系統用蓄電池をご存知でしょうか?太陽光発電や風力発電などの「再生可能エネルギー」が注目される昨今、新しいビジネスモデルでの参入を促す一端として、系統用蓄電池についての法整備が行われました。
この記事では系統用蓄電池について詳しく知りたい方へ向けて、分かりやすく解説していきます。ぜひ参考にしてください。
系統用蓄電池とは
系統用蓄電池とは、電力ネットワークや太陽光発電や風力発電といった再生可能エネルギー発電所などに直接接続する蓄電池を指します。
電力が安定して供給されることを運用目的とし、蓄電池システムの需要と供給のバランスを調整する役割があります。
系統用蓄電池と比較されるのが、定置用蓄電池と携帯用蓄電池の2つです。定置用蓄電池は、家庭で使用する電化製品にも放電が可能な蓄電池で、携帯用蓄電池は、コンセントで充電を行う持ち運び可能な容量の小さい蓄電池のことを言います。
それらに対して系統用蓄電池は、従来の充電・放電を行う目的でなく、天候で出力が左右されやすい再生可能エネルギーの拡大に向けて導入する動きが進んでいます。
経済産業省が推し進めるビジネスモデル「系統用蓄電池事業」
電力ネットワークの安定化を目的とする系統用蓄電池は、新たな事業として市場が拡大しています。
経済産業省によると、2021年10月に策定された第6次エネルギー基本計画において、系統用蓄電池のエネルギーリソースを有効活用していくことが明記されています。ここでは系統用蓄電池事業の概要や、世界市場やメーカーについて詳しく解説します。
電気事業法改正で系統用蓄電池が事業へ位置づけ
2022年5月に改正された電気事業法では、電力を安定して供給し、調整する役割を持つ系統用蓄電池を事業として位置づけることが決定しました。これまでの電気事業法にならって、揚水発電と同様に10,000kW以上の系統用蓄電池を発電事業として、2023年4月より施行予定です。
トラブルが発生した際に電力系統に大きな影響が出ないように、設備容量などを把握して、保安規制などの検討を進めています。
系統用発電地は、脱炭素電源との併用によりますます電力が安定供給できることが期待されています。コストダウンとも相まって、大幅な導入が実現するでしょう。
海外における系統用蓄電池市場
2027年には世界規模で281億ドルとなることが見込まれており、続々と導入が進められている系統用蓄電池ですが、2030年には再生可能エネルギーでの発電電力が80%と見込まれるドイツにおいて、蓄電池はどの程度導入されているのでしょうか。
ドイツ貿易・投資振興機関によると、すでに2018年には家庭用電気料金よりも太陽光発電・蓄電池システムのコストの方が低くなっており、導入が加速しています。
太陽光発電装備と蓄電池を導入した方が電気料金を支払うより経済的という「蓄電パリティ」が起こった理由として、日本の価格の半値以下で購入できることが大きいでしょう。
カーボンニュートラルの実現に向けて、中国や北アメリカ、ヨーロッパにおいても系統用蓄電池の導入が本格化しており、2031年の蓄電池出荷容量は457,880MWhと予測されています。
系統用蓄電池のメーカー一覧(10社)
系統用蓄電池のメーカー10社の一覧はこちらです。
- TAOKE ENERGY株式会社
- 株式会社村田製作所
- 株式会社日立産機システム
- 株式会社ジーエス・ユアサコーポレーション
- 古河電池株式会社
- パナソニック株式会社
- ニチコン株式会社
- ソニー株式会社
- エリーパワー株式会社
- 京セラ株式会社
価格帯は90万~200万円程度まで幅広く、太陽光発電からの充電方法・連携機能もさまざまです。各社の製品を比較検討する際には、蓄電容量やサイズ、保証期間・内容についても調べる必要があるでしょう。
系統用蓄電池事業の市場規模
電気事業法の改正により、系統用蓄電池は発電事業として市場規模を拡大しています。ここでは、詳しい蓄電池の市場規模について解説します。
蓄電池の市場規模は年々拡大
太陽光発電や蓄電池の導入が増えることにより、脱炭素社会が実現しつつあります。
2035年には、定置用蓄電池の市場規模が3兆4460億円になると予測されており、系統用蓄電池は2020年と比較して5倍も拡大される見込みです。定置用蓄電池の種類には以下のようなものが挙げられます。
- 鉛蓄電池
- ニッケル水素電池
- リチウムイオン電池
- ナトリウム硫黄電池
- レドックスフロー電池
この中でもナトリウム硫黄電池や鉛蓄電池はコストが低いというメリットがあり、またレドックスフロー電池は、充放電サイクルの寿命が長く、大型の設備に向いているという特徴があります。
現在、導入拡大に向けて、各メーカーが設計を見直すなどして価格を下げる努力を行っているので、価格競争もますます進展するでしょう。
国内では北海道での導入が増加している
世界中で蓄電池の市場規模が拡大するなか、国内では北海道での導入が急増しています。
北海道電力ネットワーク株式会社によると、2021年頃から系統用蓄電池の接続申し込みが増加。2022年7月時点の申し込み件数は全61件で、北海道内の平均需要の半数近くになっています。
系統用蓄電池の系統連系には、順潮流(充電)と逆潮流(放電)の両方の容量が必要です。
しかし変動所などの系統設備が足らず、系統増強のため長期間工事をしなければなりません。また、工事費用について設置事業者が多額の費用を負担するおそれもあります。
接続申し込みが殺到したことで早急な対応が求められており、順潮流の充電抑制を条件として、準備を進めています。
系統用蓄電池の補助金
電力供給の安定や調整の役割がある系統用蓄電池は、企業に新規参入を促す目的で助成金制度が充実してきました。ここでは政府や東京都での補助金や、2022年(令和4年度)最新の情報についても詳しく解説します。
政府や東京都で補助金制度を導入
経済産業省は2022年春に、「2030年までに国内の企業の蓄電池生産能力を600GWhまで上げる」という目標を掲げました。
2023年度のエネルギー対策特別会計の予算額の中でも「エネルギー受給構造の高度化対策」は3,824億円で去年と比較して741億円増えています。その中でも系統用蓄電池に関する導入支援は100億円、太陽光発電導入の補助金に165億円と要求額が多くなっています。
2022年9月には東京都でも系統用蓄電池の助成金制度を導入し、最大25億円の支援を受けられることになりました。
「電力需給ひっ迫時には東京電力管内へ電気の供給を努める」「定格出力1000kW以上」などの要件を提示し、各メーカーの生産設備投資を促進させる狙いがあります。
【2022年】最新の補助金に関する情報
2022年には、さまざまな地方自治体で太陽光発電と蓄電池に関する補助金制度が導入されています。国や都道府県、市町村の補助金制度は併用できるので、コストを抑えた蓄電池の導入が可能です。
中でも補助金額が最大60万と高額なのが、sii(一般社団法人環境共創イニシアチブ)の「DER補助金」です。siiは経済産業省管轄で、蓄電容量1kWhあたり3.7万円の補助が出ています。東京都でも2022年の蓄電池の補助金が最大80万と高額ですが、予算額は少なめです。
導入を検討している場合は、早めに問い合わせた方がいいでしょう。
系統用蓄電池の今後の課題
系統用蓄電池にはどのような課題があるのでしょうか。ここでは、系統用蓄電池の3つの課題について、それぞれ解説します。
導入へのコスト高
系統用蓄電池の今後の課題として、価格が高止まりしてコストが削減されない点です。開発費や製造設備費が特に高いことから、なかなか新規導入に踏み切れないメーカーも多いでしょう。
いざ導入しようと思っても、数に限りがあるため設備の施工実績を積める事業者は限定的で、価格競争にもならず技術の向上に繋がりません。コスト削減を狙った車載用のリユース電池においては、実運用するための評価方法がまだ確立されていないのが現状です。
コスト高への対応策として、中長期的な視点で市場を見通せるような策定が必要でしょう。
導入メリットの認知度の低さ
系統用蓄電池の今後の課題には、新規導入するメリットが正しく周知されていないことが挙げられます。
系統用蓄電池のレジリエンス価値等が不明確のため、幅広い需要家が導入を決定するきっかけがないと言えるでしょう。
また、蓄電システムの活用方法について熟知した販売手法が少なく、単純な機器販売にとどまっていることも原因と言えます。本来なら、電力需給状況を需要家に提供するシステムやディマインドリスポンスを使った効果的な販売手法が求めらるところです。
認知度向上のためには、蓄電システムの特徴を活かした市場を設計し、慣性力提供等を取引できるようにしなければなりません。
蓄電池への品質評価基準が不明確
系統用蓄電池が抱える課題には、評価基準が確立しておらず、良い製品でも正しく評価されていないことが挙げられます。
各メーカーで販売されている蓄電池は、蓄電容量や保証期間、最大出力など蓄電システムの性能はさまざまです。これらの蓄電池の品質を評価する方法が統一されていないので、導入する際の比較検討が難しいという状況です。
また、蓄電池の導入時だけでなく、運用コストについての評価基準も曖昧です。メンテナンスや保守・管理の運転維持費も含めたコスト評価を規定しなければなりません。
系統用蓄電池に関するまとめ
この記事では、系統用蓄電池の概要から市場規模、現在の課題について紹介しました。再生可能エネルギー発電を有効利用するために徐々に普及している系統用蓄電池は、発電事業として位置づけられたことで国内でも導入が進んでいます。しかしその一方で、拡大のための課題が多く残されています。
現在、品質評価方法やライフサイクル全体を考慮したコスト評価など議論が進められています。今後は補助金制度の導入など、蓄電池の導入促進に向けて環境整備されていくことでしょう。