こんにちは、石橋です。
今回は太陽光発電の「2032年問題」について語りたいと思います。私はかねてより太陽光発電の「2019年問題」について語ってきましたが、次にやってくる「2032年問題」も本質は同じです。
本質が同じである以上、2019年と同様のことが起きると予想されます。そのため私は2032年にも同じことが起きると警鐘を鳴らしてきたわけですが、いよいよマスコミもそのことを報じ始めました。
ここで改めて、「2032年問題」についての解説と、その上でどうするべきなのかを提言したいと思います。ちょっと長くなるかもしれませんが、とても重要な問題なのでどうぞお付き合いください。

太陽光発電の「2032年問題」とは、2012年に始まった産業用太陽光発電向けのFIT(固定価格買取制度)が終了を迎えることで起きる諸問題のことです。これに先行して家庭用太陽光発電向けのFITは2019年から順次終了を迎えているため、それまで続いてきた優遇価格での電力買い取りも順次終了しています。個人向けのFITは2009年に制度がスタートし、固定価格での買い取り期間は10年です。2009年の10年後ということで、2019年から順次FIT期間満了を迎えるというわけです。
産業用太陽光発電向けのFITは2012年にスタートし、固定価格での買い取り期間は20年です。2012年から20年後の2032年に、今度は産業用太陽光発電でのFITが順次期間満了を迎えるわけです。
個人向けのFITが満了した家庭では、電力の買取価格が一気に低くなります。2019年にFIT期間満了を迎えるケースは買取価格が初期の高額だった可能性が高く、40円以上だった単価が10円未満になります。「売電収入を家計の足しに」という宣伝文句で設置を決めた人は多いと思いますが、FIT終了でその収入が4分の1、もしくはそれ以下になってしまうのは痛いですよね。
そこで私が代表を務める和上ホールディングスでは、これを「卒FIT」と位置づけて、FITが満了した家庭の電力買い取りや電力の自家消費モデルなどを提案、展開してきました。特に近年では電気代が高騰していることもあって電力の自家消費に対する関心が高くなっています。蓄電池を導入すれば太陽光発電による電力を売るのではなく自宅に貯めておくことができるので、夜間などにそれを使えば高い電力を買う量が少なくなります。これにより、FIT期間に得ていたメリットを引き続き違う形で得られるようになるので、家庭用太陽光発電の卒FIT対策として有効だと思います。
さて、話を「2032年問題」に戻しましょう。2032年になると産業用太陽光発電のFIT期間が順次満了となるため、固定価格での買い取りも終わります。産業用太陽光発電は元から全量売電といって売電収入を得るための「発電所経営」です。これまでの買取価格で買い取ってもらえないとなると採算性が一気に低下します。そもそも20年のFIT期間を前提に収支をシミュレーションしている案件も多いので、20年が経過したら売却するか発電所を閉鎖・処分するかというストーリーを描いている投資家も多いと思います。
こうした流れが現実に起きると、最も心配なのが小規模の太陽光発電事業者です。規模の大きな事業者であればFIT期間が終了した発電所を集約して特定の事業者に売電をするなどの動きもとれますが、小規模の事業者だとスケールメリットをいかせないので、それも難しいでしょう。そうなると事業から撤退、そして大量の廃棄物が発生・・・ということが懸念されています。太陽光パネルの寿命が20年から30年とも言われているので、それならいっそのこと事業を手仕舞いしようと考える投資家が多くいたとしても不思議ではありません。
なお、ここでいう小規模事業者というのは、発電所の出力が50kWまでの事業者を指します。イメージでいうと、空き地や農村部の休耕地、ちょっとした山の斜面などに設置されている発電所がありますよね、そういった発電所は出力50kW未満であることがほとんどなので、こうした「街の発電所」クラスのものを指すと考えてください。
こうした小規模な太陽光発電所はFITを目当てに事業を始めた可能性が高く、FITが終われば「用済み」となってしまうわけです。そのまま太陽光パネルなどが大量に廃棄されるようなことになれば、エコどころか環境負荷を高めてしまうリスクすらあります。しかも産業用太陽光発電の9割以上は小規模事業者によるものなので、これらの事業者がどう動くかによって重大な影響が考えられます。
国も「2032年問題」については認識をしているので、特に小規模事業者の集約化や大規模化を促進して乗り切ろうと考えているようで、そのための行動を始めています。
ここからは、環境ビジネスに長らく携わってきた代表者としての私見です。まず、FITはもう順次終了していく制度であり、「これまでが恵まれ過ぎていた」と考えるべきです。太陽光発電という再生可能エネルギーを普及させたい国の思惑によって始まった制度なのですから、いつまでも続くものではありません。太陽光発電にブーストをかけてきて一定の役割を果たしたのであれば、それが終わるのは当然でしょう。
大切なのは、ここから先です。FITが終了したからといってある日突然発電ができなくなるわけではありませんし、近年では太陽光パネルを長寿命化する技術も進歩しています。そうであれば、2032年以降も生み出される電力をいかに有効に活用するかのほうがはるかに重要です。
私たち和上ホールディングスは、「2032年問題」という言葉がささやかれるようになる前から、卒FITに向き合ってきました。その結論のひとつが自家消費モデルであり、もうひとつはNon-FIT電源です。また、「とくとくファーム」というサービスでは中古太陽光発電所の売買マッチングを提供しており、今後予想される小規模太陽光発電事業者による活発な売買、そして集約化に貢献したいと考えています。
先ほど言及したNon-FIT電源は、特に私が今後重要になると考えているキーワードです。Non-FIT、つまりFITに依存しない太陽光発電所からの電力です。
近年では環境意識がビジネスの世界に波及し、企業が使用する電力の「質」にも厳しい目が向けられています。欧米ではエシカル投資といって、石炭火力など環境負荷の高い電力を使っている企業には投資をしないという考え方も浸透しており、今や環境に背を向ける企業は投資不適格と見なされるリスクがあります。もちろん日本の企業も例外ではなく、ESGやSDGsなどの影響もあって環境品質の高い電力へのニーズが高まっています。そこで注目されるのが、Non-FIT電源です。太陽光発電による電力を安定供給し、企業はそれによってRE100などの第三者認証を得ることによって「環境品質の高い企業」になることができます。「FITに依存しない発電所経営をしたい」と考える事業者と、「環境品質の高い電力が欲しい」という需要家をつなぐことが、「2032年問題」の根本的な解決につながっていくのではないかと考えています。
この壮大なモデルを日本全国に張り巡らせるにはまだまだ道半ばですが、決して間違っていない方向性であると信じて、これからも歩みを続けていこうと思います。