今回は、もうすぐそこまで迫っている新築住宅の省エネ基準への適合義務化について分かりやすく解説したいと思います。
住宅の省エネ化に関しては、日々の生活にかかる光熱費の削減が期待できる、地球温暖化などの環境問題解決に貢献できるなど、さまざまなメリットがあるため、家を建てる際には、可能な限り省エネ性能が高くなるように対策を施したいと考える方が多いはずです。ただ、建築物の省エネ化に関しては、2025年4月以降、法律により義務化されることになっているのです。日本では、建築物省エネ法(建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律)という法律が存在しているのですが、この法律が改正され、2025年4月以降は、すべての新築住宅に国が定める省エネ基準への適合が義務付けられることになっていて、国土交通省からも工務店などに向けてパンフレットが配布されています。
ただ、住宅の省エネ性能に関しては、人の目で確認することが難しいため、「省エネ基準への適合義務化」と言われても一般の方からは「どのような住宅にすれば良いのか?」が直感的に分かりにくいという声を耳にします。省エネ住宅としては、長期優良住宅やZEH住宅などさまざまな種類がありますし、どれが国の基準を満たしているのか分からないというのが正直な感想なのではないでしょうか?
そこでこの記事では、すぐそこまで迫っている住宅の省エネ基準適合義務化について、これがどのような住宅なのか、また自宅が省エネ基準を満たしているのかを調べる方法について解説します。
出典:国土交通省資料
2025年4月からスタートする住宅の省エネ基準適合義務化とは?
それではまず、2025年4月に開始される新築住宅の省エネ基準への適合義務化について、なぜ今このような対策が必要とされているのか、法改正の背景などについて解説します。
日本では、「2050年カーボンニュートラル」の実現が目指されており、これを実現するための一つの対策として建築物の省エネ性能向上が重要とされ、2022年6月に建築物省エネ法の改正が行われました。
この法改正により、日本政府が住宅における省エネルギー基準の厳格化を進め、2025年にはすべての新築住宅が一定のエネルギー効率を満たさなければならないという法令が導入されることとなったのです。
つまり、省エネ基準への適合義務化については、国のエネルギー政策の一環であり、住宅産業において省エネ技術の導入を強く推進する物となっています。
省エネ基準適合義務化の背景について
2025年4月に予定されている新築住宅の省エネ基準への適合義務化は、世界中で問題となっている気候変動やエネルギー危機へ対応しなければならないという考えが背景となっています。現在、世界中でカーボンニュートラルや脱炭素への取り組みが進められています。日本国内でも、温室効果ガスの排出量削減への取り組みは強く推進されていますよね。
実は、建築物のエネルギー消費量は、日本の温室効果ガス排出量の約1/3を占めているとされており、その削減が喫緊の課題となっているのです。例えば、建物の断熱性能の向上や再生可能エネルギーの利用が進むことで、エネルギー効率の向上が可能となり、カーボンニュートラルの実現に大きく寄与することができるようになるでしょう。もちろん、建物の断熱性向上や再生可能エネルギーの利用拡大は、住まいの快適性の向上にもつながるため、そこに住む人にとっても大きなメリットになるはずです。そこで、2025年4月以降は、以下のようにすべての新築住宅に対して、省エネ基準への適合が義務化されることとなったのです。
引用元:国土交通省資料
上図の通り、2025年4月以降は、新築住宅・非住宅ともに、省エネ基準への適合が義務化されることとなっています。
この法改正により、小規模な住宅であっても届け出が必要となり、大・中規模の住宅にも適合が求められることになります。なお、増改築時に関しては、増改築部分に適合の焦点があてられることとなっています。
新築住宅の省エネ基準適合義務化以降は、日常生活で使用するエネルギー消費量が少なくなると考えられますし、住まいのランニングコストを抑えることができるうえ、環境に優しい住宅が一般化していきます。ただ、住宅の建設コストに関しては、どうしても上昇することは免れないでしょう。
省エネ基準適合については「適合性審査」が実施される
2025年4月以降、住宅の省エネ基準適合義務化に合わせて、適合性審査の導入も行われます。
上のイラストの通り、建築確認時に省エネ基準の適合性審査が行われ、省エネ性能確保計画の提出などが求められるのです。当然、建築確認時に省エネ基準に合致していない場合、工事や使用開始が遅れる可能性があります。
引用元:国土交通省資料
省エネ基準適合住宅の条件に付いて
ここまでの解説で、2025年4月に予定されている住宅の省エネ基準適合義務化で何が変わるのかが分かっていただけたと思います。それでは、そもそも国が言う「省エネ住宅」とはどのような建物を指すのでしょうか?
一般的には、省エネ住宅と聞くと、断熱性や気密性が高く、エネルギー効率の良い設備を導入してエネルギー消費量が抑えられる住まいのこととイメージする方が多いと思います。ただ、住宅の外観デザインや間取りなどと異なり、建物そのものの省エネ性能は目で見ることができないため、必要な対策の内容と基準が分かりにくいという声が多いです。インターネットを利用して省エネ住宅について調べてみても、専門用語がたくさん出てくるため、一般の方が全てを理解するのはなかなか難しいです。
そこでここでは、これから新築住宅の購入を検討している方が絶対におさえておくべき省エネ基準適合住宅の条件について解説します。
省エネ基準適合住宅の条件
省エネ基準適合住宅とは、分かりやすく言うと「建築物省エネ法の省エネ性能を満たした住宅」のことを指しています。
具体的には、「断熱等性能等級4以上」、「一次エネルギー消費量等級4以上」という条件を満たしているものが省エネ基準適合住宅と呼ばれるのです。
なお、一次エネルギー消費量は、住宅が利用するエネルギーの総消費量を示すもので、主に冷暖房、換気、照明、給湯、その他設備の5つのエネルギーを評価し、その省エネ性能は標準仕様に対する削減率で評価されることになっています。断熱等性能については、言葉通り住宅の断熱性を評価するものです。
「断熱等性能等級4以上」、「一次エネルギー消費量等級4以上」という、それぞれの等級の評価基準は、以下のようになっています。
- 断熱等性能等級4 熱損失等の大きな削減のための対策(建築物エネルギー消費性能基準等を定める省令に定める建築物エネルギー消費性能基準に相当する程度)が講じられている
- 一次エネルギー消費量等級4 BEI 1以下
なお、上記の省エネ基準適合住宅は、国が定めている最低限の基準となります。この基準より、さらに断熱性を高めエネルギー消費を抑えたものとして、ZEH住宅や長期優良住宅などがあります。
今まで日本の住宅業界では、省エネ性の高い住宅であることが販売目的としてのアピールポイントとして活用されることはあったものの、住宅の省エネ性能に関する明確な基準などは設けられていませんでした。しかし、建築物省エネ法の改正により、2025年4月以降は、上述した基準に適合することが義務化されるのです。
具体的に言うと、2025年4月以降は、先ほどご紹介した省エネ基準適合住宅の条件を満たしていない住宅は「建てることができない」となるのです。当然、住宅そのもの性能が向上するわけですし、建築確認の手間が増えるなどといった理由で、住宅の販売価格に大きな影響を与えると予想されているので、その点は注意しましょう。
省エネ住宅にもさまざまな種類がある
国の基準を満たすことができる省エネ住宅にもさまざまな種類が存在します。そして、省エネ住宅の種類ごとにそれぞれ性能や特徴が異なりますので、ここでは代表的な省エネ住宅についてその特徴などを解説します。
省エネ基準適合住宅
先ほどご紹介したように、省エネ基準適合住宅は、国が定めた最低限の基準である「断熱等性能等級4以上、一次エネルギー消費量等級4以上」を満たした住宅のことを指しています。
2025年4月以降は、この基準を満たしていない住宅は建てられなくなります。住宅の省エネ性を高くすれば、快適な住空間や光熱費削減が実現できるため、義務化前に家を建てる予定の方でも、この基準を最低限としてマイホームの計画を立てるのがおすすめです。
ZEH住宅(ゼロ・エネルギー・ハウス)
ここ数年、よく耳にする住宅の形ですね。ZEH住宅は、エネルギーの自給自足を目指す住宅の形で、エネルギー消費量と創出量のバランスがゼロに近いのが特徴です。
ZEH住宅は、省エネ性能の向上だけでなく、太陽光発電などの再生可能エネルギーの活用により、エネルギー収支をプラスマイナスゼロにする住宅のことを指します。国が定める省エネ基準よりもかなり高いハードルがありますが、その分非常に大きな省エネ効果を期待できます。太陽光発電や蓄電池など、必要とする設備も多いので住宅の建設コストは割高になるのですが、ZEH住宅向けの補助金や減税制度などが用意されているため、中長期的に見ると資金的なメリットも大きいと言われています。
長期優良住宅
長期優良住宅は、長期的に優れた状態での使用を目指す住宅のことで、省エネ性能に関してはZEH住宅と同水準となります。
国が定めている長期優良住宅の条件は「断熱等性能等級5、一次エネルギー消費量等級6以上」なので、国が求める最低限の基準よりもかなり高い性能が求められます。ただ、長期優良住宅は、長期間使用できる耐久性や性能を備えているため、中長期的に見ると、コスト的なメリットも大きいと考えられます。
低炭素住宅
低炭素住宅は、その名称から分かるように、通常の省エネ住宅よりも二酸化炭素の排出を抑えるための対策が施された住宅を指します。
低炭素住宅は、一次エネルギー消費量の削減や再生可能エネルギー利用設備の設置などが義務付けられていて、所管行政庁(都道府県、市又は区)の認定を受けることで国の省エネ基準を満たすことができます。
参照:低炭素建築物とは
LCCM住宅
LCCM住宅は、住宅そのものの省エネ性能だけでなく、建築から解体までの期間で「エネルギー消費量 < 創出量」となることを目指す住宅の形です。
LCCM住宅は、ZEH住宅のさらに先の目標として掲げられている住宅の形で、将来的にはLCCM住宅が住まいづくりのスタンダードになると言われています。
性能向上計画認定住宅
性能向上計画認定住宅は、省エネ基準よりも高い基準を満たしていると、行政が認定した住宅を指します。
性能向上計画認定については、以下のように解説されています。
建築物省エネ法第35条に係る建築物エネルギー消費性能向上計画の認定が誘導基準に適合している旨を所管行政庁(都道府県、市又は区)が認定を行うものです。
スマートハウス
スマートハウスは、「エネルギーを創る・蓄える・使う」を専用のシステムで管理できるようにした住宅を指しています。
住宅そのものの省エネ性能を高めたうえで、HEMSなどのITツールを導入しエネルギー消費量を抑えます。また、ZEHと同じように、エネルギー収支をプラスマイナスゼロにすることを目指すのですが、同時にそこに住む人の利便性や快適性も高めていくのが大きな特徴です。ただ、スマートハウスは、必要とされる設備が多いため、初期の設備投資にお金がかかる、メンテナンスの手間がかかる点がデメリットです。
省エネ基準適合住宅の確認方法と証明
ここまでは、2025年4月に予定されている、住宅の省エネ基準適合義務化について、その内容を詳しく解説してきました。省エネ住宅にもさまざまな種類があるということは皆さんも分かっていただけたのではないでしょうか?
ただ、ここ気になるのは「省エネ基準に適合しているのか?」を判断するにはどうすれば良いのか…という問題です。上述したように、建物の省エネ性能については、目で見て確認することはできません。
この点については、きちんと省エネ基準をクリアした住宅であることを証明するための制度が設けられています。省エネ基準を満たす住宅かどうかを確認するには、住宅性能評価書もしくはBELS評価書のどちらかを確認すると良いです。
住宅性能評価書
一つ目の方法としては、第三者機関に建物を評価してもらい、住宅性能評価書の取得により、省エネ基準を満たしているかどうかを確認するという方法です。
この方法は、一定の費用がかかってしまうのですが、住宅の省エネ性能だけでなく、構造の安定性や耐久性など、さまざまな部分の評価を同時にしてもらうことができます。住宅そのものの性能を透明化することができるため、住宅選びの際に失敗するリスクを軽減することが可能です。
BELS評価書
BELS評価書については、動画でその内容を解説したものがあるため、ぜひ動画を確認してみてください。
BELSは、一般社団法人 住宅性能評価・表示協会が行っている、住宅の省エネ性能評価制度のことです。『☆』の数で省エネ性能が表示されるため、一般の方も分かりやすいかもしれません。なお、施工会社や販売会社がBELS認定を取得している場合、評価書により省エネ基準に適合しているかどうかを簡単に確認できます。
住宅の省エネ基準適合に関わるその他のポイント
2025年4月に予定されている新築住宅の省エネ基準適合義務化の内容については、皆さんもある程度理解していただけたのではないでしょうか?
簡単に言うと、国が定めた省エネ基準を満たしていない住宅は、2025年4月以降、建てられなくなるのです。ただ、住宅の省エネ基準適合については、2024年現在でも皆さんに大きな影響を与えています。
そこで最後に、新築住宅の省エネ基準適合義務化について、既にスタートしている制度と、今後、住宅周りの省エネ対策がどのように推移していくのかについても簡単に解説してみます。
住宅ローン減税は既に省エネ基準適合が条件
引用元:国土交通省資料より
上図から分かるように、住宅ローン減税を受けるには、2024年時点から、既に省エネ基準に適合していることが条件となっています。2024年1月以降に建築確認申請を受けた新築住宅で、国が定める省エネ基準を満たしていない場合、住宅ローン減税が受けられなくなっているのです。
住宅ローン減税の対象となる借入限度額については、省エネ性能によって限度額に差がついています。省エネ基準に適合しない住宅については「その他の住宅」に分類されることになり、2024年1月からは住宅ローン減税が受けられません。住宅ローン減税は、年間で最大35万円、最長13年間の減税が受けられる措置なので、これが受けられないとなると経済的な負担が非常に大きくなるでしょう。
つまり、新築住宅の省エネ基準への適合義務化は2025年4月以降と紹介してきましたが、実質的には、既に省エネ基準に適合していなければならない状況になっていると考えられるでしょう。
参考資料:国土交通省パンフレット
今後、住宅の省エネ性能はどうなっていくのか?
2025年4月に予定されている省エネ基準への適合義務化については、「住宅の販売価格が上がりそうで困るな…」と考える方が多いかもしれません。しかし、住宅の省エネ性能に関しては、今回の法改正で終わりではなく、今後も段階的に省エネ基準の引き上げが行われる計画が進められています。
実際に、2021年10月に閣議決定された第6次エネルギー基本計画では、以下の政府目標が掲げられています。
- 2030年度以降新築される住宅について、ZEH基準の水準の省エネルギー性能の確保を目指す
- 2030年において新築戸建住宅の6割に太陽光発電設備が設置されることを目指す
さらに、2050年には、「住宅や建築物のストック平均でZEH基準の水準の省エネ性能が確保され、導入が合理的な住宅・建築物において太陽光発電設備等の再生可能エネルギーの導入が一般的となること」という目標が掲げられています。これからも分かるように、日本政府は、住宅に対してZEHレベルの省エネ性能の確保を目指していて、現状の省エネ基準はまだまだ「道半ば」と言えるような基準となっているのです。
したがって、住宅に求められる「省エネ基準」については、今後もますます高度化していくと予想でき、住宅そのものの性能はもちろん、太陽光発電や家庭用蓄電池など、エネルギー効率を向上させるための設備導入が強く推進されていくのではないかと考えられます。
まとめ
今回は、これからマイホームの入手を考えている方に非常に大きな影響を与えることになる、新築住宅の省エネ基準への適合義務化について解説しました。
記事内でご紹介したように、2025年4月以降は、新築住宅を建設する場合、国が定めている最低限の省エネ基準を満たさなければならなくなります。もちろん、住宅の省エネ性能が高くなれば、日常生活にかかる光熱費の削減が目指せる、CO2排出量削減など環境問題解決に寄与することができるなど、そこに住む人にとってもさまざまなメリットがあることは確かです。しかし、住宅の省エネ性能を高めるためには、高性能な建材の使用や再エネ設備の導入など、家の建設コストはどうしても上昇すると予想されるので、その点は注意が必要です。
なお、新築住宅の省エネ基準適合義務化については、2025年4月施行予定となっていますが、省エネ基準への適合については既に住宅ローン減税の条件になっています。さらに、日本政府が目指す住宅の形は、「ZEH基準の水準の省エネルギー性能の確保」「新築戸建住宅の6割に太陽光発電設備が設置される」となっていて、今後もさらに高度な省エネ基準への適合が求められるようになると予想できます。住宅周りの省エネ、創エネに関わる法律は、今後も頻繁に改正されることが予想されますので、その都度ご紹介していこうと思います。