陸上養殖は、養殖業を行なっている・これから始める事業者にとって注目の養殖方法と言えます。また、再生可能エネルギーと組み合わせた実証実験も行なわれていて、脱炭素経営にもつながる事業です。
そこで今回は、陸上養殖の仕組みや費用、メリットやデメリットについて詳しく解説します。養殖業を営んでいる方や養殖業への進出を検討している方などは、参考にしてみてください。
陸上養殖とは
養殖業は、魚や海藻、貝類などを人の手で整備した設備内で飼育、繁殖させる方法および産業を指します。
一般的な養殖は、海の一部に養殖用の設備を設置し、魚介類を飼育します。対して陸上養殖は、文字どおり陸上で養殖を行なう方法のことです。プールや水槽などで養殖するため、海の環境に左右されず飼育・繁殖を進められます。
陸上養殖の種類
陸上養殖を始める際は、どのような方式で養殖を進めるのか、種類を理解した上で検討するのが大切です。
それでは、陸上養殖の種類について1つずつ確認していきましょう。
閉鎖循環式
閉鎖循環式は、海や川などと完全に分離された陸上のプールや水槽などで魚介類を養殖させる方式です。
養殖施設内で使用している水は魚の排せつ物などで汚れていくため、水槽と接続された装置でろ過および殺菌します。
外部の環境から影響を受けにくく、なおかつろ過装置で水質を一定に保てるのが、閉鎖循環式の主なメリットです。さらに魚介類の生育環境に合わせて水温などを調整できるため、さまざまな種類に対応することが可能です。
ただし閉鎖循環式を採用する場合は、電力と高度なろ過技術が必要です。また、魚の排せつ物や汚れなどがろ過装置に溜まりやすく、定期的な清掃も欠かせません。
かけ流し式
かけ流し式は、海や川、井戸などから水をポンプでくみ上げて水槽に供給し、古い水を排水していく方式のことです。
閉鎖循環式と異なりろ過装置などが不要で、設備の導入費用を抑えられるのがメリットと言えます。また、海水などの自然の新鮮な水を供給できるため、安定した水質を保ちやすいといった強みもあります。
主な課題として、古い汚れた水をそのまま排水する点や、自然の水を利用する関係上、水質調整が難しいといった点などが挙げられます。
半閉鎖循環式
かけ流し式と閉鎖循環式のハイブリッド型が、半閉鎖循環式の主な特徴です。
具体的には、海や川などの水をポンプでくみ上げて水槽へ供給し、古い飼育水をろ過・殺菌しながら一部を再利用する仕組みです。水質管理を行ないやすい反面、かけ流し式より設備コストや保守点検の負担がかかります。
閉鎖循環式の技術に対応するのが難しいという問題もありますが、環境負荷を一定程度抑えながら養殖を始める場合は、導入検討しやすい選択肢と言えます。
陸上養殖に必要な設備
陸上養殖を始めるには、まず養殖魚を育てるための水槽と循環・取水用ポンプが必要です。
かけ流し式の場合はろ過装置が不要なので、上記の水槽とポンプで養殖を進めることが可能です。
半閉鎖循環式・閉鎖循環式で養殖を行なう場合は、水槽とポンプに加えてろ過装置と殺菌装置を設置する必要があります。
殺菌装置は、次亜塩素酸などで水槽内に含まれているウイルスや雑菌などを殺菌する設備です。またろ過装置に関しては、物理ろ過と生物ろ過の2種類の方式があります。
物理ろ過とは、ゴミやほこり、排泄物といった目に見えるものをろ過する装置のことです。一方、生物ろ過は、バクテリアを活用して生体に影響のある小さな物質や微生物を取り除いていく装置を指します。
この他、陸上養殖には水温を調節するための水温調節機も必要です。
陸上養殖の初期費用
陸上養殖の初期費用は、一般的に数1,000万円~10億円程度かかります。
ただし、最近ではスタートアップ企業などが小型陸上養殖設備を開発しており、1,000万円以下でも導入可能になりつつあります。そのため今後も開発が順調に進めば、500万円前後もしくは500万円以下の資金で陸上養殖を始められる可能性もあります。
なお、初期費用と維持管理費用の中で特に負担の大きい項目は、設備費用と電気代です。前述したように、設備費用は小型設備の開発によって安く済ませられる可能性もあります。
一方、電気代を抑えるために設備の稼働時間を減らそうとしても、魚介類の飼育にかかわるため実行できません。そこで、後半で紹介する再生可能エネルギーの併用が注目されています。
陸上養殖のメリット
ここからは、陸上養殖の導入メリットについて解説していきます。
自然環境の影響を避けながら育てられる
閉鎖循環式の場合は、自然・外部環境の影響を避けながら魚や貝類などを飼育できます。
閉鎖循環式では外部から水を供給しないため、海や川の温度変化による影響を受けずに済みます。また水温調整設備により飼育に適した温度で育てることも可能です。
さらに、塩分濃度の調整なども可能なので、生育期間の短縮などを図れるのが強みと言えます。
漁業権の範囲外で参入しやすい
陸上養殖は漁業権のおよばない場所で始めることができることから、参入しやすい方法の1つでもあります。
漁業権とは、漁業可能な水域に関する権利のことで、次の3種類に分かれています。
- 共同漁業権
- 区画漁業権
- 定置漁業権
共同漁業権のある水域は漁業協同組合連合会・漁業協同組合で管理されおり、組合員であれば、管理水域内で養殖を始めることができます。
区画漁業権と定置漁業権については、漁業関連の法人や個人などが保有しています。
ただし、どちらにしても手続きなどに時間と手間がかかり、スピーディかつ自由に養殖を始めることは難しいと言えます。
一方、陸上養殖は漁業権の範囲外なので、土地さえ取得すればスムーズに事業の準備を行なうことができます。
寄生虫の発生を抑えやすい
陸上養殖は、海での養殖と比較して寄生虫の発生を防ぎやすい養殖方法でもあります。
海での養殖は、網などで施設の外と内側を区切ります。しかし寄生虫は網の隙間からも侵入するため、影響を完全に防げません。
一方、陸上養殖の中でも閉鎖循環式を選択した場合は、海や川、井戸水を供給せず、外部環境からも遮断できるため、水中からの寄生虫侵入を防ぎやすい環境です。
場所を選ばないため輸送コストの削減を目指せる
陸上養殖の場合は、さまざまな場所で設備設置・運用を始められるので、人件費や輸送コストの低減を図れます。特に維持管理コストの削減を目指している事業者にとっては、大きなメリットと言えます。
また、市街地の近くで養殖を始めることも可能なので、より新鮮な魚を消費者に安く届けられるのも強みです。
陸上養殖のデメリット
続いては、陸上養殖の主なデメリットについて解説します。
初期費用が高い
陸上養殖を始めるためには、数1,000万円以上の資金を調達する必要があります。また、土地を所有していない場合は、別途土地の選定と取得費用がかかります。
資金に余裕がない方や、なるべく費用を抑えながら事業を始めたい方には課題と言えるポイントです。ただし前半でも紹介したように、小型の陸上養殖施設も開発され始めているため、今後は1,000万円以下の費用で事業をスタートすることが可能になるかもしれません。
維持管理コストや手間がかかる
陸上養殖を始める場合は、水質や水温管理、ポンプなどの設備に異常が起きていないか日々チェックする必要があります。また閉鎖循環式陸上養殖システムの場合は、ろ過装置の定期的な点検や水質の変化に関するチェックも重要です。
水質や水温が変わってしまうと、魚や貝類などの生育に影響を与えてしまいます。そのため、日々の水質・水温の他、養殖魚に異変が起きていないか日々細かくチェック・管理することが求められます。
また飼育中はポンプやろ過装置、周辺設備の稼働を止められないため、常に電気代がかかります。
災害による大きな被害が想定される
陸上養殖の場合は、洪水による水害や暴風による設備の損壊、停電による設備停止および養殖魚の全滅リスクなども想定されます。
これから陸上養殖を始める時は、設備設置予定地域の災害リスク調査に加え、非常用発電機などのバックアップ用電源の確保や災害対策を進めることが重要です。
中でも電力に関しては、長期停電のリスクも考えられます。特に大規模災害が起きた場合は、数日から1週間以上停電してしまう可能性があり、電力必須の陸上養殖にとってはハイリスクな状況です。
そこで、おすすめなのが再生可能エネルギー発電設備の太陽光発電です。後半では、太陽光発電と陸上養殖の相性についてわかりやすく解説していきます。
太陽光発電の電力を活用した陸上養殖の成功事例もある?!
長崎県壱岐市は、気候変動対策に取り組む自治体の1つで、漁業への影響についても懸念を示しています。そこで同市は、東京大学先端科学技術研究センターと共同プロジェクトを発足し、再生可能エネルギーを活用したさまざまな実証事業を進めています。
その1つが、フグの陸上養殖です。
養殖事業も手がけている「株式会社なかはら」では、フグを陸上養殖で育てています。しかし、曝気(水中に酸素を送り込む工程)に必要な酸素の製造コストが高く、酸素を含む空気を送り込んでいます。
そこで壱岐市と東京大学先端科学技術研究センターは、陸上養殖システムの隣に太陽光発電システムと水電解装置、蓄電池などを設置しました。
これにより養殖システムと酸素の製造に必要な電力を太陽光発電でカバーでき、電気代の削減と効率的な稼働が実現しました。
陸上養殖において全量自家消費型太陽光発電と相性がいい理由
陸上養殖システムを導入する場合は、全量自家消費型太陽光発電を併用するのがおすすめです。全量自家消費型太陽光発電とは、太陽光発電で発電した全ての電気を自社で消費する運用方法のことです。
しかし、具体的にどのようなメリットを得られるのか、どれくらい相性がいいのかわかりにくいところです。
そこで最後は、陸上養殖に全量自家消費型太陽光発電がおすすめの理由についてわかりやすく解説します。
電気料金の大幅な削減が可能
陸上養殖と太陽光発電の事例でも触れたように、太陽光発電を導入して自家消費した場合、電気代の負担を大幅に削減することが可能になります。
2022年から続くロシアによるウクライナ侵攻などで電気代は値上がりし、物価高も続いています。陸上養殖システムでは、ポンプやろ過装置などさまざまな機器を常時稼働させなければいけないため、電気代の負担も増えてしまいます。
全量自家消費型太陽光発電を併設すれば、施設内の照明をはじめ水温調整設備、ろ過装置、ポンプなどあらゆる設備に電力を供給できるだけでなく、その分、電力会社からの買電量(電気代)を削減できます。
和上ホールディングスから導入した企業様のケースでは、出力200kW台の太陽光発電設備導入後に年間400万円程度の電気料金を削減しています。
産業用蓄電池との併用で夜間や発電量不足の場面でも自家消費可能
全量自家消費型太陽光発電は、産業用蓄電池と連携することでさまざまな場面で自家消費を継続できます。
陸上養殖では、常時ポンプやろ過装置、水温調整設備等を稼働させておく必要があるので、時間帯にかかわらず電力を消費し続けています。そのため夜間や早朝でも電力が必要です。
産業用蓄電池と連携可能な全量自家消費型太陽光発電を導入すれば、日中に発電した電気のうち一部を蓄電池に充電しておき、夜間や消費電力の多い時間帯、雨などで発電量の不足した場面でカバーすることが可能です。
二酸化炭素排出量削減でESG経営という点でもメリットあり
全量自家消費型として太陽光発電を導入すれば、ESG経営という点でもメリットを得られます。
企業は業績だけでなく、気候変動や人権などさまざまな問題への取り組みについても評価されています。中でもESGは投資家などから重視されている指標の1つで、具体的には、環境・社会・ガバナンスの3点を意識した経営が求められます。
閉鎖循環式の陸上養殖システムは、自然の海や川に影響を与えることなく養殖業を展開できますし、水産資源保護という点でもメリットがあります。
さらに、全量自家消費型太陽光発電は気候変動の原因とされている二酸化炭素を排出せずに発電できるため、環境へ配慮された発電設備と言えます。
このように、陸上養殖システムと全量自家消費型太陽光発電は、自社の企業価値を高める上でもおすすめの組み合わせです。
陸上養殖施設の屋根などさまざまな場所に設置可能
全量自家消費型太陽光発電は、地上だけでなく屋根設置にも対応しています。そのため、耐荷重や陸上養殖施設の大きさによっては、屋根に太陽光パネルを敷き詰めることが可能です。
地上設置の難しい環境であれば屋根設置を検討できますし、屋根設置だけでは出力不足ならば、別途地上設置用の架台を用意して太陽光パネルを増設することも可能です。
水力発電や地熱発電などは設置場所が限られます。また風力発電の場合は、常に風の吹いている場所でなければ発電を継続できません。
太陽光発電は屋根や地上に設置でき、日光の届く場所であれば発電を継続できます。
このように設置環境に合わせて設計運用できるのが、全量自家消費型太陽光発電の強みでもあります。
陸上養殖とは場所を選ばない養殖方法のこと!太陽光発電で電源確保も可能!
陸上養殖とは、海や川ではなく陸上に養殖施設を設置し、魚などを飼育・繁殖させる方法のことです。しかし陸上養殖には多くの電力が必要で、電気料金負担という点で課題もあります。そこで太陽光発電を併設すれば、電気代の負担を削減できるだけでなく、企業価値の向上も見込めます。
陸上養殖に関心を持っている方や養殖業を展開していて陸上養殖を検討している方は、今回の記事を参考にしながら全量自家消費型太陽光発電の併設も検討してみてはいかがでしょうか?
和上ホールディングスは、さまざまな方式の自家消費型太陽光発電に関するプランのご提案と、設計から部材調達、設置工事、運用保守まで一括対応しています。
また、地上設置型だけでなく屋根設置型にも対応しているので、今回解説している陸上養殖施設への設置についてもサポートが可能です。
自家消費型太陽光発電が少しでも気になった方は、お電話やメールでお気軽にご相談ください。和上ホールディングスHPのかんたん見積もりフォームなら、6項目の質問に答えるだけで導入費用をご確認いただけます。