産業用太陽光発電の黒字化を目指すには、設置前の事業計画やシミュレーションが大切です。しかし、収支のシミュレーションをどのように行うのがベストなのか分からない方も多いのではないでしょうか。 そこで今回は、産業太陽光発電の収支計算やシミュレーション方法について詳しくご紹介します。産業用太陽光発電の設置が始めたの事業者や収支の計算について調べている方は、参考にしてみてください。
産業用太陽光発電の収支をシミュレーションする方法
まず、産業用太陽光発電の年間収支をシミュレーションを行う方法について確認していきます。
手動で年間収支を計算
産業用太陽光発電の発電量や年間収支は、手動で計算することも可能です。
手動計算は、簡易的な方法と細かく計算を行う方法に分かれています。あらかじめ大まかな発電量や売電収入、年間収支を確認したい場合は、以下の計算式を用いるのがおすすめです。
- 出力1kWあたり年間の発電量1,000kWhと仮定
- 出力×年間発電量1,000kWh×売電単価=売電収入
- 売電収入-維持費用=年間収支
初期費用が発生しているので、年間収支からさらに初期費用を仮の回収期間で割った金額で差し引くと、1年間の大まかな収益を確認することが可能です。
年間収支をより具体的に求めるためには、年間発電量を正確に計算するのが大切です。後述で発電量の計算方法や年間収支を求めるために、必要なポイントを解説します。
ツールを用いた計算
近年では、太陽光発電のシミュレーションソフトが開発・販売されています。主に太陽光発電設置業者やパネルメーカーで使用しているものの、個人事業主などが購入することも可能です。
シミュレーションソフトは、設定項目が多く難しい操作もあります。そのため、専門的な知識が必要な場合もあります。
ただし太陽光パネルの設置角度やパネル出力、設置場所など複雑な要素を含めて発電量や年間収支などを簡単に計算できるのが大きなメリットとなります。
予算とシミュレーションソフトの学習時間に余裕のある方は、利用しやすいのではないでしょうか。
太陽光発電設置業者に依頼
太陽光発電の設置業者は、見積り依頼や問い合わせの際に発電量や年間収支のシミュレーションを行っています。一般的には設置予定地域の日射量やその他条件を用いてシミュレーションしてもらえますが、一部の悪質な業者は数値を誤魔化す場合もあります。
太陽光発電の設置業者から提示される数値を鵜呑みにするのではなく、自身で計算式や設置予定地域の日射量などを確認できるようにしておくのも大切です。
パネルメーカーの簡易シミュレーションを利用
太陽光パネルのメーカーや販売業者によっては、自社サイトで簡易的なシミュレーションツールを公開している場合があります。このような簡易シミュレーションツールは設置予定場所とパネルの設置枚数や角度、設置向きなどを入力すると年間の予想発電量や収支を、グラフなどで表示してもらえます。
簡易シミュレーションツールは、比較的簡単な内容でなおかつ無料利用できます。忙しい方や自分で計算するのが面倒と感じる方には、メリットの多いサービスです。
自分で発電量を計算するためには
前半で触れたように手動で発電量を計算するには、いくつかの要素を理解・確認しておく必要があります。そこで、ここからは自分で年間発電量や収支を計算する方法について紹介します。
売電単価と期間
産業用太陽光発電は、FIT制度を活用して売電を行うことができます。FIT制度は、一定期間固定の売電単価(固定買取価格)で電力会社へ売電を行うことができる制度です。
しかし、売電単価は毎年更新されているため、FIT申請年によって変わる点に注意が必要です。
【出力10kW以上:2018年~2021年の固定買取価格】
2018年 |
10kW以上2,000kW未満 19.8円(税抜18円)/kWh
2,000kW以上 入札制度によって決定 |
---|---|
2019年 |
10kW以上500kW未満 15.4円(税抜14円)/kWh
500kW以上 入札制度によって決定 |
2020年 |
10kW以上50kW未満 14.3円(税抜13円)/kWh
50kW以上250kW未満 13.2円(税抜12円)/kWh 250kW以上 入札制度によって決定 |
2021年 |
10kW以上50kW未満 13.2円(税抜12円)/kWh
50kW以上250kW未満 12.1円(税抜11円)/kWh 250kW以上 入札制度によって決定 |
たとえば、出力10kWの産業用太陽光発電を2021年にFIT申請した場合は、13.2円(税抜12円)/kWhで売電できるようになります。また、2019年に設置し2020年にFIT申請した場合は、FIT申請を行った年の売電単価が適用されます。
なお、固定の売電単価で売電できる期間は、産業用太陽光発電にかぎり20年間と定められています。出力10kW未満の住宅用太陽光発電は10年間です。
設置環境
発電量は、太陽光パネルの設置角度や方角、周辺環境によっても変わります。
太陽光パネルの設置角度は、一般的に30度が理想的とされています。ただし、地域や季節によって太陽の高度は変わるため、最適な設置角度も変わります。
季節や地域ごとの最適な設置角度は、NEDOのデータベースで確認することが可能です。
他にも周辺の建築物によって太陽光パネルに影ができると、発電量低下につながります。また、天候や太陽光パネル表面の汚れなどは、発電量に影響を与えるため注意が必要です。
太陽光パネルの種類
太陽光パネルに組み込まれている太陽電池には、さまざまな種類があります。
【主な太陽電池】
- 単結晶シリコン 20%前後
- 多結晶シリコン 19%程度
- 薄膜シリコン型 10%前後
- 化合物系 18%前後
太陽電池の変換効率は、経年劣化によって低下していきます。そのため、稼働1年目に変換効率20%を維持していても、5年や10年と経過するごとに数%程度低下する可能性があります。
初期費用
太陽光発電を新規設置する場合は、本体と設置工事費用がかかります。初期費用は、出力や本体価格、太陽光発電設置業者によって変わります。そのため、設置前に正確な費用を算出するのは難しい要素です。
ただし、経済産業省で公開している「調達価格等に関する意見」のシステム費用で、一般的な設置費用を確認することができます。
2021年の設置費用は、1kWあたり25.3万円です。出力50kWの産業用太陽光発電は、約1,265万円の初期費用となります。
年間の維持費用
年間収支を計算するには、初期費用に加えて維持費用も把握しておく必要があります。
産業用太陽光発電の維持に必要な費用項目は以下の通りです。
- メンテナンス
- 固定資産税
- 保険料
年間の維持費用は、前述と同じく「調達価格等に関する意見」の費用で、一般的な設置費用を確認することができます。出力50kWの産業用太陽光発電は、約50万円の維持費用となります。
発電量を計算
産業用太陽光発電の出力と設置予定場所、その他項目を把握できれば、年間予想発電量を計算することができます。
年間の発電量は、以下の計算式で求めます。
- 出力×設置予定場所の日射量×損失係数×365日
日射量は、NEDOなど各種データーベースで確認することが可能です。
損失係数は、以下の項目で構成されています。一般的には80%程度でシミュレーションされています。
- 太陽電池の温度上昇で発生した損失
- パワーコンディショナの損失
- 各設備の損失
たとえば「出力10kW×設置予定場所の日射量5kWh/㎡×損失係数80%×365日」と仮定した場合は、年間の発電量14,600kWhです。
年間の発電量を算出できた場合は、年間収支の計算へ移ります。
発電量から年間収支を計算
年間収支の計算は、前半で触れたように「売電収入-維持費用-初期費用(1年分)=年間収支」で求めることができます。
売電収入については、年間の発電量14,600kWh×12.1円(税抜11円)/kWh=176,660円と仮定します。
また、「調達価格等に関する意見」で公開されているデータを基に維持管理費用と初期費用を計算していきます。さらに初期費用は、約20年で回収完了予定として計算します。
前述で計算した発電量の場合は、年間収支「売電収入176,660円-維持費用5万円-初期費用(1年分)約12万円=年間収支+約6,660円」です。
このように年間収支は、ソフトを使用せずに計算できます。ただし、維持費用や初期費用は、太陽光発電設置業者へ見積りを依頼しなければ正確な金額を把握できません。
自分でシミュレーションを行ったあとは、太陽光発電設置業者などへ年間収支のシミュレーションを依頼してみると、より具体的な数値を確認できます。
産業用太陽光発電のシミュレーションでは利回りも大切
産業用太陽光発電の設置を検討する際は、利回りを考慮してみるのも大切です。太陽光発電における利回りは、初期費用や維持費用に対する売電収益の割合を指します。表面利回り
表面利回りは、維持費用を含めずに収益の割合を計算したものです。
- 年間の売電収入÷初期費用×100=表面利回り
利回りは、高ければ高いほど効率的に収益を得られると判断できます。しかし、表面利回りでは維持費用を含めていないため、実際の利回りよりも高めに算出されてしまいます。
実質利回り
実質利回りは、維持費用も含めて収益の割合を計算したもので、表面利回りよりも2%程度低く算出されます。
- (年間の売電収入-年間の維持費用)÷初期費用×100=表面利回り
より細かく利回りを求めたい場合は、実質利回りを用いるのが基本です。
シミュレーションを行う際の注意点
最後に、 産業用太陽光発電のシミュレーションを行う際には、いくつか注意点を把握しておきます。
シミュレーションに必要な項目を理解する
シミュレーションを行う・依頼する場合は、各項目の意味を理解しておくのが大切です。
悪質な設置業者や販売店は、発電量を実際よりも高く設定する可能性があります。そのような時に各数値の意味を理解しておけば、自分で見直したり矛盾に気づいたりすることが可能です。
たとえば、発電量を計算するために必要な損失係数とは、発電効率を低下させる要因のことです。太陽光パネルやパワーコンディショナ、配線などの熱損失やパネル表面の汚れといった項目が含まれています。
経年劣化による発電効率低下
シミュレーションを行う際は、経年劣化による発電効率低下も考慮してく必要があります。産業用太陽光発電を丁寧に取り扱っていても、5年・10年・20年と徐々に発電効率が低下していきます。
さらに太陽光パネルの修理・交換費用が、別途かかる可能性も考えられます。そこで部品交換費用の予算をあらかじめ用意していくと、急な修理・交換に対応できます。
災害や天候状況による発電量低下や故障リスク
日射量や日照時間は、雨や曇り、雷雨、雪など天候や季節によって大きく変わります。特に雨や曇りは地域や季節に関わらず想定される事象のため、シミュレーションで発電量や売電収入を確認しておきます。
他にも地震や台風、ゲリラ豪雨などによって産業用太陽光発電が、破損してしまうリスクも存在します。このような突発的な自然災害は、想定外の発電量低下や修理費用につながるため、注意の必要なポイントです。
たとえば、保険の加入はもちろん、災害による破損を想定した上で予算を確保したり事業計画を立てたりしてみます。
出力50kW未満の産業用太陽光発電は一部自家消費に回す必要がある
出力10kW以上50kW未満の産業用太陽光発電を所有している場合は、2020年4月以降にFIT申請を行うと全量買取不可となるため、注意が必要です。
具体的には、2種類の要件が定められました。1つは、発電した電気のうち30%を自家消費に回す必要があるという要件です。(自家消費要件)
つまり、発電量の70%のみ売電可能な状況です。
もう1つは、災害発生時に地域へ電力供給可能な設備環境にしておくという要件です。(地域活用要件)
このように出力10kW以上50kW未満の産業用太陽光発電は、新規設置で売電収益を維持するのが難しい環境へと変わりつつあります。
なお、中古太陽光発電所に関しては、10kW以上50kW未満でも発電した電気を全て売電できます。
産業用太陽光発電はシミュレーションを行うのが大切
産業用太陽光発電を導入する場合は、あらかじめ年間の予想発電量や売電収入・収支(20年間)をシミュレーションしておくのが重要です。
シミュレーションを行っておくことで、「赤字となるのか」、「いつ黒字化するのか」、「初期費用をいつ回収できるのか」といった点について計算を基に検討できます。
しかし、実際の結果と100%一致するわけではありません。
産業用太陽光発電に関心を持っている方は、中古太陽光発電も検討してみてはいかがでしょうか。中古太陽光発電は、10kW以上50kW未満でも発電した電気を100%売電できますし、購入時に発電量や売電収入のデータを確認することが可能です。
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