太陽光発電には、産業用太陽光発電という形式もあります。しかし、具体的にどのような点が産業用なのか分からない方も多いのではないでしょうか。
そこで今回は産業用太陽光発電の特徴や強み、家庭用太陽光発電との違いについて分かりやすくご紹介します。産業用太陽光発電に関心のある個人や法人などは、参考にしてみてください。
太陽光発電の産業用とは?
太陽光発電の産業用は出力と関係があります。個人や法人問わず覚えておくべき用語なので、仕組みやルールを確認しておきます。まずは産業太陽光発電とは、どのような特徴や仕組みなのかご紹介します。
出力10kW以上の太陽光発電設備のこと
太陽光発電の産業用は、出力10kW以上の太陽光発電設備を指します。太陽光発電の出力とは最大発電量のことで、太陽光パネルの枚数や周辺設備の状態によって変わります。なお、kWhと異なるので、混同しないよう気を付けてください。(kWh:1時間あたりの電力量、kW:ある瞬間の最大発電量)
稼働に必要な設備機器の種類は、住宅用太陽光発電とおおむね共通しています。
具体的には太陽光パネルとパワーコンディショナ、配線、架台、接続箱、分電盤などといった機器を用いるのが特徴です。
産業太陽光発電設置の流れ
産業太陽光発電を設置するためには、まず販売業者や施工業者へ相談し、見積書の作成を依頼します。続いて施工業者に設置計画書などを作成してもらったのち、電力会社へ電力の接続契約に関する手続きを進めていきます。
その後は経済産業国に事業計画の認定を受けてもらい、設置や電気工事、連係工事を進めてもらうと設置作業が完了です。
施工主(依頼者)が、現場で作業を行う場面はありません。基本的に書類の確認や契約手続きなどといった作業が中心となります。
- 販売業者や施工業者などへ相談
- 見積もりの確認
- 施工業者による事業計画の策定
- 施工主と電力会社の間で電力の接続に関する契約手続き
- 経済産業局が事業計画の認定
- 設置、電気工事、連係工事開始(連係工事:配電網を発電設備に接続すること)
- 運転開始
弊社サービスでは、土地付き産業用太陽光発電の物件情報紹介およびサポートを行っておりますので、お気軽にご相談ください。
設置場所は屋根以外がほとんど
必要な設備機器は、住宅用太陽光発電とほとんど同じですが、設置場所に関して違いもあります。
産業用太陽光発電は多くの太陽光パネルを必要とするため、原則屋根に設置することはできません。そのため、地面に架台という土台を設置し、その上に太陽光パネルやパワーコンディショナなどを設置・接続していきます。
産業用太陽光発電は、野立て太陽光発電とも呼ばれており、地面に設置=野立てという意味です。
産業用太陽光発電の設置費用相場と補助金
産業太陽光発電には、本体の購入費用や設置工事費用がかかります。購入費用は、太陽光パネルやパワーコンディショナのメーカーによって大きく変わる場合もあります。
そこで、経済産業省の調達価格等算定委員会で取りまとめられた内容から、購入・設置費用の相場を確認していきます。
2020年の購入・設置費用相場は、出力1kWあたり25.3万円(出力10kW以上の設備すべての平均値)とされています。また、出力10kWから50kWの設備購入・設置費用相場は、出力1kWあたり20.4万円です。
たとえば出力10kWの産業用太陽光発電を設置する場合は、約250万円程度必要ということです。
補助金制度に関しては、自家消費を目的とした場合に各自治体独自の制度や国の受けられる可能性があります。(自家消費:売電せず自社、自宅で電気を消費する運用方式)
自治体ごとの補助金制度は、窓口もしくは自治体のWebサイトから確認してみましょう。
産業用太陽光発電と家庭用との違い
続いては、産業太陽光発電と家庭用太陽光発電の主な違いについて、分かりやすくご紹介していきます。
太陽光パネルの出力
そもそも産業用太陽光発電と家庭用太陽光発電は、出力によって区分されています。
産業用太陽光発電: | 出力10kW以上の太陽光発電設備 |
---|---|
家庭用太陽光発電: | 出力10kW未満の太陽光発電設備 |
太陽光発電の出力は設置費用や設置面積、メンテナンス費用、FIT制度の取り扱いなど、呼び方以外にさまざまな点と関係しています。
FIT制度における取り扱い
太陽光発電を一定期間固定価格で売電することができる「FIT制度」では、産業用太陽光発電と家庭用太陽光発電で売電に関するルールも細かく分けています。
※固定買取価格は、資源エネルギー庁のサイトより参考(2021年の固定買取価格)
固定買取価格とは、売電単価のことです。売電収入の大まかな計算方法は、固定買取価格×(1,000kWh×システム容量)なので、出力10kWでは年間12万円程度です。
固定買取期間は、産業用太陽光発電の方が長期間です。買取方法法の全量買取は、発電した電気を全て売電できる運用方式です。一方余剰買取は、発電した電気のうち事務所や自宅で消費しきれなかった電気のみ売電できます。
固定買取期間の長さ、買取方法の選択肢などから比較すると、産業用太陽光発電の方が売電事業に合った方式といえます。
出力によっては構成機器も変わる
太陽光発電は、冒頭でも触れたように以下の構成機器が必要です。
- 太陽光パネル
- パワーコンディショナ
- 配線
- 架台
- 接続箱
- 分電盤
さらに産業用太陽光発電の中で出力50kW以上の設備となる場合は、上記に加えて終電箱とキュービクルの設置および接続が必要となります。この点が、家庭用太陽光発電との構成機器に関する違いです。
集電箱:複数のパワーコンディショナや接続箱から出力された電気を集め、制御する機器
キュービクル:変圧設備、発電した電気を変圧し高圧配電線へ配電
出力50kWの発電設備を稼働させる場合は、高圧受電契約という契約を結び、変圧など送電の関係でキュービクルなどの設備を設置する必要があります。そのため出力50kW以上の産業用太陽光発電も、同様の準備を行います。また、複数のパワーコンディショナを必要とするので、集電箱も設置します。
設置場所および方法が異なる
産業用太陽光発電と家庭用太陽光発電では、設置場所や設置方法に大きな違いがあります。
一般的に住宅の屋根に設置できる太陽光パネルの枚数は、出力に換算すると10kW未満です。そのため、太陽光パネルを住宅の屋根に設置する場合、出力やFIT制度の区分上家庭用太陽光発電となります。
産業用太陽光発電に該当する設備規模では、住宅の屋根に設置できないため、山を切り開いた土地や遊休地など、障害物のない土地へ設置します。
産業用太陽光発電を購入するメリット
続いては、産業太陽光発電を購入、運用するメリットについて紹介していきます。
20年間固定価格で売電収益を見込める
前半でもご紹介したように産業太陽光発電に適用される固定買取期間は、20年間と比較的長期間です。また、家庭用太陽光発電より10年間長く設定されています。
太陽光発電を事業として取り組みたい法人や個人、10年間の固定買取では短期間と感じる方には、メリットの多い運用方法です。
たとえば10kWの産業用太陽光発電を20年間運用した場合、220万円前後の売電収益を期待できます。(2021年の固定買取価格を想定)
家庭用よりも大きな出力で自家消費可能
産業用太陽光発電は、少なくとも出力10kW以上の容量を持つ設備なので、家庭用太陽光発電よりも大きな出力を期待できます。また、自家消費へ切り替えた場合、さまざまな家電や電気機器へ、電源供給できるのも強みといえます。
企業の場合は、工場やオフィスの照明やその他機器類の電力を太陽光発電で一部カバーできるので、固定費削減にもつながります。
自家消費型太陽光発電も含めた運用を検討している方、家庭用太陽光発電の発電量では電気代削減効果が小さいと感じる方は、産業用太陽光発電を検討してみてはいかがでしょうか。
非常時に電源供給可能
産業用太陽光発電のみのメリットではありませんが、災害などによる停電時に非常用電源として活用できます。
日本は、地震や豪雨、台風など自然災害の多い環境です。災害状況によっては、インフラの復旧まで1週間以上かかる場合もあります。
企業にとって電気は生産活動に欠かすことができませんし、個人にとっても在宅避難の際に重要な役割を果たします。さらに高圧電力契約を交わしている企業の場合は、買電量の削減によって電気料金の基本料金を下げられます。(ピークカット効果)
産業用太陽光発電のパワーコンディショナを自立運転対応型に切り替えておけば、万が一停電した場合、発電した電気を専用のコンセントから使用できるようになります。
遊休地を有効活用できる
産業用太陽光発電は、活用されていない土地「遊休地」を有効活用できます。出力10kW程度の太陽光発電は、45坪前後の土地面積があれば設置可能です。
たとえば、両親から相続した農地や山林、住宅などを活用できず放置している場合は、産業用太陽光発電に活用できますし、売電収入や電気料金削減といったメリットも得られます。
企業の場合も、余った土地に産業用太陽光発電を設置することで、売電収入や電気料金削減といったメリットを得られます。さらにCSR活動にもつながるので、ESG投資の対象として捉えてもらえる可能性もあります。(ESG投資:環境、社会、ガバナンスに配慮した活動を行っている企業へ投資を行うこと)
産業用太陽光発電を購入するデメリット
ここからは産業用太陽光発電を購入、設置する主なデメリットについて紹介します。
固定買取価格が年々下がっている
FIT制度で定められている固定買取価格は、毎年算出し直されています。そして、産業用太陽光発電向けの固定買取価格も、毎年下落傾向となっています。
これから太陽光発電を設置する個人や法人には、特にデメリットといえるポイントです。
FIT制度の始まった2012年の固定買取価格は40円/kWhでしたが、毎年2~4円程度下がり、2020年には12円/1kWh(10kW以上50kW未満:)となりました。
つまり、2012年に産業用太陽光発電を新規設置した方と2020年に始めた方では、1kWhあたり25円以上差が生じます。
ただし、2012年や2013年などに設置された中古太陽光発電所を購入した場合は、新規設置された年の固定買取価格が適用されます。そのため高単価の売電収入を期待できます。
弊社では中古太陽光発電所を紹介していますので、固定買取価格27円や36円で売電可能な設備も購入することが可能です。ご関心のある方は、ぜひ1度ご相談してみてください。
太陽光発電設備の設置場所の確保が必要
産業用太陽光発電は、出力10kWでも原則住宅の屋根に設置できません。過積載という太陽光パネルを通常の仕様よりも数枚増やす設置方法もありますが、メーカー保証などといった点でリスクのある選択です。
産業用太陽光発電を設置するには、周囲に建物や障害物の少ない平地を確保しておく必要があります。太陽光発電設備の購入費用と設置費用、さらに土地の取得必要がかかります。
費用面以外にも太陽光発電に適した土地の選定を行う必要がありますし、造成工事を行う場合もあります。
産業用太陽光発電を始める場合は、土地の取得方法や太陽光発電に合った土地の条件などを調べておくのが大切です。
土砂災害などで倒壊のリスクあり
産業用太陽光発電の設置場所によっては、土砂災害に巻き込まれたり土砂災害の原因となったりしてしまいます。また、設備の破損・倒壊のリスクがあります。
他にも自然災害によって、以下のようなリスクが生じます。
- 台風や暴風によって太陽光パネル、周辺機器や金具が飛散
- 台風などによって石などが太陽光パネルに直撃
- 河川の氾濫や津波によって太陽光発電設備も水没
- 塩害による錆びや破損
- 積雪によって太陽光パネルが破損
太陽光発電を始める時は、設置地域の災害リスクを調査し、保険への加入や災害対策を検討するのが大切です。
定期的にメンテナンス費用がかかる
産業用太陽光発電は、家庭用太陽光発電よりも太陽光パネルの枚数や配線、パワーコンディショナの数などが多く、その分メンテナンス費用もかかります。
経済産業省の調達価格等算定委員会で取りまとめられた資料を参考にすると、出力10kWのメンテナンス費用は、年間5万円前後です。また、出力50kWでは、15万円前後のメンテナンス費用がかかります。
産業用太陽光発電の予算を検討する際は、設置費用だけでなくメンテナンス費用も含めるのが大切です。
蓄電池を組み合わせることで効率的な運用が可能
産業用太陽光発電単体では、発電した電気を蓄えられません。
消費電力量の多い時間帯に太陽光発電を活用したい場合や自家消費が太陽光発電を見据えた運用を行う際は、蓄電池との組み合わせがおすすめです。
蓄電池は、発電した電気の蓄電に加えて任意のタイミングで放電(使用)できるようになっています。
産業用太陽光発電は個人でも始められる
産業用太陽光発電とは、出力10kW以上の太陽光発電設備のことです。産業用という表記ですが、個人でも設置・運用できます。家庭用太陽光発電と異なり、固定買取期間20年間、全量買取を選択することが可能です。また、固定買取価格も産業用と家庭用で異なります。
固定買取価格は年々下落しており、自家消費型太陽光発電への切り替えも含めて事業計画を立てるのが大切です。また、売電収益を伸ばしたい時は、固定買取価格の高い設備もある中古太陽光発電所を調べた方がメリットを得られる場合もあります。
産業用太陽光発電を始める場合は、収支バランスの計算や設置予定箇所の災害リスクなど、メリットやリスクを理解した上で検討してみてはいかがでしょうか。