施設園芸を行う農家にとって、ビニールハウスの暖房代負担は悩みのひとつです。ソーラーパネルを活用した暖房対策は、電気代を抑えられる可能性があるほか非常用電源としても役立ちます。
今回は、ビニールハウスの暖房対策やソーラーパネルの組み合わせやメリットについて詳しくご紹介します。ビニールハウスの暖房と電気代負担に悩んでいる方などは参考にしてみてください。
ビニールハウスの暖房代は値上げ傾向
ビニールハウスの暖房に使用される燃料価格は、値上げ傾向で推移しています。暖房代の負担は増加しており、コスト削減に悩む方も多いでしょう。
一般的にビニールハウスの暖房設備に活用されているA重油について、2013年から2024年1月までの価格をまとめました。
日付 | A重油の価格(1Lあたりの全国平均価格) |
---|---|
2013年1月 | 80.9円 |
2014年1月 | 90.2円 |
2015年1月 | 66.2円 |
2016年1月 | 47.9円 |
2017年1月 | 57.8円 |
2018年1月 | 68.8円 |
2019年1月 | 68.9円 |
2020年1月 | 74.8円 |
2021年1月 | 62.6円 |
2022年1月 | 87.6円 |
2023年1月 | 88.1円 |
2024年1月 | 93.7円 |
出典:資源エネルギー庁ウェブサイト(調査の結果|石油製品価格調査|資源エネルギー庁)
2013年~2014年1月時点では、1Lにつき80.9円から90.2円と値上げ傾向で推移していました。2015年から2017年頃までは1Lにつき60円を下回る価格まで下落し、その後値上がり傾向に再び転じます。
2024年1月は93.7円まで上昇し、2月以降も90円台で推移しており、現在のA重油価格は高止まりの傾向にあります。
ビニールハウスの暖房効率を上げるには
燃料価格が上がっているからといって、ビニールハウスの暖房を止めることはできません。少しでも負担を抑えたいときの、ビニールハウスの暖房効率を上げる方法をわかりやすく紹介します。
循環扇を併用して熱をハウス内に循環させる
暖房設備の燃料消費を抑えながら隅々まで暖めるには、循環扇の併用を検討してみるのがおすすめです。
循環扇とは、空気を効率的に循環させることを目的とした、扇風機のようなものです。通常ビニールハウス内の温度ムラを解消したいときは、まず送風ダクトで冷え込む場所に風を送り込むことが多いです。しかし、送風ダクトは暖房設備の送風量によって設置可能な本数や規模が制限されるため、限界があります。
必要に応じて循環扇で風の流れを作ることで、暖房設備から流れている暖かい空気を隅々まで届けることが可能です。夏場に使用すれば、ビニールハウス内に蓄積した熱気を外部へ排出するのにも役立ちます。
一般的なタイプは水平式で、地面と平行に空気を流します。直結式は、垂直方向に空気を流す構造で、大型の栽培設備に適しています。
作物に風を直接当ててしまうと生育不良につながる恐れがあるため、ビニールハウスの天井部と作物頭頂部(作物の最も高い部分)の間に設置するよう気を付けましょう。
環境制御システムで効率的に省エネを目指す
暖房設備と連携可能な環境制御システムを導入すれば、燃料消費量を抑えながら効率的にビニールハウス内の環境を整えることが可能です。
環境制御システムとは、ハウス内の温度や湿度、二酸化炭素濃度などの監視や制御を行ってくれる設備のことです。人の手で温度や湿度、換気などの操作を行わなくとも自動で調整してくれるため、作業コストという点でもメリットがあります。
環境制御システムは、センサーで気温や照度、二酸化炭素濃度などのデータを取得して、ビニールハウス内の状況を分析してくれます。システムによっては、インターネット経由でデータを確認することが可能です。
分析をもとに、暖房をはじめとした各種設備を自動制御してビニールハウス内の温度差等を減らします。外気や太陽光によって温まりやすくなれば設定温度を下げ、夜間の冷え込みには温度を上げるなど、細かな調整を自動で行うことで、省エネにもつながります。
局所加温で必要なところだけ暖める
燃料消費を抑えながら効率的にビニールハウス内を暖めたい場合は、局所加温を取り入れてみる方法もあります。
局所加温とは、作物に影響が大きい特定の箇所を温めることです。温室全体を暖めずに済み、設定温度を低めに設定できるため、暖房代を削減することが可能です。
局所加温の方法は、さまざまな種類にわかれています。
たとえば、作物の畝に沿って設置した送風ダクトで、各作物へ温風を送り込むのも局所加温に含まれます。
植物用ヒーターを活用した加温方法もあります。とくに冷えやすい場所へ植物用のヒーターを設置するだけで、ヒーターはテープやマット、パネル型から吊り下げタイプまで多岐にわたります。ヒーターを選ぶ際は、出力やサーモスタット機能の有無について確認しておきましょう。
1㎡以下の範囲を加温したい場合は、300kW前後の植物用ヒーターでカバーできます。また、1,000kW以上のヒーターは、約3.3㎡(1坪)以上の範囲を加温したい場合に適しています。
サーモスタットは温度を一定に保つ機能で、温度の上がり過ぎを防げます。植物用ヒーターによっては、サーモスタット機能を後付けすることも可能です。
燃料を使用せずにビニールハウスを保温するには
せっかく加温方法を見直しても、温めた空気が逃げてしまっては意味がありません。暖房費の削減には、ビニールハウス内の保温力改善が大切です。ここからは、燃料を使用せずにビニールハウスを保温する方法について紹介します。
ハウス内に内張り材を使用し断熱する
一般的な保温対策でもあるのが、内張り材(保温カーテン)を使用した方法です。ビニールハウスの外張り材と内張り材の間に空気の層を作ることで、ビニールハウス内の保温効果を高められます。被覆資材によって効果は異なりますが、ポリエチレンフィルムによる1層のカーテンを取り入れるだけでも、放熱量がおよそ35%も削減されるとされています。
多層化するほど保温効果を得られますが、光は通りにくくなるため、作物との相性でバランスを調整する必要があります。また内張り材を選ぶ際は、空気層を持っているかどうか確認しておくことが大切です。空気層のある内張り材は、より高い保温効果を期待できます。
被覆資材を工夫する
ビニールハウス全体の保温性を高めたいときは、被覆資材の見直しをしてみましょう。被覆資材にはさまざまな種類があり、保温効果の高いタイプへ切り替えることで、放熱量を減らせる可能性があります。
たとえばアルミが編み込まれているような反射性資材は、一般的な透明資材よりも高い断熱効果を持っています。また中空構造資材は、資材の中間部分に空気層が含まれており、単層の被覆資材よりも保温性能が優れています。
複層板は2層構造で、内部に空気層を持つ板状の被覆資材です。ポリカーボネートやアクリルで作られているため、透過率が低い代わりに保温性能や断熱性能が高いです。
ハウス内の隙間を可能なかぎりふさぐ
ビニールハウス内の内張り材などに隙間がないかどうか確認し、なるべくふさいでいくことが大切です。隙間が生じていると、暖房効率を上げる対策や保温対策を施していたとしても、外に熱を逃がしてしまいます。
隙間のできやすいポイントは次のとおりです。
- カーテンの裾
- 出入り・妻面(ビニールハウスの三角形の面)
- カーテンの側面と天井のつなぎ目
- 温室の谷間の部分
- 温室の角
- 天井に取り付けた部品(滑車など)の周辺
など
隙間を防ぎきれないときや保温効果を高められないときは、天井や側面・妻面などへ複数の内張り材を使用し、多層化してみるのもおすすめです。
燃料を使用しないビニールハウスの暖房対策
暖房設備の燃料消費を抑えたいときは、薪ストーブなど他の方法で暖房対策を進められないか検討してみましょう。燃料を使用しない暖房対策を3つ紹介します。
薪ストーブを導入する
薪ストーブはA重油などの燃料が必要ないため、暖房代の負担を抑える上でメリットがあります。廃材や倒木を調達できれば、薪の調達コストも抑えられます。
薪ストーブで長時間ビニールハウス内を暖めるためには、薪を投入するタイミングや薪の太さなどを見極め、人の手で調整しなければならない点はデメリットです。薪ストーブだけを使うというよりは、既存の暖房設備と併用して燃料を節約するという使い方が現実的といえます。
ソーラーシェアリングで自家消費を行う
ソーラーシェアリングを導入すれば、電気の自家消費を行うことが可能です。
ソーラーシェアリングとは、太陽光発電と農業を両立して行うことを指します。農地に架台(太陽光パネルを固定するための土台)と太陽光パネル、その他周辺機器を設置して太陽光パネルで発電します。発電した電気を使って暖房設備を動かせば、電気代を削減できますし、余剰電力を売って収入軸を増やすこともできます。
後述しますが、本来農地で農業にかかわりのない事業は行えません。しかし、隙間を空けながら太陽光パネルを設置すれば、パネルの下でも農業を継続することが可能です。このため農業を継続できるという前提で、例外的に太陽光発電設置のための一時転用が認められています。
太陽熱システムでハウス内を暖める
太陽熱システムを活用した設備を導入できれば、燃料消費を抑えながらビニールハウス内を暖めることが可能です。太陽熱システム(太陽熱利用システム)とは、太陽のエネルギーを熱へ変換し、さまざまな場所で有効活用するためのシステムのことです。
太陽熱システムは、集熱器と呼ばれる設備で吸収した熱を、水や空気をはじめとする熱媒(熱を受け取り、他の場所へ熱を伝えたり温度を保ったりするための物質)へ伝えるという仕組みです。
太陽熱システムの集熱器で吸収した熱を、パイプなどを通してビニールハウス内へ届けることもできます。熱を作り出す再に燃料や電気を使用しないため、日中に使用する暖房代の削減が期待できます。
ビニールハウスにソーラーシェアリングがおすすめの理由
前段で触れたソーラーシェアリングは、ビニールハウスの暖房代を削減する上でもおすすめの仕組みです。ここからは、ビニールハウスにソーラーシェアリングがおすすめの理由を詳しく解説していきます。
農地の一時転用で導入可能
ソーラーシェアリングは、農地の一時転用を活用することで導入できます。
通常、農地に耕作目的以外の設備や建物を建設したり、別の事業を始めたりするには、農地転用を申請して許可を得る必要があります。農地の種類によっては農地転用が極めて難しいケースもあります。
しかしソーラーシェアリングは、農地転用が難しい農地でも、一時転用を受ければ太陽光発電設備を設置することが可能です。転用期間は3年以内もしくは10年以内とされていますが、再申請を行い、許可を得られればソーラーシェアリングを継続できます。
発電した電気を自家消費・売電できる
ソーラーシェアリングで発電した電気は、自家消費したり売電したりできるため、暖房費の削減できます。電気で稼働する暖房設備へ切り替えておけば、重油等と比べて費用を抑えられる可能性があります。
たとえば、2016年都内展示会にて公開された実証報告「太陽光エネルギーを蓄熱利用するイチゴ省エネ栽培システム」では、イチゴ栽培におけるソーラーシェアリングの活用と暖房費の削減率が公表されました。暖房費については、ソーラーシェアリングによって80%程度削減できたと報告されています。
ソーラーシェアリングによる電気料金削減率は、設備規模や自家消費率、作物との相性によっても変わりますが、一考の価値があるでしょう。
非常用電源として活用できる
ソーラーシェアリングは、停電時に非常用電源として活用することも可能です。災害対策として電源設備を探している方にも、メリットがあります。
ソーラーシェアリングに用いられる太陽光発電は、他の太陽光発電システムと同じく自立運転モードが搭載されています。自立運転モードは、停電時でも太陽光発電システムで発電を継続させるための機能です。
ソーラーシェアリングの場合は晴れていれば発電できるため、設備に問題がなければ災害時も燃料調達なしに発電することができます。
発電時にCO2を排出しない
ソーラーシェアリングは発電時にCO2を排出しないため、環境に配慮された発電設備でもあります。環境負荷への影響が気になる方にとっては、メリットの大きなポイントです。
CO2を含む温室効果ガスは、気候変動問題の原因とされており、排出削減すべき物質のひとつです。農業においても無視できない課題として、農林水産省は基本的な省エネからJ-クレジット制度の活用まで、さまざまな取り組みを提案しています。
消費者によっては、環境負荷に配慮された製品やサービスの利用を重視するケースもあります。CO2の削減は、誰もが関心を持つべき問題で、農家にとっても重要な課題です。
ソーラーシェアリングによってCO2排出量を削減すれば、気候変動対策に貢献できるほか、環境への影響を意識する消費者へアピールすることも可能です。
ソーラーシェアリングの課題
暖房代の削減につながるソーラーシェアリングですが、課題や注意点もあります。続いては、ソーラーシェアリングの主な課題について解説していきます。
日光を一部遮ってしまい作物に影響を与える可能性も
ソーラーシェアリングの設置状況や作物の種類によっては、生育に影響を与える可能性もあります。
ソーラーシェアリングは、農地に固定した支柱の上に太陽光パネルを設置します。隙間が生じるように工夫して設置しても、パネルがある部分は日光を遮ってしまいます。作物によっては日射量が足りず、ソーラーシェアリングに適さない場合があります。
作物への影響が気になる場合は、太陽光パネルの設置場所などについて施工業者へ相談してみることをおすすめします。
状況によっては電気代削減効果が伸びにくい
ソーラーシェアリングや蓄電池の設置状況、その他条件によっては、電気代削減効果が思ったほど伸びない可能性もあります。
ソーラーシェアリングは、日中の晴れた日でなければ発電できない仕組みです。雨の日や曇りの日は発電量が低下し、一定の電力を供給し続けられません。また夜間や早朝なども発電できないため、ビニールハウス内の加温が難しい場面も発生します。
ビニールハウスの暖房をソーラーシェアリングだけでカバーするためには、蓄電池の導入検討が必要です。
しかし、太陽光発電設備に加えて蓄電池を導入すると、初期費用や維持管理費用の負担がさらに増加します。自家消費や売電によって電気代を削減したとしても、全体の支出が増加することで、経営を圧迫する可能性もあります。
ソーラーシェアリングを活用する場合は、既存の加温方法と組み合わせたり、年間にいくら支出を抑えられるのかシミュレーションしたりしながら、検討を進めていきましょう。
FIT制度の買取価格低下により収益を伸ばしにくい
FIT制度は、再生可能エネルギーで発電した電気を、一定期間固定の単価で買い取ってもらえる国の制度です。しかしFIT制度の固定買取価格が年々低下しているため、売電による収益は以前より小さくなっています。
太陽光発電の場合は、10年間もしくは20年間、固定買取価格(固定の単価)で買い取ってもらえます。(出力10kW以上:買取期間20年間、出力10kW未満:買取期間10年間)
発電した電気を必ず買い取ってもらえるため、年間の収益を予測しやすい点はメリットですが、2つ目の収益軸として検討している方は注意が必要です。
とはいえ費用回収の期間や利回りは、大きく変わりません。固定買取価格だけでなく、太陽光発電の初期費用が年々下落しているからです。2024年以降にソーラーシェアリングを導入した場合、これまで通り10年前後で費用を回収できます。
ビニールハウスの暖房対策としてソーラーパネルの活用もあり!
近年、ビニールハウスの暖房に必要なA重油の価格は、上昇傾向で推移しています。暖房代の負担が増加しており、さまざまな方法を組み合わせながら暖房対策を進める必要があります。
そこでおすすめの方法が、ソーラーシェアリングです。ソーラーシェアリングの場合は、燃料不使用で、日光さえあれば発電を継続できます。
ビニールハウスの暖房代を少しでも抑えたい方や太陽光発電を活用した暖房対策に関心を持っている方は、今回の記事を参考にしながら和上ホールディングスの利用を検討してみてはいかがでしょうか。
和上ホールディングスでは、全量自家消費型太陽光発電のご提案から設計、部材の調達、設置工事、保守管理まで一括サポートしております。地上設置型や屋根設置型、水上設置、自己託送方式のほか、ソーラーシェアリングについても対応しているため、初めて太陽光発電設備を導入する農家の方々にとってもご検討いただきやすいサービスです。
さらに、自社グループ内に「農地所有適格法人 株式会社和上の郷」を設立し、ソーラーシェアリングも実施しております。太陽光発電と農業の両立に向けた、さまざまなサポートをご提案可能です。ソーラーシェアリングにご興味のある方は、まずお電話やメールからお気軽にご相談ください。