上限をはるかに上回る入札がありました。その一方で、蓄電池以外の部門への入札は少なく、募集上限に満たないレベルだったのです。結局、蓄電池以外の部門で入札が足りなかった分を蓄電池部門の上限を拡大することで補い、さながら「蓄電池電源オークション」のようになってしまいました。
なぜ、こんなことになったのか。理由は2つあります。1つは、系統用蓄電池ビジネスが「解禁」されたことで、参入する事業者が急増したこと。それだけオイシイということです。そして2つ目は補助金制度の縮小です。系統用蓄電池は電力の安定供給や脱炭素化に資するとして補助金制度があったのですが、導入が進むにつれて制度が縮小し、旨みが少なくなってしまいました。そこで、何らかの支援的制度はないかと模索した結果、長期脱炭素電源オークションに目を付けた事業者が殺到したわけです。この制度を活用すれば、実質的に国の支援を受けながら事業を展開することができます。さすがにこの状況が続くと制度そのものの主旨に沿わないとして、何らかの改正が加えられるかもしれません。同じことを考える事業者も多そうなので、それならなおさら今のうちに!と考えてさらに殺到してしまう・・・なんてことも考えられますね。

このように活況を呈している系統用蓄電池業界ですが、現場では実務が追い付かない問題も起きています。系統用蓄電池は系統(送電網)に接続しなければ意味がないのですが、系統連系(蓄電池を系統に接続すること)の「渋滞」が起きています。蓄電池を設置して申請をしても、なかなか系統連系できない事態です。あまりにも待たされると機会損失が大きくなりますし、こんなことが続けば系統用蓄電池ビジネスへの意欲も削がれてしまうでしょう。
こうした「渋滞」の原因として問題視されているのが、実際に系統連系するつもりがあるのかどうか疑わしい過度の申し込みです。系統連系の接続検討申し込み件数は1つの申請あたりせいぜい1件や2件というのが普通ですが、1回の申請で50件もの接続検討申し込みをしたりといった行為が横行しています。さすがにこれだけの件数の系統連系を実際にするつもりがあるとは思えませんが、それでも申し込みを受け付けたら処理しなければならず、「渋滞」に拍車をかけてしまいます。

この問題を知った時、私は太陽光発電業界でかつて起きていたことを思い出しました。太陽光発電のFIT(固定価格買取制度)が始まった当初、買取価格の単価は今よりもはるかに高くて40円以上でした。その当時、電力買い取りの申請をしたものの、なかなか太陽光パネルを設置せず、「仮押さえ」のような案件が多く、将来的に買取価格が下がる前に好条件の申請だけしておくといったことが横行しました。
しかも高額買取の権利だけを持っておいて太陽光発電システムの導入価格が下がっていけば、より利益が大きくなります。それを狙った事業者が未稼働案件を増やしてしまい、遂には「3年間稼働開始しない場合は失効」といったルール改定が行われたのです。今回の系統連系大量申請についても問題が表面化してくると、この時のような対策が出てくるのではないかと思います。
この当時の太陽光発電未稼働問題しかり、今回の系統連系問題しかり。制度の主旨に反するようなことを考える事業者がいるから問題が起きるのです。

和上ホールディングスはこの当時から太陽光発電や電力事業と向き合ってきました。色々と問題を抱えつつも、系統用蓄電池が今もなお有望なビジネスであることは変わりません。参入すれば誰でも儲かるといった甘いことは言わず、常に現場で起きていることをリアルにお伝えしていきたいと思います。

  • 事業内容
  • メール相談
  • 電話相談