近年、環境問題や社会課題への対応が進む中、カーボンフリー化やグリーン化、デジタル化が進展し、これらの中心となるのが蓄電池です。エネルギー基盤として不可欠な蓄電池の需要は今後急速に拡大すると見込まれ、持続可能な蓄電池の供給体制の構築が喫緊の課題となっています。
このような状況の中、蓄電池の大量消費とそれに伴う大量廃棄に対する対策はどう進んでいるのでしょうか。今回は、蓄電池の再資源化(リサイクル)と再利用(リユース)に焦点を当て、その重要性と可能性について考察していきます。
目次
蓄電池の製造から廃棄までにおける課題とは?
蓄電池の製造と廃棄のプロセスにはいくつかの課題が存在します。主なものは以下のとおりです。
生態系の破壊?原材料の採取と加工に伴う環境負荷
蓄電池の製造には希少な金属や鉱物が必要です。これらの原材料の採取や加工は環境に悪影響を及ぼす可能性があります。例えば、リチウムイオン電池の製造にはリチウムやコバルトなどの希少金属が必要であり、これらの鉱山開発や採掘は生態系や地域社会に影響を与えることがあります。
不適切な廃棄方法で環境や健康に悪影響!
一部の蓄電池には有害な物質が含まれています。例えば、鉛蓄電池には鉛や硫酸が含まれており、これらが不適切な廃棄方法で環境や人の健康に悪影響を与える可能性があります。
エネルギー消費と排出
蓄電池の製造プロセスはエネルギーを多く消費し、二酸化炭素などの温室効果ガスを排出する可能性があります。特に、蓄電池の製造における高温プロセスや化学反応は多量のエネルギーを必要とし、それに伴う排出量が大きくなります。
回収・リユース・リサイクル
大量に廃棄された使用済み蓄電池を適切に回収し、再利用やリサイクルする仕組みが必要です。しかし、その過程にはいくつかの課題があります。
まず、蓄電池の再利用を目指す際には、残存性能や材料などの情報が不足していることや、リユースのルートが不十分であることが挙げられます。
また、蓄電池のリサイクルにおいては、回収材の純度を確保し、コストを低減することが課題となります。
さらに、回収した蓄電池から一定以上の比率で資源を回収する技術や仕組みが未確立であることも、課題の一つです。これらの課題を克服し、効率的で持続可能な蓄電池の回収、再利用、リサイクルシステムの構築が求められています。
欧州委員会による規制案「バッテリー規則案」
欧州委員会が2020年に公表した「バッテリー規則案」は、持続可能なバッテリー市場の確立を目指すものです。この規則案は、バッテリーの持続可能性や環境への影響を評価し、バッテリーの製造、使用、廃棄に関する基準を設定します。
また、リサイクル率の向上や有害物質の削減など、バッテリーの生産から廃棄までの全体的なサイクルに対する取り組みを提案しています。この規則案は、バッテリー産業の持続可能な発展を促進し、欧州の環境保護や気候変動対策に貢献することを目指しています。
加盟国に強制適用される「規則」とするとともに、電池の欧州域内生産・域内循環を誘導しました。
持続可能な原材料供給の確保
規則案では、バッテリーに使用される原材料の採掘と精錬において、持続可能な方法を促進することが重視されています。これには、環境負荷の低減や地域社会への影響の最小化が含まれます。
希少な資源への依存の削減
規則案は、希少な資源への依存を減らし、代替可能な素材の使用を促進することを目指しています。これによって、原材料の安定供給を確保し、市場の不安定要因を軽減します。
コバルトやリチウムなどの重要素材への関心
規則案は、天然資源の採掘や精錬が地域社会に与える影響を考慮し、社会的責任の観点から取り組みを促進します。これには、地域のコミュニティとの対話や協力が含まれます。
諸外国の情勢などを踏まえた蓄電池の検討課題
諸外国の情勢などを踏まえ、日本の経済産業省は検討課題として急増が見込まれる車載用蓄電池を念頭において、以下の項目を挙げました。
蓄電池のCFP算定
CFP(Carbon Footprint)算定は、蓄電池の製造や使用に伴う二酸化炭素排出量を評価するプロセスです。これには、原材料の採取から製造、使用、廃棄までの全体的な生産サイクルを考慮します。異なる国や地域での生産方法やエネルギー供給の違いが、CFP算定に影響を与える可能性があります。
例えば、再生可能エネルギーの利用や効率的な製造プロセスは、CFPを低減することにつながります。国際的な基準やガイドラインに基づいて、蓄電池のCFP算定を行うことが重要です。
デュー・ディリジェンス
デュー・ディリジェンスは、蓄電池の製造や使用に関わるリスクや機会を評価するプロセスです。これには、原材料の調達の透明性や人権、環境への影響などが含まれます。国際的なサプライチェーンでの複雑な取引やリスクを考慮し、透明性と持続可能性を確保するための措置が必要です。
特に、希少な資源の採掘や加工に関するデュー・ディリジェンスは、蓄電池産業において重要な要素です。
データで拓く未来!リユース・リサイクルの仕組みとは
蓄電池のリユースとリサイクルを促進するためには、適切な仕組みとデータ流通が必要です。リユースには、蓄電池の寿命を延ばすための保守、修理、再利用が含まれます。リサイクルには、廃棄された蓄電池から有用な材料を回収し、再利用するプロセスが含まれます。
これらの仕組みを促進するためには、効果的なデータ収集と共有が必要です。例えば、蓄電池の追跡システムやリサイクル施設との連携を強化し、データの透明性と効率性を向上させることが重要です。
持続可能な社会の構築に貢献「資源有効利用促進法」とは
資源有効利用促進法は、日本の廃棄物管理において重要な役割を果たしています。この法律は、廃棄物の発生を抑制し、資源の再利用やリサイクルを促進することで、持続可能な社会の実現を目指しています。具体的には、自治体や事業者に対し、廃棄物の適切な分別とリサイクルの義務を課すことで、廃棄物の処理方法を改善し、環境への負荷を軽減します。
この法律に基づき、自治体は廃棄物の分別収集やリサイクル施設の整備を推進し、リサイクル率の向上を図ります。また、特定の廃棄物に対するリサイクル率の目標設定や報告義務を定めることで、廃棄物の処理状況を透明化し、国や自治体の政策立案に役立てます。
さらに、資源有効利用促進法は、リサイクル産業の育成や技術開発を支援するための施策も盛り込んでいます。リサイクル施設の設置や運営に関する補助金や税制優遇措置の提供など、リサイクル産業の成長を後押しする取り組みが行われています。
このように、資源有効利用促進法は、廃棄物管理の改善やリサイクル産業の発展を通じて、持続可能な社会の構築に貢献しています。
小型充電式電池を回収する「JBRC」
JBRC(Japan Battery Recycling Center)は、日本における小型充電式電池の回収・リサイクルを担う組織です。2001年に設立され、電池リサイクル法に基づき、小型充電式電池の回収や再利用、リサイクルを行っています。JBRCは、日本電池協会や電池メーカー、リサイクル業者などが参加し、小型充電式電池の回収システムを構築し、運営しています。
消費者は、古くなった小型充電式電池を回収ボックスや指定の回収場所に持参することで、JBRCがそれらを回収し、リサイクルプロセスに供給します。この取り組みにより、廃棄物の削減や資源の有効活用が図られ、環境保護に貢献しています。
JBRCの回収対象外の電池
JBRC回収対象外電池は着払い返送が原則です。処分に関しては、メーカーまたは自治体に相談しましょう。JBRCの回収対象電池の種類は以下のとおりです。
一次電池(使い捨て電池)
BRCは、小型充電式電池の回収・リサイクルを主な対象としていますが、一次電池(アルカリ電池、マンガン電池など)は対象外となることがあります。一次電池は再充電ができず、回収後のリサイクルが困難な場合があります。
自動車用バッテリー
BRCは、小型充電式電池に焦点を当てていますので、大型の自動車用バッテリーは一般的に対象外となります。自動車用バッテリーについては、別のリサイクルシステムやプロセスが存在します。
工業用バッテリー
工業用途や産業用途で使用される大型の充電式バッテリーも、JBRCの回収対象外とされることがあります。これらのバッテリーは、専門的なリサイクル処理が必要となるため、別のリサイクル機関が担当することが一般的です。
電池メーカーによる再資源化の流れ
電池メーカーは、資源の効率的な利用を目指し、電池に使用される正極材料の金属情報を表示する取り組みを推進しています。処理施設は、この識別情報に基づいて回収された電池を適切に分別し、それぞれの正極材料の種類に応じたリサイクル処理を実施します。
リチウムイオン電池の場合、電解液は通常引火性の液体であり、危険な火災を引き起こす可能性があるため、事前に焼却処理が必要です。ただし、電解液の焼却には有害なフッ化水素ガスが発生するため、専用の真空加熱炉や排ガス処理設備を使用して焼却し、金属資源への再資源化を実現します。
コバルトやニッケルなどの希少金属は回収されますが、再利用されるかどうかは純度や品質によって異なります。また、経済的に再資源化が難しいリチウムは、一般的にスラグ(精錬廃棄物)として処理されます。
様々な要因で高コストになる大型蓄電池のリサイクル
大型蓄電池のリサイクルが小型蓄電池よりも困難である主な要因は、技術的複雑さと取り扱いの困難さです。大型蓄電池は技術的に複雑であり、その構造や材料の特性が多岐にわたるため、リサイクルプロセスがより複雑になります。
また、外装が頑丈に設計されておりその重量やサイズのため、取り扱いが困難であり、安全な回収とリサイクルが難しくなります。また、小型電池よりも感電や発火のリスクが高く必要な処理設備投資やリサイクル手法開発などのコストなど経済的な面でも、大型蓄電池のリサイクルには高いコストがかかる場合があります。
住宅用リチウムイオン蓄電池の回収
現在の日本における住宅用リチウムイオン蓄電池の回収状況は、まだ整備された体制ではなく、改善の余地があります。一部の自治体やメーカーが回収プログラムを導入しているものの、全国的な体系は整っていません。
回収されたリチウムイオン蓄電池は、リサイクル業者やメーカーによって一部が回収され、再資源化されていますが、まだ十分な回収率や再利用率には至っていません。将来的には、より効果的な回収システムやリサイクルプロセスの整備が求められます。
まとめ
日本における蓄電池の再資源化(リサイクル)と再利用(リユース)は、現在整備された体制ではなく、改善の余地があります。特に住宅用リチウムイオン蓄電池の回収状況は、まだ全国的な体系が整っておらず、回収率や再利用率が十分でない状況です。
しかし、一部の自治体やメーカーが回収プログラムを導入しており、一部がリサイクル業者やメーカーによって回収され、再資源化されています。将来的には、効果的な回収システムやリサイクルプロセスの整備が求められます。
また、再資源化に加えて、蓄電池の再利用(リユース)も重要な視点です。リユースにより、蓄電池の寿命を延ばし、資源の有効活用を促進することができます。
今後、蓄電池産業の成熟とともに、より効率的な回収・リサイクル・リユースシステムが構築され、持続可能なエネルギー社会の実現に向けた取り組みが進むことが期待されます。再生可能エネルギーとの組み合わせによる活用など、活用方法はどんどん拡大していくでしょう。