環境性能に優れ、経済性も兼ね備えていることから普及が進んでいるエコキュート。すでに多くの家庭で導入が進んでいますが、このエコキュートにはヒートポンプという技術が用いられています。
実はこのヒートポンプはエコキュート以外にも幅広く用いられている技術なのですが、特にエコキュートでその真価が発揮されています。
エコキュートが「エコ」でいられるのはヒートポンプ技術のおかげといっても過言ではないので、当記事ではエコキュートの基幹技術であるヒートポンプについてその仕組みや基幹パーツの役割、そしてヒートポンプの素晴らしさやデメリットなどについて網羅していきたいと思います。
エコキュートのヒートポンプ技術を解説
最初に、ヒートポンプ技術についての概要と基幹パーツの役割について解説します。ここで「ヒートポンプってよく聞くけれど、どんな技術?」という疑問を解消しておきましょう。
ヒートポンプ技術の概要
ヒートポンプをひとつの言葉でまとめると、「空気中の熱を圧縮して熱源として利用する技術」です。エコキュートの場合はその熱を、お湯を沸かすために用います。
「ヒート」は熱、「ポンプ」は汲み上げるという意味です。つまりヒートポンプが空気中の熱を汲み上げて利用する機器ということになります。
空気は一定の範囲内で圧縮と膨張ができます。圧縮すると空気中の熱が凝縮されるため温度が上昇し、逆に空気を開放して膨張させると温度は下がります。ヒートポンプはこの原理を応用して室外機から取り込んだ空気を圧縮して発熱させ、その熱でお湯を沸かしているというわけです。
エコキュートはお湯を沸かすための機器なので空気を圧縮して空気中の熱を利用しますが、その逆もあります。空気を膨張させることで気温を下げられるため、それをエアコンや空調に利用するパターンもあります。
どちらの場合であっても空気の圧縮と開放によって熱を自由にコントロールできるのが、ヒートポンプ技術の根幹です。
ヒートポンプの基幹パーツ① 空気熱交換器
ヒートポンプで熱を得るためには、外気を取り込む必要があります。そのためにあるのが、空気熱交換器です。温度をコントロールする機器には冷媒といって温度を吸収する気体が充填されています。エコキュートの場合は自然冷媒といって二酸化炭素が充填されているのが一般的で、エアコンに広く使用されているフロンは用いられていません。
というのも、フロンは冷媒としてとても優れた物質ではあるのですが、使用済みのエアコンから冷媒が漏れ出してフロンガスがオゾン層を破壊することが問題視され、近年では冷媒にフロンを使用しないのが一般的です。
エコキュートは環境性能に優れていることが広く知られていますが、冷媒にフロンを使用せず「エコ」であることも、名称の由来となっています。
ヒートポンプの基幹パーツ② 圧縮機
外気を取り込み、それを圧縮することで熱が得られます。そのためにあるのが、圧縮機(空気圧縮機)です。コンプレッサーとも呼ばれる機器で、空気を圧縮するさまざまな場面で用いられているパーツでもあります。
自然冷媒を外気に触れさせることで、外気の熱が冷媒に移動します。何も入っていない瓶に蓋をして暑い屋外に置いておいたら、その瓶の中にある空気は外気によって温められることは、想像がつくと思います。これと同じ原理で冷媒に熱が吸収されるので、それを圧縮機で圧縮します。すると外気の熱を吸収した冷媒は高圧・高温の状態になります。
ヒートポンプの基幹パーツ③ 水熱交換器
圧縮機によって得られた熱を、水に移動します。この役目を担っているのが、水熱交換器です。日本で熱帯魚を飼うためには、水温を高くするためにヒーターを入れるのが一般的です。これによって熱帯魚が住みやすい水温になるわけですが、水熱交換器はこれに似た構造をしています。
圧縮機によって得られた熱が水熱交換器に伝えられるため、水熱交換器の中を通った水はお湯になります。温められたお湯は貯湯タンクに流され、水に熱を奪われた冷媒は膨張弁に流します。
このように、文字通り水と熱を交換する機器の役割を担っています。
ヒートポンプの基幹パーツ④ 膨張弁
水熱交換器から排出されてきた冷媒を取り込み、この膨張弁で膨張させ、元の圧力に戻します。先ほど空気の圧縮を開放すると温度が下がると述べました。この膨張弁で元の圧力に戻された冷媒は温度が下がり、再び外気に触れて空気中の熱を吸収します。
そして冷媒は再び圧縮機に流れ、圧縮された上で水熱交換器によって水に熱を伝えられます。
ヒートポンプの基幹パーツ⑤ 貯湯ユニット
冷媒から熱を伝えて沸かしたお湯は、貯湯ユニットに貯められます。ヒートポンプによってお湯を沸かすには一定の時間がかかりますが、貯湯タンクにお湯を供給して貯めておけるので、利用者はいつでも蛇口をひねればお湯を使うことができます。
なお、このタンクの中のすべてがお湯というわけではありません。平たくいうと、貯湯ユニットは3つの層に分かれています。上からは水熱交換器からのお湯が流れ込み、下からは水道水が流れ込みます。その中間部分には混合層といってお湯と水を隔てる役割の層があります。これにより、常にタンク内にはお湯が供給され続ける仕組みになっています。
エコキュートのヒートポンプ技術が素晴らしい理由
筆者は、エコキュートに用いられているヒートポンプがとても素晴らしい技術だと感じています。ヒートポンプがあるおかげでエコキュートは「エコ」と呼べる環境性能を発揮し、これがもっと普及することでさまざまな問題を解決できるのではないかとの可能性も感じています。
ここではヒートポンプが素晴らしいといえる理由を項目ごとに紹介したいと思います。
空気中にある熱を利用できる
空気中にある熱を利用してお湯を沸かすという仕組みは、エコキュートの根幹をなす技術です。空気中の熱は自然界に存在するものであり、太陽光や地熱などによって発生する再生可能エネルギーです。再生可能エネルギーというと太陽光や風力などを想像する人が多いかもしれませんが、実は空気中の熱も立派な再生可能エネルギーです。
太陽や地球がある限り、空気中の熱がなくなることはありません。この無尽蔵のエネルギーを利用できることは環境問題やエネルギー問題の解決に向けて大きな意義があることだと思います。
お湯を沸かす際の環境負荷が低い
空気中の熱という再生可能エネルギーを利用するため、エコキュートは名前のとおりとても「エコ」です。従来はガスなどを使ってお湯を沸かすのが一般的ですが、ガスを燃焼させると二酸化炭素が発生しますし、天然ガスという有限の資源を消費します。
あまり知られていませんが、燃焼時に二酸化炭素が発生しないアンモニアは次世代エネルギーとして熱い視線が注がれているものの、その生成には天然ガスが必要です。今後さらにアンモニアをエネルギー資源として活用するのであれば天然ガスを燃料として使うのではなく、こうした次世代エネルギーの材料として活用するべきだと考えます。
その意味で、天然ガスを使わずにお湯を沸かせることはエネルギー問題全体を考えた時に大きな意義があるわけです。
お湯切れを起こしにくい
エコキュートは、空気中の熱を利用してお湯を沸かしてそれを貯湯タンクに貯めます。タンクの容量にもよりますが、おおむね7時間から8時間程度でタンク内のお湯を沸かすことができます。
この動作は深夜に行われ、ほとんどのエコキュートは23時から翌5時頃までの時間帯にお湯を沸かすように設計されています。深夜にお湯を大量に使う生活スタイルの場合は不便に感じるかもしれませんが、一般的に昼の時間帯に活動している家庭であればお湯切れを起こすことなく深夜に沸かしたお湯を使うことができます。
空気中の熱だけを使ってお湯を沸かすためには、各パーツを動かすための電力が必要です。深夜の安い電力を使えばお湯を沸かすコストを抑えやすいので、その意味でもエコキュートは経済的です。
熱を吸収するため暑さ対策になるかもしれない
エコキュートが取り込む空気中の熱は再生可能エネルギーであると述べましたが、必ずしもこのエネルギーがありがたい場面ばかりとは限りません。近年では夏の異常な暑さが人命に関わるようなレベルになっていることはご存知かと思いますが、この熱を何かに利用できないかと考える人は多いのではないでしょうか。
エコキュートは主に深夜に稼働しますが、日本の夏は深夜であっても暑いことが多く、エアコンなしでは寝られないというのが半ば常識になりつつあります。その深夜の余計な熱を少しでもエコキュートが吸収してくれるのは、一石二鳥のメリットです。もっとも、エコキュートが吸収する熱はそれほど大した規模ではありません。しかしもっと多くの家庭でエコキュートの導入が進めば、一定の効果が期待できるようになるかもしれません。
お湯を沸かす以外にも利用できる
冒頭でヒートポンプ技術について、エコキュート以外にも広く利用されていることに触れました。温度を上げることも下げることもできる技術なので、エアコンや空調機器で冷房のために使用されることもあります。
これについては、後述します。
太陽光発電と組み合わせるとエコキュートのメリットは最大化する
エコキュートは太陽光発電と併用するとメリットがより大きくなります。そのこと自体も広く知られているため、太陽光発電とエコキュートをセットで導入する事例は多くあります。
それではなぜ太陽光発電とエコキュートを併用するとメリットがより大きくなるのか、その理由や仕組みについて解説します。
太陽光発電の自家消費によって電気代を大幅にカットできる
エコキュートは空気中の熱を利用してお湯を沸かしているわけですが、エコキュート自体の稼働には電力が必要です。深夜に稼働させることでその電気代を抑えられるメリットがあるわけですが、太陽光発電と併用すればその電力も自給自足することができます。
昨今では電気代の高騰が問題になっており、深夜電力であってもそれほど安くないとの声も聞かれます。それなら太陽光発電と併用することで「無料で手に入る電力」を使うのが最も経済的です。
電気代のさらなる高騰への防衛策になる
電気代の高騰は構造的な問題であり、今後この構造が大きく変わることが見通せていません。上がることはあっても下がることが考えにくいというのが、残念ながら大方の見方です。
先ほど太陽光発電による電力でエコキュートを稼働させれば経済的メリットが大きくなることに触れましたが、このメリットは電気代がさらに高騰すればするほど大きくなります。
今後は太陽光発電を導入している家庭とそうでない家庭との間でエネルギーコストの格差がさらに拡大していくかもしれません。そんな時代に向けて太陽光発電とエコキュートで「勝ち組」になることには意義があるのではないでしょうか。
発電のピークとお湯を沸かす時間帯が合致している
太陽光発電は日中の太陽光がさんさんと降り注ぐ時間帯に発電量が多くなります。エコキュートを稼働させる時間帯を太陽が出ている時間帯(つまり太陽光発電からの電力供給が期待できる時間帯)に設定することで、太陽光発電の電力をフル活用できます。
しかも日中の時間帯は気温が高くなる時間帯でもあるため空気中の熱を取り込みやすく、効率よくお湯を沸かすこともできます。
災害時にもお湯を使えるようになる
災害時に家電を使ったりスマホの充電ができるというのは、太陽光発電のメリットとして広く知られています。自立運転モードにすれば発電した電力をそのまま使えるわけですが、それはエコキュートも同様です。
十分な日照があれば停電していてもエコキュートを稼働させられるため、普段と同様にお湯を使える可能性があります。
冬の寒い時期に災害による停電が発生すると電力による暖房が使えなくなる可能性があり、状況によっては人命に関わる恐れがあります。そんな場合であっても太陽光発電とエコキュートがあればお風呂に入れる可能性もあるので、しっかり体を温めることができるでしょう。
ただし、災害時のエコキュート稼働には一定の条件があります。それについては後述します。
ヒートポンプのデメリットも押さえておこう
とてもメリットの多いエコキュートのヒートポンプですが、もちろんメリットばかりではありません。デメリットや留意しておくべき点もあるので、ここではデメリットについても押さえておきましょう。
コストが増大する
エコキュートは従来の給湯器よりもパーツが多く、複雑な構造をもつ機器です。それだけに従来型のガス給湯器と比べると価格が高く、どうしても初期コストが増大します。もちろん電気代の節約によって初期コストを回収することは可能ですが、おおむねそれには数年を要します。
ただし、今後さらに電気代が高騰するとなると話は別で、エコキュートによる電気代の節約分が大きくなり、早期に初期コストを回収できるようになるかもしれません。
保守、メンテナンスのコストも発生する
従来の給湯器よりも構造が複雑なエコキュートは、保守、メンテナンスのコストもその分高くなります。空気を圧縮するという作業は摩耗する部分も多いため、しっかりとメンテナンスをしていく必要があります。
特に圧縮機に内蔵されているモーターは消耗品に近いパーツでもあるため、定期的な点検と、必要に応じて交換をすることが重要です。
低周波騒音が問題になる場合がある
エコキュートには騒音問題に関するトラブルのリスクがあります。実際に騒音問題がご近所トラブルや訴訟沙汰になった事例もあるほどで、その原因となっているのがヒートポンプから生じる低周波騒音です。
エアコンの室外機から「ブーン」という音が聞こえるのを体感したことはないでしょうか。特にエアコンの電源を入れた直後に一度大きな音が鳴り、そのあとで「ブーン」の音が鳴り続けます。
これは空気を圧縮したり開放したりする際になる音で、こういった騒音のことを低周波騒音といいます。エコキュートを設置している家庭の人にとってはメリットにもかかわる音なのでそれほど気にならないかもしれませんが、隣人には何のメリットもなく、単に騒音が気になるだけという状況になることも考えられます。
それゆえに施工店は設置場所や向きなどについて低周波騒音を考慮に入れた提案をしています。エコキュートを設置する際には、この騒音リスクについてもどう対応するのかを尋ねてみるとよいでしょう。
外気温によってパフォーマンスが影響を受ける
空気中の熱を取り込んでお湯を沸かすのがヒートポンプです。だとすると、外の気温が低い時にはどうなるのでしょうか。
結論から述べると、どんなに寒い日であっても空気中に熱が全くないということはありません。少ないながらも熱はあるので、その熱を取り込んでお湯を沸かすことができます。とはいえ夏と冬を比べると外気温は全く違うため、熱の量も違います。そのため外気温が低い時は熱を取り込む効率が低くなるため、エコキュートのパフォーマンスも低くなります。具体的にはタンク内のお湯を満たすまでの時間が他の季節よりも長く掛かってしまうといった影響が出るので、このことは導入前から留意しておくべきでしょう。
冬場の気温が極端に低くなる寒冷地ではヒートポンプが十分なパフォーマンスを発揮できないこともあります。さらにエコキュートを稼働させるために霜取りから始める必要があることもあり、さらに非効率です。こうした自然環境下ではエコキュートの経済性も低くなってしまうため、施工店によってはヒートポンプを使用していない機器を提案することもあります。
冷媒によっては環境負荷が高い
エコキュートの場合はほとんど考える必要はありませんが、取り込んだ熱を伝えるために用いられる冷媒にフロンが用いられていると、環境負荷が高くなってしまいます。エコキュートは「エコ」というだけあってフロンではなく自然冷媒といって二酸化炭素を使用しているため、オゾン層を破壊してしまう懸念はありません。
古いエアコンなどの中にはヒートポンプの冷媒としてフロンガスが使用されている場合があり、これが環境破壊につながってしまうことが指摘されてきました。エコキュートでは問題ありませんが、ヒートポンプ技術を利用している他の家電などでは関係があるかもしれません。
災害時の自立運転には条件がある
先ほど、災害時の自立運転モードについて述べました。災害によって停電になっても太陽光発電とエコキュートがあればお湯を使える可能性があるとも述べましたが、これには条件があります。
というのも、大半のエコキュートは電圧が200ボルトで、一般的な家電の100ボルトとは異なります。いわゆる高圧電力で稼働する機器なので、太陽光発電も同様に200ボルトの電力を出力できるものでなければ、停電時にエコキュートを動かすことはできません。
太陽光発電とエコキュートを併用して導入する場合、災害時の自立運転を可能するためには太陽光発電システムが200ボルトに対応していることを確認しておきましょう。施工店にそのことを伝えると、200ボルトに対応している太陽光発電システムの提案をしてくれるはずです。
それ以外にも、災害時の自立運転でエコキュートを使う方法として蓄電池の導入が有効です。蓄電池は200ボルトの電力を供給できるため、太陽光発電の有無にかかわらず蓄電池を導入しておくと停電時に一定の範囲でエコキュートを利用できるようになります。
結論としては、太陽光発電と蓄電池、そしてエコキュートを組み合わせれば災害時のリスク対策としては万全だということです。
ヒートポンプの豆知識
最後に、ヒートポンプの豆知識をいくつか紹介したいと思います。
氷点下の寒冷地では使えない?
先ほど寒冷地でのエコキュート導入は効率が悪くなると述べましたが、それでは外気温が氷点下になるような場所だと、エコキュートは全く使えないかというと、そんなことはありません。
これも先ほど述べましたが、人間がどんなに寒いと感じる時であっても、熱が全くないということはないからです。一般的な仕様のエコキュートはマイナス10度まで使用可能で、さらに寒冷地仕様のエコキュートになるとマイナス20度まで使用できるように設計されています。
この10度の差は、凍結防止機能の有無です。空気中の熱が全くなくなるわけではないため、ヒートポンプが熱を取り込むことに機能の差はありません。異なるのは凍結防止性能で、寒冷地仕様のエコキュートには凍結を防ぐための機能が付加されています。
ただし、いくら利用可能だからといっても熱を取り込む効率が悪くなることは避けられないため、やはり寒冷地でのエコキュート導入には慎重さが求められます。
ヒートポンプ技術は広く利用されている
エコキュートの基幹技術であるヒートポンプは、実に多くの分野で利用されています。家電の中でよく見られるのが、洗濯乾燥機です。洗濯が終わったあとの乾燥段階では多くの熱が必要になるため、そこにヒートポンプ技術が用いられています。
エコキュートと同様に乾燥時の省エネが可能で、また燃料によって発熱するのと違って熱しすぎることがないため、乾燥時に衣類を傷めるリスクが低いこともメリットとなっています。
それ以外にもビル空調など大規模な空調、病院や介護施設など多くのお湯を必要とする施設などでの給湯システムとしても、ヒートポンプは広く普及しています。
まとめ
エコキュートのヒートポンプは空気中の熱を使ってお湯を沸かすという、とてもエコで経済的な技術です。太陽光発電や蓄電池と併用すると経済性や災害時のリスク対策としても有効性が高いので、導入時にはセットでの導入を検討するのがよいでしょう。
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