国産ジェット機が世界の大空を飛び交う日

石橋大右

2011.6.17 石橋の考え

国産ジェット機が世界の大空を飛び交う日

MRJというプロジェクトをご存知でしょうか。
三菱航空機という三菱グループの航空機メーカーが、現在製造を進めている国産のジェット機です。
ミツビシ・リージョナル・ジェットの略で、現在需要が増え続けているリージョナル・ジェットという100人程度が乗れる小型旅客機です。

ジェット機というと、ほとんどの方が想像するのはボーイングです。
「ボーイング747」は、ジャンボジェットとして最も有名な飛行機です。
その他にも「ボーイング767」「ボーイング777」など、日本でもお馴染みの旅客機はたくさんあります。
現在、世界の航空機市場というのはアメリカのボーイング社と、ヨーロッパのエアバス社が大きなシェアを握っています。
しかし、ここに来てその市場の勢力図に若干の変化が見られるようになりました。
ボーイングやエアバスが製造しているのは大型ジェット機がほとんどで、世界の大都市間を結ぶような便にもっぱら利用されています。
しかし、経済成長を続けている国が多くなってくると、それぞれの国の中での移動や近距離の国際間移動が多くなってきており、それほど長くない距離の便をきめ細かく就航するという傾向が見られます。
そこで重宝されるのが、航続距離3000km以内で、乗客数が100人程度という大きさの、リージョナル・ジェットです。

リージョナル・ジェットの市場は拡大し続けており、ここ20年以内にも数千機もの需要があるとされています。
この魅力的な市場を現在事実上掌握しているのが、カナダのボンバルディア社と、ブラジルのエンブラエル社というメーカーです。
これらのメーカーは小型ジェット機で急成長をしており、大きな利益を上げ続けています。

MRJは、このリージョナル・ジェットの市場に参入を目指しています。

私も思ったことなのですが、これを見て同じことを思われた方が多いのではないでしょうか。
それは、「日本ほどの技術大国が、なぜこれまで航空機市場に参入してこなかったのか?」という疑問です。

全く、その通りです。
事実、ボーイングなどに多くの部品供給をしているのは日本のメーカーで、それらの部品がないと世界各国のメーカーは飛行機を製造することができません。
ならば、最初から日本のメーカーが参入すれば良いのに?

ここには、日本の航空機製造の歴史が大きく関係しています。
細かいことは割愛しますが、かつて日本にも優秀な航空機メーカーがありました。
中島飛行機や三菱重工業、愛知航空機などです。
もっとたくさんあったのですが、現在はいずれもありません。
それはなぜか?
理由は第二次大戦です。
日本は優れた技術力により、高い戦闘能力を持った戦闘機を次々と製造し、それらが大きな戦果を収めました。
日本軍の象徴的な戦闘機であった零戦は連合国から「ジーク」と呼ばれ、とても脅威として見なされていました。

これでもう、説明の必要はありませんね。
再び戦闘能力の高い戦闘機を製造することがないように、連合国は日本から航空産業を奪ったのです。
蓄積されていたノウハウや技術というのは一度途絶えると、なかなか元のようにはなりません。
これで、日本の航空機産業は一旦火が消えました。

しかし、現場の技術者や航空業界の人たちは、日本の航空機製造をあきらめませんでした。
戦後になっても、再び世界一の飛行機を作りたいという情熱を燃やし続けました。

国や三菱グループが中心となって開発され、戦後初の量産航空機として製造されたのが、伝説の名機「YS-11」です。プロペラ機全盛の頃は日本をはじめ、世界各地の空を飛び続けました。
最近になって遂にその役目を終え、世界の空からYS-11は消えました。
現在では現役として活躍しているのは自衛隊のみです。

そして時は流れて、世界の旅客機はジェット機が主流になりました。
プロペラ機よりも高度な技術を要するジェット機市場に日本のメーカーが入り込む余地はほとんどなく、長らく部品供給でしか関与できないという時代が続きました。
しかし、そんな事業を通じて蓄積された技術は世界トップクラスのものとなり、やがて「日本で航空機を作りたい」という願望が技術者の間で大きくなってきたのです。

これから参入するのであれば、市場の大きいリージョナル・ジェット。
その市場に、日本のメーカーが堂々と殴りこみをかけてやろうというのが、このMRJです。
2011年現在、まだ実機はありません。
あくまでも設計図の上での“紙飛行機”なのですが、日本メーカーの高い技術力を結集したMRJは設計段階から話題になっており、現在世界市場を席巻しているボンバルディアとエンブラエルと充分勝負できる性能を持っています。

最初に購入を決めたのは、事実上日本トップのエアラインとなっている全日空でした。
開発の段階から購入を決めて一緒に開発から関与していくメーカーのことをローンチカスタマーというのですが、全日空はボーイング787でも同様の戦略をとっています。
全日空が購入を決めたのは25機。
そこからしばらくの間はノーヒットが続き、ヨーロッパの航空ショーにおいてもロシアメーカーに契約をさらわれるなど苦渋を経験したのですが、その後アメリカのトランス・ステーツという大手航空会社から100機という大量受注に成功します。
その後も欧米やアジア圏で熱心な営業活動を展開した結果、本日またもやグッドニュースが舞い込んできました。
香港のANIグループという航空機リース会社から5機の受注に成功したのです。
この会社は東南アジアなどで航空会社に対して飛行機をリース提供している会社で、購入予定のMRJをインドネシア路線に使用する意向だということです。

まだ1機も実機がなく、2014年まで初飛行がないという状況の中、すでに130機もの受注を獲得しているMRJは、高い技術力が世界から評価されている証しです。
他にもヨーロッパやアラブの航空会社とも商談が進んでいるとのことで、次のヒットに期待することにしましょう。

暗いニュースが多い中、こうした痛快な仕事を成し遂げている航空業界の人たちにエールを送りたいと思います。

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