もはや日本全国の問題となりつつある電力不足。
いざ夏になってみると意外に暑くないので、当初の話ほど深刻な感じはありませんが、それでも10%や15%の節電が呼びかけられているのは事実なので、電力不足の問題が根本的に解決されたというわけではありません。
特に東京は、あの東京電力の管内ということで福島県にある原発からの送電は当然ながらストップしたままなので、電力不足は最も深刻です。今では行われなくなりましたが計画停電という聞いたこともないような事態も起きました。
さて、計画停電が実施されている真っ最中でも、東京のど真ん中で電力不足と全く無縁だったところがあります。
それは、六本木ヒルズです。
六本木ヒルズというと、超高級マンションや勝ち組企業がこぞって入居する森タワーなど、セレブのための施設という意味で知られている側面が強いのですが、実際にはそれと全く違うコンセプトがあることをご存知でしょうか。
そのコンセプトとは、「逃げ込める街」です。
逃げ込める街というのは、将来予想される東京での大地震などが起きた際、最も災害に強い街にすることで他の地区から人々が逃げ込めるようにするという意味です。
そのために、六本木ヒルズが高い投資をして建設したのが地下にある発電所です。この発電所は天然ガスを使ったガスタービン火力発電所で、現在全国各地で建設が検討されている最新鋭のものです。
火力発電所というと石油や石炭を使ってCO2を排出して…と、これまではあまり良いイメージを持たれませんでした。しかし、最新鋭の火力はこうした問題を高いレベルで克服しています。
まず、エネルギー供給の問題。ガスタービン火力発電で使用する天然ガスは世界的に資源がだぶつくほど豊富に採掘されており、今後数百年は安泰ではないかと言われるほど魅力的なエネルギーです。そのため、供給コストも安くなっています。
次に、安全性の問題。大地震などでは電気やガスなどのインフラが寸断されるということが現実に起きています。しかし、インフラ各社もそういったことへの対応をしっかりと研究しています。中圧ガスと呼ばれる都市ガスは振動や引っ張りなどに強く、実際に東日本大震災が起きた際にもしっかりとガスを供給し続けました。
六本木ヒルズはその上にも安定性を高めるため、ガスの供給が止まったら備蓄している灯油で発電を継続するという仕組みになっているから、あっぱれです。
最後に、環境の問題はどうでしょうか。燃料を燃やすことで発電をするのですから、CO2排出が心配です。その点についてもガスタービン火力発電はエネルギー利用効率が非常に高く、CO2排出は化石燃料の中で断トツに低いという特性を持っています。さらに、六本木ヒルズでは発電時に発生した熱をヒルズ内の空調や給湯に使用するコージェネレーションを構築しているので、廃熱すら無駄にしません。
環境というのは、何も地球規模の問題だけではありません。
六本木ヒルズの担当者が語るコンセプトには、とても人に優しい配慮が随所に見られます。例えば、ガス発電の排出ガスの視覚的な配慮。排出ガスの中には水蒸気が多く含まれているので、そのまま地下から放出すると煙が出ているように見え、火災だと思う人がいてはいけないということで、排出ガスの熱をコージェネレーションに利用して温度を下げてから排出します。
実に心憎い配慮で、都市型発電施設のお手本になって欲しいものです。
こんな素晴らしい施設が東京のど真ん中、六本木の地下深くにあるのです。
ガスタービンの設計と製造はIHI(石川島播磨重工)、システム全体の構築は新日鉄エンジニアリングが担当しています。そうです、全て日本国内の企業によるもので、メイド・イン・ジャパンです。
さて、この「六本木発電所」は、当然ながら東日本大震災の停電や節電とは全く無縁でした。このことが入居しているテナントにどれだけの安心感を与えたかは、言うまでもないと思います。
むしろ、この震災を契機に六本木ヒルズの危機管理に注目が集まり、テナント入居の引き合いが増えたというのですから、これを設計した人の思いが見事に報われたことになりますね。
さらに、この「六本木発電所」は東京の電力不足解消へ貢献しようということで、3月18日から4月30日までの1ヶ月半、1日あたり4000kWもの電力を東京電力に送り続けたのです。
東京のど真ん中にあって、万が一の際には逃げ込める街、六本木ヒルズ。
こんな街が大都市の地下深くで今日も頑張っていることを、多くの方に知ってもらいたいと思いました。