水力発電は再生可能エネルギーの1つで、昭和の時代から活用されています。発電効率の高さなどに強みがある一方、デメリットや課題も存在しています。
そこで今回は、水力発電のデメリットやメリット、費用や代替策について詳しくご紹介します。脱炭素経営のために水力発電を検討している方や、水力発電事業の将来性を知りたい方などは参考にしてみてください。
水力発電の仕組み
水力発電では、水と位置エネルギーを利用して電気をつくり出しています。
具体的には、高い場所に溜めておいた水を低い場所に流し、落差による水の勢いでタービンもしくは水車を回転させます。また、発電機に設置されているタービンが回転すると、回転力から電気を生み出す仕組みです。このように発電の仕組みはシンプルなので、古くから活用されています。
水力発電の特徴
続いては、水力発電の特徴についてわかりやすく解説していきます。
発電方式にも種類がある
水力発電の種類は、水をどのように利用するかによっても変わります。検討する際は、種類とそれぞれの特徴を把握した上で選定しましょう。
以下に、水の利用方法をベースにした水力発電の種類を紹介します。
水力発電の種類 | 仕組みや特徴 |
---|---|
揚水式 | 水力発電所の設置場所周辺の上流と下流にダムを設置 電力が必要な場合は、上流のダムから放水した水を水力発電所へ流す 電力需要の低い夜間などに下流のダムから水をくみ上げて上流のダムへ水を溜める 蓄電池を設置しなくても余剰電力で水をくみ上げられる |
流れ込み式 | 自然に構築された河川を活かして水力発電所を設置する 河川に流れている水の勢いを利用して発電するため、発電量を一定に保つことが難しい 発電所の設置コストを抑えられる |
調整池式 | 川の水を溜められる小規模な池をつくり、池から水力発電所へ水を流して発電 1回に溜められる水の量を発電量に直すと、1日~1週間程度なので、他の水力発電所と比較して小規模 |
貯水池式 | 調整池式と同じく調整用の池に貯めた水を活用して水力発電を行う 調整池式とは設備規模が異なる 大規模な池を利用するため、夏場や冬場など季節ごとに生じる電力需要の変動に対応できる 大規模なダムを建設する必要があるため、周辺環境に影響を与える可能性がある |
流れ込み式と調整池式の水力発電所は、設備規模やシンプルな構造といった点から、他のタイプよりコストを抑えながら導入できます。
一方、貯水池式水力発電は大規模な設備で、数週間以上の電力をカバーする必要がある場合に適しています。揚水式は水のくみ上げで電力を使用するため、エネルギー効率という点で他の発電所よりも非効率的です。ただし、ダムが蓄電池の代わりとして機能しているのが強みです。
水力発電所の構造によっても区分される
水力発電の種類は、運用方法だけでなく構造別によっても区分されています。
以下に水力発電を構造別に紹介します。
水力発電の種類 | 仕組みや特徴 |
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ダム式 | 河川をせき止めるようにダムを建設し、ダムの下部に水力発電設備を設置する 貯水池や調整池式の水力発電所を運用するのに適している ダムの建設には、両岸に岩がなければいけない、落差をつくるために高い堤防が必要、などといった課題もある |
水路式 | 既存の河川に水路を引き、落差のある場所から水を落として水力発電を行う 水力発電に通した水は河川に戻す 勾配が緩やかな水路を形成するため、河川の水量や水流の影響を受けずに運用が可能 ダム式のように水を溜める設備がなく、水流や水量を大幅に増やすことはできない |
ダム水路式 | 川をせき止めるようにダムを建設する ダムの先に水路を構築し、落差のある場所まで水を流す 水を落とす際に水力発電所を通し、発電を行う |
上記のうち、特に効率的な発電方式はダム水路式と言えます。
ダム式は大量の水を溜められるので、大規模な発電設備を運用したい場合に適しています。ただし、既に大規模なダムおよび水力発電所が建設されているため、新たにダム式発電所を建設できる場所は少ない状況です。
水路式は場所の制約を受けにくく、これから始める企業には導入しやすい設備だと言えます。しかし、大規模な発電設備を構築できないのがデメリットです。
一方、ダム水路式であれば水を溜める場所と落とす場所を別々にできるので、ダム式より建設しやすく、水路式より出力を上げやすいといった強みがあります。
水力発電のデメリット
水力発電で脱炭素経営を始める場合は、デメリットを把握した上で導入すべきか判断するのが大切です。ここからは、水力発電のデメリットについて1つずつ確認していきましょう。
ダム建設の可能な場所が少ない
国内では、過去に多数のダム建設および開発が行われました。そのため、これから新規で大規模な水力発電所を建設するのは難しい状況です。
このような背景もあり、2023年時点で新設されている水力発電所の多くは、中型・小型の水力発電設備です。他にも近年では新規のダム開発ではなく、既存のダムを活用した水力発電設備の設置が進められています。
これから売電や自家消費を検討している企業は、中小水力発電設備もしくは別の再生可能エネルギー設備の導入を検討してみるのがおすすめです。
なお経済産業省の「令和5年度以降の調達価格等に関する意見」によると、中小水力発電所の出力は3MW未満とされています。
出典:経済産業省ウェブサイト
ダムや水路建設の費用負担が大きい
水力発電所の初期費用は、1kWにつき30万~200万円で推移しています。
経済産業省の「令和5年度以降の調達価格等に関する意見」には、「出力と資本費」という項目で出力ごとの費用について公開されています。
出力 | 資本費の中央値(1kWの費用) |
---|---|
200kW未満 | 195万円 |
200kW以上1,000kW未満 | 135.3万円 |
1,000kW以上5,000kW未満 | 94.3万円 |
5,000kW以上30,000kW未満 | 33万円 |
※資本費:建設費などを指す。
出典:経済産業省ウェブサイト
水力発電所にかぎらず、再生可能エネルギー発電設備のコストは、設備規模・出力が大きくなるほど低下していきます。
ただし水力発電所の初期費用に関しては、出力5,000kW以上の設備でも太陽光発電と比較して高い水準にあります。
太陽光発電所の初期費用は1kWにつき16.2万~24.7万円で、コストの低い出力5,000kW以上30,000kW未満の水力発電よりも約10万円程度安い傾向です。
可能なかぎり初期費用負担を抑えながら脱炭素経営を始めたい時は、太陽光発電を検討した方がいい場合もあります。
一定の発電量を保てない場合も
水力発電は、天候の影響を受けやすい発電設備の1つです。
特に降水量の少ない日が続いてしまうと川やダムの水量も減ってしまい、発電量の大幅な減少につながってしまいます。
水力発電を運用していく場合は、設置場所の年間降水量をはじめとした天候に関するデータを分析し、時期による降水量の変動と収支のバランスを算出しておく必要があります。
ダム建設によって生態系に影響をおよぼす可能性
水力発電に必要なダムを建設する場合、周辺の環境や生態系に影響を与えてしまう可能性があります。
ダムが建設されると、これまで水と共に流れていた砂などもせき止められます。そのため、下流では水や砂などの流入量が減少し、生物が育ちにくい環境へと変化してしまうリスクも発生します。また、ダム建設によって周辺住民に移住を迫らなければいけないケースもあるため、慎重に検討する必要があります。
自家消費する場合は自己託送が必要な場合も
一般的に水力発電所は河川の周辺に設置されることから、自家消費を前提に運用していく場合は自己託送が必要になることがあります。すると自家消費自体は可能なものの、その分、維持管理費用が増えてしまいます。
自己託送とは、一般送配電事業者が運用管理している送配電設備を通して、自社敷地内へ送電できるサービスおよびシステムのことです。
この制度を利用するには、一般送配電事業者に自己託送料金を支払う必要がありますし、インバランスに沿って送電しなければいけません。(インバランス:事前に電力会社へ提出した電力需要と発電量の予測値と、実際の数値で生じた差分をコストとして支払う)
水力発電のメリット
続いては、水力発電の運用メリットについて確認していきましょう。
発電効率が比較的高い
発電効率の高さは、水力発電の大きなメリットです。
水力発電の発電効率は80%前後で、ベース電源の火力発電や原子力発電より高い水準です。また、再生可能エネルギーの中でも特に発電効率の高い発電設備なので、エネルギー損失を抑えながら電力を取り出せます。
効率的な発電という点を重視およびアピールしたい場合は、活用しやすい設備と言えます。
温室効果ガスの排出抑制という点から脱炭素化をアピールできる
水力発電は、温室効果ガスの排出を抑えながら発電できます。そのため、二酸化炭素排出削減実績を伸ばし、脱炭素経営をアピールすることが可能です。
近年、気候変動問題の深刻化に伴い、国や自治体、企業では、持続可能な社会に向けて脱炭素化への取り組みを行っています。また投資家は、投資の指標としてESGという環境・社会・ガバナンスを軸にした分析を用いています。
水力発電による脱炭素化や二酸化炭素の排出量削減は、環境への負荷低減に貢献できますし、投資家や企業・消費者からの信頼性アップにつながります。
燃料調達コストを抑えられる
水力発電の場合は、火力発電や原子力発電、バイオマス発電と異なり燃料の調達が不要です。燃料調達コストの削減は、電気料金値上げや物価高の状況下で大きなメリットと言えます。
さらに揚水式の水力発電なら、発電に使用した水を下流のダムからくみ上げて再度利用できます。「発電+蓄電池」のようなシステムで運用できるのは、水力発電の強みです。
脱炭素経営に水力発電は適しているか?
水力発電の特徴について把握した方の中には、「結局のところ脱炭素経営に水力発電を導入すべきなのか?」といった疑問を持っている方も多いかと思います。
そもそも大規模な水力発電所は既に多くのダムや河川周辺に設置されていて、新たに設置するのが難しい状況です。
一方、1,000kW未満の小型水力発電所は比較的小規模な河川や水路などに設置できるため、さまざまな場所で運用しやすい設備と言えます。またダムの建設が不要なので、初期費用や建設の手間という点でもメリットの多い設備です。
ただし、水力発電を設置するには水の利用に関する許可などが必要であり、複雑な手続きを進めなくてはいけません。
権利関係を含めた複雑な手続きにデメリットを感じる場合や、大規模な設備開発も視野に入れている時は、次に紹介する非FIT型太陽光発電の方がおすすめです。
非FIT型太陽光発電なら水力発電より導入しやすい!
非FIT型太陽光発電は、初期費用やスムーズな設置といった点でメリットの多い再生可能エネルギー設備です。またFIT認定を受けないので、同制度の規制に左右されることなく運用できます。
そこで最後は、非FIT型太陽光発電の強みについて詳しく解説します。
水力発電より初期費用を抑えられる
非FIT型太陽光発電は、水力発電よりも初期費用を抑えられるのが特長です。
前半でも触れたように、太陽光発電の初期費用は1kWあたり20万円前後です。出力200kW未満の水力発電は1kWあたり195万円で、約10倍の差が生じています。
初期費用負担を抑えながら脱炭素経営へシフトしていくには、非FIT型太陽光発電の方が合っています。
設置場所の自由度が高い
非FIT型太陽光発電は、地上や屋根、水上、カーポートなど、さまざまな場所で発電を始められます。水力発電より設置場所の制限が少ないので、多くの企業にとって導入しやすい再生可能エネルギー発電設備だと言えます。
自社の敷地内で自家消費したい時や、設置場所の自由度を重視している時は、特におすすめの再生可能エネルギー発電設備です。
蓄電池の併用で夜間も電力を活用可能
非FIT型太陽光発電は産業用蓄電池と連携できるため、日中に発電した電気を夜間や消費電力の多い時間に自家消費できます。
太陽光発電は、再生可能エネルギーの中でも広く普及している設備であり、関連機器の研究開発も進んでいます。太陽光発電向けの蓄電池も販売されていますし、V2Hとの連携も可能です。
電力の効率的な活用という点でも、太陽光発電の方がメリットの多い設備だと言えます。
水力発電の設置が難しい場合は太陽光発電の活用がおすすめ!
水力発電は、発電効率の高さや二酸化炭素排出量削減効果という点でメリットがあります。ただし、1kWあたりの費用が高く、設置許可などに関する手間や負担もかかります。
脱炭素経営に向けて水力発電を検討したいが費用面で断念した方や、水力発電に加えて他の方法でも脱炭素経営を進めたい方は、今回の記事を参考にしながら太陽光発電を検討してみてはいかがでしょうか。
とくとくファーム0では、非FIT型太陽光発電所由来の電力供給や設備の設置運用などに関する総合的なサポートを行っています。無料の個別セミナーでは、太陽光発電だけでなく脱炭素経営の基本や補助金制度など、幅広い内容について説明します。
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