高圧電力や特別高圧電力の契約を交わしている事業者の中には、小売電気事業者の事業撤退や新規受付停止といった状況に不安を覚える事業者も多いのではないでしょうか。小売電気事業者によっては、2022年から続く燃料高騰で経営が圧迫され、高圧電力や特別高圧電力事業から撤退しているケースも出ています。万が一契約しているサービスが終了した場合は、最終保障供給という制度で保護されます。
そこで今回は、最終保障供給の制度概要や同制度へ移行した場合の電気料金、2023年4月以降の電気料金に関する動向を詳しくご紹介します。小売電気事業者の事業撤退で電力契約がどうなるのか気になる方や、最終保障供給に至る可能性が今後あるのか知りたい方などは、参考にしてみてください。
最終保障供給とは?
まず、最終保障供給とはどのような制度なのか、役割や対象設備などについてわかりやすく紹介していきます。
電力供給が途絶えないようにするための措置
最終保障供給とは、小売電気事業者の事業撤退や倒産などによって電力供給に関するサービスが途絶えた際、電力供給を継続できるよう支援してもらえる制度のことです。
小売電気事業者の事業撤退などによる電力供給サービスの停止は、工場や商業施設、医療施設にとっても大きな損失やリスクにつながります。そのため、電力という重要なインフラを止めないためにも、最終保障供給制度は大切な制度なのです。
供給約款で電力供給に関するルールが定められている
最終保障供給に関する詳細なルールや規制は、供給約款に明記されています。また、一般送配電事業者が供給約款に関する規定を作成しており、電力供給方法や供給エリア、料金、プランなどについて定めています。
供給約款に目を通すことも大切ですが、より契約者にとって注目すべき内容は一般送配電事業者のサイト内にある最終保障供給ページで確認できます。
契約内容については、後半で詳しく紹介します。
低圧電力は最終保障供給の対象外
低圧電力契約を交わしている場合は、最終保障供給制度の対象外とされます。低圧の電力とは交流600V以下、直流750V以下で、一般家庭や商店などに供給されている電力のことです。
一般家庭や商店などの場合は、事業撤退リスクの極めて低い大手電力会社から提供されている従量電灯などを契約しておくことで、電力供給停止リスクを抑えられます。一般送配電事業者は、新電力より資本などの点で強固な経営基盤を持っているのが特徴です。
最終保障供給の申込方法
最終保障供給を申し込むには、まず小売電気事業者と一般送配電事業者の間で託送供給契約が解除されている必要があります。(託送供給契約:小売電気事業者のために一般送配電事業者が電気を調達し、一般送配電事業者の送配電網を用いて需要家へ電力供給を行う契約)
小売電気事業者の事業撤退や停止で電力供給が途絶えたとしても、託送供給契約を解除しなければ一般送配電事業者と最終保障供給契約を交わせません。そのため、小売電気事業者へ託送供給契約について確認するのが、最初に行うべき手続きです。
小売電気事業者側で託送供給契約の解除を行った場合は、一般送配電事業者から小売電気事業者と契約を交わしていた企業へ連絡が入ります。
あとは、最終保障供給の申込書への記入や、一般送配電事業者と電気料金プランに関する協議を行ったりしながら契約手続きを進めていく流れです。また、最終保障供給契約への移行まで電力供給が途絶えることはないので、事業活動を継続できます。
最終保障供給の動向
続いては、最終保障供給の動向について確認していきましょう。
2022年3月頃から急激に増加
最終保障供給契約の申込件数は、2022年3月頃から急増しました。これまで最終保障供給契約は、卸電力市場の取引価格が値上がりする冬に増える傾向がありました。しかしロシアによるウクライナ侵攻などで燃料価格が高騰し、多くの新電力が事業撤退や新規受付停止、倒産といったケースに陥っています。
そのため、新電力と高圧電力や特別高圧電力契約を交わしている多くの企業への電力供給が途絶えてしまい、最終保障供給契約に移行しているという状況です。
契約件数増加に伴い最終保障供給の料金が見直される
最終保障供給の契約件数が急増したことで、一般送配電事業者は最終保障供給の電気料金の見直しおよび値上げをしています。
一般送配電事業者にとって、最終保障供給契約件数の増加は、電力供給に伴う燃料調達や設備運用に関するコスト増加につながります。また、一般送配電事業者も燃料価格高騰などによる影響を受けているので、電気料金を見直さなければいけません。
つまり、最終保障供給契約は企業にとってセーフティネットである反面、負担の大きな電気料金プランといえます。
最終保障供給の契約内容は?
東京電力パワーグリッドの場合は、同社サイトの「最終保障供給契約について」というページで申込書類や契約期間、料金などを明記しています。
以下に、東京電力パワーグリッドの電気料金を含めた契約内容を紹介します。
契約期間 | 1年以内、小売電気事業者との契約を交わすことができない場合は契約更新も可能 |
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電気料金 |
最終保障電力Aプラン 基本料金(1kWにつき) 6,000V 2,177.24円 20,000V 2,045.87円 60,000V 1,979.87円 電力量料金(1kWhにつき) 6,000V 夏季:26.34円、その他季節:24.97円 20,000V 夏季:24.33円、その他季節:23.13円 60,000V 夏季:24.02円、その他季節:22.85円 |
最終保障電力Bプラン 6,000V 2,296.04円 20,000V 2,045.87円 60,000V 1,979.87円 140,000V 1,913.87円 電力量料金(1kWhにつき) 6,000V 夏季:24.69円、その他季節:23.47円 20,000V 夏季:23.65円、その他季節:22.52円 60,000V 夏季:23.35円、その他季節:22.25円 140,000V 夏季:23.08円、その他季節:22.00円 |
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各種書類 |
最終保障供給申込書:最終保障供給契約を交わす際に必要な申込書類 最終保障廃止申込書:最終保障供給契約を解約する際に必要な申込書類 最終保障供給申込書(契約変更・設備変更):最終保障供給の契約変更や設備変更に必要な書類 |
最終保障供給に関する電気料金プランは、東京電力以外の一般送配電事業者でも2種類用意されています。最終保障電力Aは、照明や空調、業務用冷蔵庫やポンプ設備などを稼働させる場合に適用されます。一方、最終保障電力Bは、工場や倉庫といった動力のために電気を必要とする建物に適用されるプランです。(動力:機会を作動させるために必要なエネルギー)
基本料金や電力量料金は、東京電力に限らず他の一般送配電事業者も値上げ方向で見直されています。
2023年4月以降の電気料金はどうなる?
電気料金や契約に関する混乱について把握したあとは、2023年4月以降の一般的な電気料金の動向について確認していきましょう。
大手電力会社7社で規制料金プラン値上げの予定
大手電力会社7社(一般送配電事業者)は、規制料金プランの値上げ申請を行いました。
規制料金プランとは、国の許可がなければサービス内容、料金変更などを実施できないプランのことです。2016年の電力自由化前から提供されている従量電灯制などは、規制料金プランに該当します。
以下に値上げ申請を行っている大手電力会社を紹介します。
- 北海道電力
- 東北電力
- 東京電力
- 北陸電力
- 中国電力
- 四国電力
- 沖縄電力
なお、中部電力と関西電力、九州電力は、託送料金の値上げを2023年4月に実施しました。託送料金の値上げ幅は1ヶ月あたり100円前後で、7社から申請された値上げ幅と比較して小さく、先に国からの許可を受けました。
一方、7社の値上げ率は10~40%台と非常に大きいのが特徴です。そのため国は、2023年4月の商品や原材料の値上げ負担を考慮し、規制料金の値上げ申請を却下しました。
今後も大手電力会社7社は、規制料金の値上げ幅を見直した上で再申請を行う予定です。特に低圧電力を利用している事業者は、大幅な値上げに備えて省エネや再エネを検討する必要があります。
自由料金プランは値上げ方向のケースが多い
自由料金プランについては、2022年頃から新規受付停止、プランの廃止、値上げといったさまざまな変化が生じています。(自由料金プラン:電力自由化以降に提供されているプラン)
規制料金プランと異なり、自由料金プランは国の許可不要で値上げや値下げ、サービス内容の変更などを進められます。
新電力から提供されているプランや電力自由化以降に一般送配電事業者から提供されているプランは、自由料金プランに該当します。
そのため、新電力の高圧・特別高圧電力を利用している企業は、大幅な値上げやサービス変更、サービス停止といった影響を受けやすい状況であり、最終保障供給へ移行しなければいけないケースも出てきやすいといえます。
大手電力会社の高圧や特別高圧電力も値上げ方向で検討
大手電力会社(一般送配電事業者)では、家庭や商店向けの低圧電力だけでなく、高圧や特別高圧電力の電気料金についても見直しを図っています。
以下に高圧・特別高圧電力の見直しを公表している電力会社を紹介します。
- 北海道電力
- 東北電力
- 東京電力
- 中部電力
- 北陸電力
- 四国電力
- 中国電力
- 沖縄電力
上記8社は、高圧・特別高圧電力の電気料金を5~30%程度値上げする方向で調整を進めています。値上げの実施時期は2023年4月の予定なので、早急に電気料金の削減方法を検討する必要があります。
一方、関西電力と九州電力は値上げを予定していません。2社の場合は、化石燃料不要の原子力発電を稼働させているので、電気料金の大幅な値上げを行わずに事業を継続できる状況です。
そのため、関西電力や九州電力管内で高圧・特別高圧電力を利用している企業は、他のエリアより電気料金負担を抑えやすいといえます。
燃料費調整額は値下げの方向で調整
電気料金に含まれる燃料費調整額については、値下げの方向で調整されています。
大手電力会社各社は、燃料費調整額の算定方法を見直しています。特に注目すべき点は、基準燃料価格の引き上げです。燃料費調整額は、基準燃料価格より平均燃料価格が高ければ値上げ、低ければ値下げといった方法で毎月調整されています。(平均燃料価格:過去3ヶ月間の燃料価格を平均化したもの。天然ガスと原油、石炭燃料価格が用いられている)
今回の見直しでは基準燃料価格が引き上げられているので、平均燃料価格を下回りにくい傾向といえます。これまで以上に燃料の取引価格が値上げしなければ、燃料費調整額の負担を抑えられる状況です。
再エネ賦課金は値下げされる予定
国の管理する再エネ賦課金は、値下げ方向で調整される予定です。
再エネ賦課金の単価は、毎年度末に算定されています。これまで再エネ賦課金は、毎年度値上げ方向で更新されていたため、個人や企業にとって負担の大きな項目でもあります。
しかし、2022年に再生可能エネルギーの販売収入が急増したため、2023年度の再エネ賦課金は値下げ方向で調整されました。
具体的には1kWhにつき1.4円で、2022年度と比較して1kWhにつき2.05円も安く設定されています。
小売電気事業者の撤退リスクを回避するには?
最後は、小売電気事業者の事業撤退や停止リスクに備える方法を紹介します。
最終保障供給へ切り替わる可能性を前提に準備
ロシアによるウクライナ侵攻が終結しない限り、天然ガスや原油、石炭の燃料価格は落ち着きにくい状況です。
そのため、燃料価格の高止まりは小売電気事業者の事業継続にかかわる大きな問題ですし、今後も事業撤退や停止といったリスクにつながります。
企業は、最終保障供給へ切り替わる可能性を前提にリスク管理や準備を行う必要があります。また、最終保障供給の電気料金は一般のプランより高い傾向にあるので、空調や照明などの節電対策、省エネ機器の導入を検討してみるのがおすすめです。
全量自家消費型太陽光発電の導入
最終保障供給へ切り替わる可能性を前提として事業活動を継続させるには、再生可能エネルギーの導入も検討してみてはいかがでしょうか。
特に全量自家消費型太陽光発電は、設置スペースや初期費用という点で他の再生可能エネルギーより導入しやすい発電設備です。太陽光パネルで発電した電気は、あらかじめ配線接続しておいた自社の設備で消費できるため、電力会社からの買電量を削減できます。
また、太陽光パネルの設置枚数によっては、年間の消費電力を数10%削減することが可能です。
最終保障供給へ切り替わったとしても電気料金負担を抑えられますし、停電などに陥っても最低限の機器や設備を稼働できます。
最終保障供給とは高圧・特別高圧電力向けのセーフティネット
最終保障供給制度とは、小売電気事業者の事業撤退などで電力供給サービスが途絶えても、電力を使用できるように保護される制度のことです。一般送配電事業者が切り替え手続きなどをサポートしてくれるので、切り替えに伴う負担を抑えられます。
高圧・特別高圧電力の契約を交わしていて最終保障供給に備えたい方や、高圧・特別高圧電力をカバーできる発電設備を設置して電力リスクを抑えたい方は、今回の記事を参考にしながら全量自家消費型太陽光発電を検討してみてはいかがでしょうか。
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