ソーラーシェアリングは農地の上に太陽光パネルを設定するため、作物の種類と日光の影響を把握して計画を立てる必要があります。
今回は、ソーラーシェアリングに適した作物の種類や注意点について詳しくご紹介します。ソーラーシェアリングと作物の相性を知りたい農家や法人、ソーラーシェアリングを導入したい方などは参考にしてみてください。
ソーラーシェアリングに適している作物とは
ソーラーシェアリングに適している作物は、陽生植物、半陰生植物、陰生植物のうち、主に半陰生植物と陰生植物です。まずは、ソーラーシェアリングに適している作物とは何か、具体例とともにそれぞれわかりやすく解説していきます。
陽生植物
陽生植物とは、日当たりのいい場所でよく育つ作物のことです。以下の作物が代表的です。
- 大根
- 大豆
- トマト
- スイカ
- キャベツ
- 白菜
- 玉ねぎ
- 稲
など
このような陽生植物に該当する作物を育てている場合は、ソーラーシェアリングの設置時にパネル同士の隙間を大きく空けて、常に一定の日射量を確保する必要があります。したがって、場合によってはソーラーシェアリングの導入が困難なこともあります。
大豆やキャベツ、白菜など一部の陽生植物は、ソーラーシェアリングが設置された農地で栽培された実施事例があります。育てられる可能性はありますが、ソーラーシェアリングとの相性が良くないため、太陽光パネルの設置角度やパネル同士の間隔をはじめとする調整、作物の成長に関する分析などが欠かせません。
半陰生植物
半陰生植物は、陽生植物よりも日射量は必要ではないものの、一定の日光を当てなければいけない作物です。以下に主な半陰生植物を挙げます。
- ネギ
- ほうれん草
- じゃがいも
- 里いも
- レタス
- いちご
- キウイ
- ブルーベリー
など
ソーラーシェアリングで半陰生植物を育てる場合は、半日程度の直射日光を当てられる環境が必要です。一般的には、次に紹介する陰生植物と同じくソーラーシェアリングで育てやすい作物とされています。
陰生植物
陰生植物とは、半日陰や日陰でも成長できる作物のことです。直射日光のない環境でも育つ植物もあり、前段で紹介した作物よりもソーラーシェアリングに適しています。
以下に主な陰生植物を挙げていきます。
- きのこ
- しそ
- にら
- みょうが
- ふきなど
陰生植物は、他の種類よりも成長に必要な光の量が少ないです。わずかな光でも光合成ができるので、太陽光パネル同士の隙間を狭くしたとしても、比較的育てやすい植物です。
ソーラーシェアリングに適した作物を選ぶ際のポイント
これから育てる、あるいは現在育てている作物の特性をよく理解した上で検討しましょう。冒頭で紹介した陽生植物と半陰生植物、陰生植物の種類はもちろんのこと、光飽和点・遮光率についても調べておくことが大切です。
光飽和点を基準とする
光合成に必要な光の量や強さは、植物によって異なります。実は、光合成に必要な光には上限があります。上限を超える日光を植物に当てたとしても、それ以上、光合成の速度は上がりません。このような光合成増加の上限を光飽和点と呼びます。
この光飽和点であふれてしまう日光を太陽光パネルで受け、発電に活用しようというところから始まったのがソーラーシェアリングです。光飽和点が存在しない植物(トウモロコシなど)は、ソーラーシェアリングには適しません。反対に、ミツバなど光飽和点の低い植物は太陽光パネルの設置量を増やしても育ちやすいです。
遮光率との兼ね合い
遮光率とは、太陽光パネルの設置によって遮られる日光の量を示したものです。太陽光パネルですべての日光を覆っては育たない植物もあるため、植物の特性と遮光率の相性を考慮しなくてはなりません。
計算式:遮光率=太陽光パネルの面積÷太陽光パネルが設置されている農地の面積×100
一般的な遮光率は30~40%前後ですが、陽生植物・半陰生植物・陰生植物かどうかによって成長・収量は異なります。
たとえば、陽生植物の稲は、遮光率30%程度でも収量が15~30%前後低下する場合もあります。一方、半陰生植物のキウイやブルーベリーは、遮光率20~30%前後でも収量の低下が見られません。
出典:農林水産省「今後の望ましい営農型太陽光発電のあり方を検討する有識者会議」
ソーラーシェアリングの作物事例
農林水産省の「営農型太陽光発電取組支援ガイドブック」によると、ソーラーシェアリングの実証事業はさまざまな場所で行われています。
枝豆:遮光率約30%
秋田県の実証事業では、枝豆が育てられています。出力39.6kWの太陽光発電システムが、施設面積8.5aの農地に導入されています。遮光率は31%と平均的な数値で、収量の大幅な低下は見られていません。また、発電設備の直下では開花が2日程度遅れたものの、品質面での変化などもありません。
茶:遮光率約50%、
静岡県の実証事業では、ブルーベリーや茶、キウイフルーツといったさまざまな作物が育てられています。
お茶は、施設面積4.6a、太陽光発電の出力22kWという環境で、遮光率は50%です。一般的なソーラーシェアリングよりも遮光率は高いですが、収量や品質面に問題は出ていません。太陽光パネルの下は夜間の温度が高く、朝方の温度低下を防げるため凍霜害の発生が抑えられています。このように収量以外でもメリットがあります。
ブルーベリーなど:遮光率約36%
同様に静岡県ではブルーベリーとキウイフルーツも実証例があります。いずれも施設面積2.6a、太陽光発電の出力13kWと比較的小規模な施設です。遮光率は36%と平均より少々高いですが、収量や品質に大きな変化などありません。太陽光パネルが風雨や強い光を遮ることで、キウイフルーツへの傷や汚れが抑えられる結果となりました。ただし、カイガラムシが増加した報告もあります。
ソーラーシェアリングで失敗する理由
作物を育てながら発電事業を行うソーラーシェアリングは、初期投資も大きなコストがかかるため、可能な限り失敗する原因を取り除くことが大切です。続いては、ソーラーシェアリングで失敗する理由、リスクを詳しく解説します。
作物の選定などの問題で収穫量が低下するリスク
ソーラーシェアリングを導入することで収穫量が低下する可能性は、否定できません。
収量や品質は、天候だけでなく、ソーラーシェアリングと作物の相性、太陽光パネルの設置角度やパネル同士の間隔など、さまざまな要因で変化します。ソーラーシェアリングの場合は、太陽光パネルによって日影が発生するため、作物によっては収穫量に影響が出ます。
すでに農業を営んでいる方がソーラーシェアリングを導入する場合は、農業委員会・地域の管轄指導員・再エネ窓口などに相談し、収穫量の見込みを計算して慎重に検討してください。
収穫量2割以上低下で設備の撤去命令を受けてしまう
ソーラーシェアリングの失敗例として挙げられるのが、太陽光発電設備の撤去命令です。
ソーラーシェアリングの主要な事業は、あくまで営農(農業)です。発電量を確保するために、農業が疎かになり、収穫量が激減するようなことはあってはなりません。このため、ソーラーシェアリングのための一時転用には、収量の条件が定められています。
農作物の収量を含む詳細な内容を、毎年2月末までに許可権者へ報告しなければいけません。農作物の収量が、該当する地域の平均的な単収(単位面積あたりの収入)より2割以上減少してしまうと、設備の撤去命令を下される場合もあります。
事業計画に無理があり赤字になってしまう
無理の多い事業内容や計画では、赤字に陥る可能性もあります。設備を導入するためには太陽光パネルの本体だけでなく、設置工事などにもコストがかかります。ソーラーシェアリングの一般的な初期費用は、1kWあたり20~30万円程度とされており、設置から10~15年程度で回収できる傾向です。
しかし事業計画や収支の計算・シミュレーションなどに漏れがあると、15年を越えても費用回収できない可能性もあります。またソーラーシェアリングの導入は一般的な太陽光発電設備の導入よりも費用が高くなる傾向もあるため、慎重に計画を立てていきましょう。
ソーラーシェアリングには失敗だけでなくメリットもある!
通常の太陽光発電よりも導入コストがかかるにもかかわらず、ソーラーシェアリングが注目を集めているのは、それだけメリットもあるからです。最後は、ソーラーシェアリングを導入するメリットをわかりやすく解説していきます。
電気料金削減効果を得られる
電気料金の削減効果を得られるのが、ソーラーシェアリングの最も大きなメリットです。
ソーラーシェアリングで発電した電気は、農業用設備などをはじめとした、さまざまな機器や設備で自家消費することが可能です。太陽光発電における自家消費とは、発電した電気を自宅や自社の設備へ供給し、自分で消費していくことを指します。
自家消費によって買電量(電力会社から購入する電気)が減れば、その分電気料金を削減できます。農業経営では、さまざまな農業設備や機械を活用するため、電気料金の負担も大きいでしょう。ソーラーシェアリングがあれば、電気料金負担の軽減を図ることが可能です。
FIT制度の活用で固定単価での電力買取を期待できる
ソーラーシェアリングで発電した電力の活用先は、自家消費だけではありません。電力会社に電気を売ること(売電)も可能です。売電で収入軸を増やせれば、農業経営に余裕が生まれます。
通常、売電を行いたいときは、FIT制度を活用します。FIT制度とは、発電した電気を一定期間固定の単価で買い取ってもらえる国の制度です。再生可能エネルギーである太陽光発電は、このFIT制度の対象設備とされています。
また本来10kW以上50kW未満の産業用太陽光発電事業所は、発電した電力の3割以上を自家消費に当てなければならないルールになっています。しかし、ソーラーシェアリングの場合は、出力10kW以上であればこの要件が免除され、すべて売電可能です。売電で得た収入は、費用回収に充てたり農業に活用したりできます。
収益源を増やしたい方や、少しでも農業経営を安定化させたい方にもメリットを感じられるでしょう。
耕作放棄地の有効活用につながる
ソーラーシェアリングの導入は、耕作放棄地の有効活用につながります。
農業就業者の高齢化や少子化などによって農村人口は減少しているため、耕作放棄地が増加の一途をたどっています。2023年の農地面積は、農林水産省の「荒廃農地の現状と対策」によるとピーク時の1961年と比較して約179万haも減少しています。
しかし、農地の転用には許可が必要なため、簡単に別の用途へは活用できません。中でも青地(農業振興地域内、農用地区域に指定された農地)は、農業以外の活用に関して厳しい制限が課せられており、本来であれば太陽光発電事業も難しいです。
しかしソーラーシェアリングの場合は、導入に関する条件をクリアすれば青地を含む農地へ設置することも可能です。耕作放棄地を農業+他の事業で有効活用させられるのは、土地活用で悩む方にとってもメリットがあるでしょう。実際、ソーラーシェアリングは、こうした耕作放棄地の解決も目的としている制度です。
ソーラーシェアリングに適した作物は多い
ソーラーシェアリングに適した作物は幅広く、多くの農家にとっても導入しやすい事業だといえるでしょう。
前半で紹介したようにソーラーシェアリングに適した作物は、陰生植物や半陰生植物です。しかし太陽光パネルの設置状況や作物の種類によっては、陽生植物に区分される野菜なども育てられます。
実証事業などでソーラーシェアリングの実績が公表されているものもあるため、情報収集もいやすいです。ソーラーシェアリングの実績や作物が気になるときは、農林水産省の「営農型太陽光発電について」というページから確認してみるのもおすすめです。
停電発生時でも設備を稼働できる
ソーラーシェアリングを導入している場合、停電が発生しても農業機械や設備を稼働させることが可能です。
日本は、地震や台風、豪雨などの災害が多い環境で、停電リスクも存在しています。大規模災害が起きれば、数日以上停電してしまう可能性もあります。
非常用電源設備を導入しておけば、数日程度の電力を確保することは可能です。しかしこうした電源は燃料を必要とすることも多く、定期的に燃料を購入し、備蓄しなければなりません。
一方、ソーラーシェアリングは燃料が不要なため、調達コストがないほか、保管スペースの確保も不要です。長期停電が発生した場合でも、晴れの日であれば、発電して電力を使用することができます。このように災害対策としても役立つ点は、ソーラーシェアリングの強みです。
ソーラーシェアリングに適した作物を選ぶことが成功させる上で重要!
ソーラーシェアリングに適した作物を選ぶことは、事業を成功させる上で重要なポイントのひとつです。ソーラーシェアリングに適しているのは、光飽和点の低い陰生植物や半陰生植物です。
収益源を増やしたい農家の方や、農業と太陽光発電の両立に関心を持ち始めた方は、今回の記事を参考にしながらソーラーシェアリングを検討してみてはいかがでしょうか。
農業生産法人の株式会社和上の郷では、ソーラーシェアリング(営農型太陽光発電)の普及に力を入れており、作物の販売先も確保しております。これから設備を導入したい方に向けて、ソーラーシェアリングのヒアリングやご提案、設計・見積もり、申請手続き、施工、維持管理を含めて一括サポートが可能です。
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