はじめに
「太陽光設備のメンテナンスは義務なの?」
「うちの太陽光のメンテナンスは義務化されている?」
太陽光を設置している場合、定期的なメンテナンスは義務なのか気になりますよね。
太陽光のメンテナンスは下記の表のように、メンテナンスが義務化されているケースとそうでないケースに分かれます。
義務化されているケース | ・固定価格買取制度(通称:FIT制度)を適用している太陽光 ・50kW以上搭載の太陽光 |
義務化されていないケース | ・50kW未満で固定価格買取制度を利用していない太陽光 |
義務化されている太陽光のメンテナンスを怠ると最悪の場合、認定の取り消し処分を受ける可能性があります。
義務化されていなくても長年太陽光を放置すると、発電量の低下や設備の故障、火災などを引き起こすことも。せっかく設置した太陽光設備を安全に長く使うためにも、適切なメンテナンスや保守点検は欠かせません。
そこでこの記事では
◎太陽光のメンテナンスは義務化されているケースとそうでないケース
◎義務ではないケースでも太陽光のメンテナンスをすべきと言われている理由
◎太陽光のメンテナンスをしないと起こるリスク
◎太陽光メンテナンスの費用と頻度
◎太陽光メンテナンスの項目
◎太陽光メンテナンスをするときの注意点
など詳しくご紹介します。最後まで読めば太陽光メンテナンスの重要性が把握でき、メンテナンスを前提とした計画や資金繰りができるようになるはずです。
太陽光設備を安全に長く使うためにも、ぜひ参考にしてみてください。
1.太陽光のメンテナンスが義務となるケース・義務とならないケース
太陽光のメンテナンスは、義務化されているケースとそうでないケースに分かれます。それぞれどのような太陽光が当てはまるのか解説していくので、自宅の太陽光がどちらに当てはまるのかチェックしてみましょう。
1-1.メンテナンスが義務化されているケース
太陽光のメンテナンスが義務化されているケースは、下記の2通りがあります。
義務化されている太陽光の種類 | 適用されている規則・法律 |
固定価格買取制度を適用している太陽光 | 再エネ特措法施行規則 |
50kW以上搭載の太陽光 | 電気事業法 |
以前は50kW以上を搭載している太陽光にのみ安全に利用するため、電気主任技術者による年に2回のメンテナンスが義務付けられていました。
しかし、家庭用の太陽光でもメンテナンスを怠ることで火災や破損などのリスクが生まれることから、固定価格買取制度(通称:FIT制度)を見直すことに。
2017年4月1日より施行されたFIT制度の改正では、住宅用太陽光から産業用太陽光まで特例を除き太陽光のメンテナンス遵守化が盛り込まれました。
・当該認定の申請に係る再生可能エネルギー発電事業を営むに当たって、関係法令(条例を含む)の規定を遵守するものであること。(再エネ特措法施行規則第5条第1項第14号)
引用:再エネ特措法施行規則
※対象者:再生可能エネルギー発電事業計画を提出する、提出した者
上記のように、太陽光の発電量問わず「発電設備を適切に保守点検及び維持管理すること」が組み込まれています。これに反した場合は認定基準に適合しないとみなされ、指導や助言、認定の取消しなどの措置が取られる可能性があります。
もちろん、これからFIT制度を利用する場合だけでなく既に太陽光を導入しFIT制度を使って売電している場合も対象です。そのため、FIT制度を利用し太陽光を導入する場合は「メンテナンスをしなければならない」と覚えておきましょう。
1-2.メンテナンスが義務化されていないケース
太陽光のメンテナンスが義務化されていないのは、50kW未満で固定価格買取制度を適用していない太陽光です。
資源エネルギー庁が発表している事業計画策定ガイドラインによると、FIT制度適用外の太陽光については
「このガイドラインを参考に実施することが望ましい」という言い方にとどまっています。
つまり、50kW未満の太陽光で
・全量自家消費の場合
・FIT制度を適用し売電をしていない場合
などは、メンテナンスをしなければならないというルールはありません。(場合によっては電力会社や市区町村の規定で定期的なメンテナンスをするよう喚起していることがあるのでチェックするようにしてください)
しかし、メンテナンスの義務がないからといって太陽光放置すると、火災や故障など思わぬ事態につながる可能性があるのでメンテナンスをしないという選択は避けるべきです。次の章では、太陽光のメンテナンスの重要性について詳しく解説していきます。
参考:資源エネルギー庁:「事業計画策定ガイドライン」
2.太陽光のメンテナンスは重要性!その3つの理由
太陽光のメンテナンスが義務化されているされていないに関わらず、太陽光のメンテナンスはとても重要です。
太陽光のメンテナンスをすべき理由として
・小さな異変にいち早く気付いて、トラブルを回避できる
・落石や強風など自然由来のトラブルに気付ける
・メンテナンスの記録が残せるため、万が一のときに役に立つ
という3つの理由があるので、それぞれ具体的にご紹介します。
2-1.小さな異変にいち早く気付きトラブルを回避できる
太陽光のトラブルや不調は、メンテナンスや日常点検で発見することが多いです。
配線の漏電や絶縁、太陽光パネルの破損などは定期的な点検をしていればすぐに目につく部分ですが、見逃してしまうと太陽光設備の停止や火災など重大なトラブルにつながりかねません。
株式会社三菱総合研究所が実施した「平成29年度新エネルギー等の導入促進のための基礎調査」では、太陽光設備のトラブルを発見した経緯として日常点検やメンテナンスが50%以上を占めています。
日常点検やメンテナンスをすることで
・パワーコンディショナーが止まっている
・太陽光パネルが割れている、傾いている
・発電量が低下している
・調動物に配線がかじられている
などの変化に気付きやすくなり、重大な事態が起こる前に対策が打てます。一度設置をするとメンテナンス業者以外は太陽光設備そのものに近寄る機会がなかなかないため、定期的なメンテナンスをすることは太陽光設備の異変を察知するためにも重要です。
参考:株式会社三菱総合研究所「平成29年度新エネルギー等の導入促進のための基礎調査」
2-2.定期的なメンテナンスなしで自然環境由来のトラブルに気付けない
太陽光設備は耐久性があるように作られてはいますが、直射日光が当たり雨風にさらされる過酷な環境下に設置されています。
設置前にはシミュレーションなどをして周辺環境を考慮しながら設置をしても、実際に使用してみると自然環境によって下記のようなトラブルが起こることがあります。
自然環境のトラブル | 内容 |
強風や積雪 | 固定器具の破損や太陽光パネルの倒壊。 |
ホットスポット現象 | 太陽光パネルの一部に熱が集まってしまうことで、最悪の場合火災が起こる。 |
草木の成長 | 太陽光パネル周辺の草木が成長することで、日光を遮ってしまう。 |
鳥による被害 | 鳥が太陽光パネルをつつくことで、割れたリ破損したりする。 |
このようなトラブルを放置すると、太陽光設備の停止や故障、最悪の場合は火災につながるかもしれません。
太陽光の周辺環境は日々変化しているので、定期的にメンテナンスをして環境に合わせた対策方法を考えることが大切なのです。
2-3.メンテナンス記録を残すと万が一の対応がスムーズにできる
定期的なメンテナンスをすると、太陽光設備のメンテナンス内容を残しておけます。どのようなメンテナンスをしているのか振り返ることができるのはもちろん、万が一不調が生じた場合に過去のメンテナンス記録からどこが原因となっているのか目星をつけることができます。
また、太陽光設備の補償期間内に不調が発生した場合はメンテナンスの記録があれば証拠となり、話がスムーズに進むはずです。
とくに、発電量の低下は継続した記録がないと証明できないため、取り替えを検討したいときにも役立ちます。このように、第三者による太陽光設備のメンテナンス記録があるということは、いざという時にとても頼りになります。
ンスをすることでいち早く発見でき、環境に合わせた対策方法を考えることが可能です。
3.太陽光のメンテナンスをしないと起こるリスク
前章で紹介した通り太陽光設備のメンテナンスをしないと
・太陽光の発電量が低下する
・火災などの重大な事故につながる恐れがある
・故障してしまうと復旧費用や復旧日数がかかる
となどのリスクが起こります。具体的にどのようなことが起こるのかご紹介します。
3-1.太陽光の発電量が低下する
太陽光のメンテナンスをしないでそのまま放置すると、太陽光パネル表面の汚れだけでも5~10%ほど発電量が低下してしまいます。
これにプラスして
・配線、パワーコンディショナーなどの設備不良
・草木などによる光の遮断
・基礎や土台の不良
などが起きていると、さらに発電量が落ちてしまうことに。この状態で稼働していても、思ったように電力を得られないので売電量が減ったり自家消費に回せなかったりと、太陽光本来の強みが充分に活かせません。せっかく設置した太陽光を効率よく稼働させるためにも、メンテナンスは欠かせないポイントです。
3-2.重大な事故につながる可能性がある
太陽光設備のメンテナンスを怠ると、火災などの重大な事故に繋がる可能性があります。
消費者安全委員会が発表している事故等原因調査報告書によると、2008年から2017年の間に217件の事故情報が寄せられています。このようなリスクを受けて、経済産業省では保守の強化や保守ガイドラインの見直しなどを実施しており、メンテナンスの重要性を訴えています。
火災や運転停止、太陽光パネルの倒壊などの事故の原因を見てみると、下記のように配線の絶縁や太陽光パネルの破損などメンテナンスをしていれば防げる設備不良が多いです。
設備の不調 | 起こりうるリスク |
配線の漏電や絶縁 | 太陽光パネルから出火・運転停止 |
ケーブルの施工不良 | 太陽光パネルの焼損 |
太陽光パネルの破損 | 火災 |
土台の故障 | 太陽光設備の損壊 |
火災などの重大な事故が起こると、太陽光設備の復旧はもちろん生活にも影響が及ぶでしょう。便利な設備を安全に利用し続けるためにも、メンテナンスは必要なのです。
参考:消費者安全委員会「消費者安全法第23条第1項の規定に基づく
事故等原因調査報告書」
2020年3月には神奈川県で、木造2階建ての住宅に設置された太陽光パネルの一部などが焼ける火災が発生しています。調べでは配線から出火したのではと考えられています。
一般住宅に設置された太陽光設備でも重大な事故につながることはあるので、日頃からメンテナンスを欠かさないようにしましょう。
参考:神奈川新聞「木造2階建て住宅の屋根の太陽光パネル焼ける」
3-3.設備が故障すると復旧費用や復旧日数がかかる
太陽光の設備が突然壊れてしまうと、2つのリスクを抱えることになります。
1つ目は、復旧にかかる費用です。故障の状況や太陽光の枚数によって異なりますが保証期間や保険などの対象外となると、パワーコンディショナーで20万円程度、太陽光パネルなら1枚10万~15万程度の費用が必要です。定期的にメンテナンスををしていれば、まとまった出費を避けられたかもしれません。
2つ目は、復旧までに日数がかかってしまうことです。太陽光設備が故障している間売電や自家消費がストップしてしまうので、収益が減ってしまったり電気代節約に繋がらなかったりします。継続して太陽光設備のメリットを活かすためにも、大きなトラブル避けたいところです。
このように、メンテナンスをしないことで急な出費や売電による収益の減少を招いてしまうことも知っておきましょう。
4太陽光のメンテナンスの頻度と費用
太陽光のメンテナンスにかかる費用はメンテナンス内容により大きく変動しますが、目安として発電量1kWあたり約3,600円と算出されています。年間80kwの発電量がある場合は、288,000円ほどが必要です。
メンテナンスの頻度は下記のように50kW未満の太陽光は4年に1回以上の実施が好ましく、50kW以上の場合は年に2回のメンテナンスが義務化されています。
50kW未満の太陽光 | 4年に1回以上実施が好ましい |
50kW以上の太陽光 | 年に2回のメンテナンスが義務化されている |
もちろんメンテナンスの他にも目視による日常的な点検も取り入れて、太陽光設備を安全に運用できるよう努めなければなりません。
参考:太陽光発電システムの保守点検ガイドライン
5.太陽光のメンテナンス項目一覧
今のところ太陽光のメンテナンス項目は明確に規定されておらず、ガイドラインを作成している最中とのことです。
ここでは、日本電機工業会と太陽光発電協会が連盟で発表しているメンテナンス項目と主なメンテナンス内容を一覧にしてみました。
メンテナンス項目 | 主な内容 |
太陽光設置スペースの点検 | ・周辺環境、フェンスなど太陽光発電設備周辺の環境 |
パワーコンディショナー | ・ディスプレイ表示 ・内部の劣化や汚れがない ・冷却機能の作動 ・設置環境 |
基礎や土台(パワーコンディショナー) | ・き裂や腐食はない ・傾きがない |
筐体 | ・サビや腐食がない ・ゴミや水の侵入がない |
配線 | ・擦れや断線、損傷がない ・消耗している配線がない |
電線路 | ・腐食や消耗がないか確認 |
太陽電池架台 | ・サビや腐食、変形がない ・杭の抜けや腐食はない |
太陽光パネル | ・こげ跡やき裂、破損がない ・パネル表面の汚れがない ・変形や位置のずれはない |
その他 | ・発電量やデータのチェック ・太陽光設備全体の清掃 |
太陽光パネルはもちろんのこと、配線や架台、パワーコンディショナーなど隅々まで点検し、異常がないか確認していきます。細かな部分まで点検することで、重大な事故や故障を未然に防いでくれます。
参考:太陽光発電システムの保守点検ガイドライン
6.太陽光メンテナンスの注意点
最後に、太陽光設備をメンテナンスするときに知っておきたい注意点を3つご紹介します。メンテナンスを検討する前に、チェックしてみてください。
6-1.メンテナンスの記録は保管をする
第1章で紹介した再エネ特措法5条「保守点検及び維持管理するために必要な体制を整備し実施する」という内容を受けて適切な運営ができていることを証明するために、メンテナンス内容については記録、保管をし必要に応じて提示できるようにしておきましょう。
記録形式については今のところ決まったフォーマットがないため
・メンテナンス日時
・メンテナンスの担当者
・メンテナンス内容
・修理や部品交換をした部分
・気になった部分
・発電量などのデータ
などをまとめて記載しておくと、後から振り返ったときに内容を把握しやすくなります。メンテナンス内容の記録と保管は、再エネ特措法の適用期間内は継続する必要があります。
参考:資源エネルギー庁:「事業計画策定ガイドライン」
6-2.メンテナンスと併せて日常点検も行う
年に数回または4年に1回のメンテナンスだけでは、すぐに太陽光設備の不調や異変に気付くことができません。隅々までしっかりチェックするメンテナンスに加えて、日常点検も実施するようにしましょう。
日常点検は、目視で確認できる範囲で構いません。
・太陽光の送電は通常通り行われているか
・太陽光設備に異変はないか
・太陽光パネルにヒビが入っていたり汚れていたりしないか
など、太陽光設備や周辺をチェックして不調や異変がないか確認をします。太陽光設備そのものに触れるのは大変危険なので、絶対に避けてください。
日常点検で異常が見つかった場合はメンテナンス業者に連絡をすることで速やかな連携ができ、安全に運用できるようになります。
6-3.メンテナンスは知識のあるプロに依頼をする
太陽光設備のメンテナンスは、個人でできるものではありません。配線など電気を扱う部分が多いので、知識のない第三者が触ると故障や関電の恐れがあり大変危険です。
太陽光設備のメンテナンスは、電気工事や太陽光発電メンテナンス技士などの有資格者に依頼するようにしましょう。
FIT制度では出力20kW以上の太陽光設備において「再生可能エネルギー発電事業者」または「保守点検責任者」を標識として設置しなければなりません。
故障やメンテナンスなど何かあったときにすぐに依頼できるようにするためにも、事前にメンテナンスをしてもらう業者を見つけておくことがおすすめです。
太陽光設備のメンテナンスは規模や設置年数によって、重点的に確認すべきポイントが異なります。「太陽光設備のメンテナンスはいくらくらいかかるの?」「メンテナンスはどのように進めて行けばいいの?」など、メンテナンスに関して気になることは下記よりお気軽にお問い合わせください。
7.まとめ
いかがでしたか?
太陽光のメンテナンスの重要性が把握でき、予算やメンテナンス項目などを知った上でメンテナンスの進め方を検討できるようになったかと思います。
最後にこの記事の内容をまとめてみると
◎太陽光のメンテナンスが義務化されている、されていないのは下記のケース
義務化されているケース | ・固定価格買取制度(通称:FIT制度)を適用している太陽光 ・50kW以上搭載の太陽光 |
義務化されていないケース | 50kW未満で固定価格買取制度を適用していない太陽光 |
◎メンテナンスが義務化されていなくてもメンテナンスすべき理由は次の3つ
1)太陽光設備の異常にいち早く気付けるので、故障や火災などの重大な事故を防げる
2)自然環境由来のトラブルを防ぎ、太陽光設備を安全に利用できる
2)メンテナンスの記録を残しておけるので、補償適応時や故障時に役立つ
◎太陽光のメンテナンスをしないリスクは次の3つ
1)太陽光の発電量が低下する
2)火災などの重大な事故につながる恐れがある
3)故障してしまうと復旧費用や復旧日数がかかる
◎太陽光のメンテナンス費用は、目安として発電量1kWあたり3,600円で算出できる。
◎メンテナンスの頻度は50kW未満の太陽光は4年に1回以上の実施が好ましく、50kW以上の場合は年に2回のメンテナンスが義務化されている。
◎太陽光設備の主なメンテナンス項目は下記のとおり
メンテナンス項目 | 主な内容 |
太陽光設置スペースの点検 | ・周辺環境、フェンスなど太陽光発電設備周辺の環境 |
パワーコンディショナー | ・ディスプレイ表示 ・内部の劣化や汚れがない ・冷却機能の作動 ・設置環境 |
基礎や土台(パワーコンディショナー) | ・き裂や腐食はない ・傾きがない |
筐体 | ・サビや腐食がない ・ゴミや水の侵入がない |
配線 | ・擦れや断線、損傷がない ・消耗している配線がない |
電線路 | ・腐食や消耗がないか確認 |
太陽電池架台 | ・サビや腐食、変形がない ・杭の抜けや腐食はない |
太陽光パネル | ・こげ跡やき裂、破損がない ・パネル表面の汚れがない ・変形や位置のずれはない |
その他 | ・発電量やデータのチェック ・太陽光設備全体の清掃 |
◎太陽光のメンテナンスの注意点は次の3つ
1)メンテナンスの記録は管理、保管する必要がある
2)定期的なメンテナンスに加えて、目視による日常点検も行う
3)太陽光のメンテナンスは自分ではできないので、プロに依頼をする
この記事をもとに、長い期間安全に太陽光設備を利用できるようになることを願っています。