太陽光発電に関する事業は、日本だけでなく海外でも推進されています。中でも台湾で進められている漁電共生には、日本企業も参画し始めています。養殖業もしくは太陽光発電事業を行なっている事業者とって、特に注目の内容だと言えます。
そこで今回は、漁電共生の意味や特徴、事例について詳しく解説します。太陽光発電を活かした事業を検討している方や養殖業を行っている方などは、参考にしてみてください。
漁電共生とは?
漁電共生とは、養殖池に太陽光発電設備を設置し、養殖業を行ないながら発電事業も展開していく事業のことです。
近年では、台湾の企業が経済活性化や再生可能エネルギーの活用及び安定協供給などを目指し、漁電共生に取り組み始めています。また台湾政府は、原子力発電所の停止と再生可能エネルギー発電所の稼働率向上を目標としており、漁電共生プロジェクトを立ち上げている企業にとっていい環境と言えます。
また日本においても、企業が台湾の漁電共生プロジェクトに参入し始めていて、今後の成長性にも期待できる事業です。
漁電共生の主なメリット
続いては、漁電共生の主なメリットについて解説していきます。
二酸化炭素の排出削減による環境負荷軽減
二酸化炭素の排出量削減による環境負荷を軽減できるのが、漁電共生の大きなメリットと言えます。
火力発電は化石燃料を燃焼させるため、温室効果ガスを排出するのに加えて有限の化石燃料に頼らざるを得ません。しかし太陽光発電は、太陽の光を吸収して電気を生み出す発電設備なので、発電時に二酸化炭素を排出しません。また化石燃料を使用せず、エネルギー不足のリスクを低減することが可能です。
漁電共生を通じて太陽光発電が普及すれば、気候変動につながる二酸化炭素を含む温室効果ガスの排出量を削減でき、自社の脱炭素経営を加速させられます。
太陽光パネルの断熱効果に期待
漁電共生を導入した場合、太陽光パネルによる断熱効果を期待できるのも注目すべきポイントの1つです。
養殖で安定的に魚や貝類などを生育させるには、それぞれに最適な水温を維持しなければいけません。しかし気温や日光による影響を受けるため、水温の変化リスクに気を付ける必要があります。
漁電共生は養殖場に太陽光パネルを設置する方式であり、直射日光を遮断することが可能です。つまり、太陽光パネルによって断熱効果を得られることは、養殖業においてメリットでもあります。
大雨による雨水流入リスクを軽減
養殖場の上に太陽光発電を設置すると、大雨による雨水流入リスクの軽減にもつながります。
海藻類や魚、貝類などは、塩分濃度によって成長できるかどうか変わります。そのため、大雨などによって大量の雨水が養殖場に流入してしまうと、養殖魚などを育てられないケースも出てきてしまい、最悪の場合は事業の存続にかかわることも考えられます。
太陽光発電設備は屋根としても機能するので、雨水の流入だけでなく塩分濃度の大きな変化を抑えることが可能です。特に日本は災害大国で台風や豪雨被害も起きやすく、養殖業にとっても厳しい環境なので、漁電共生を検討する価値があるかもしれません。
漁電共生の課題
漁電共生には、環境および養殖業にとっていくつかのメリットがある一方で、課題も残されています。
ここからは、漁電共生の課題についてわかりやすく解説していきます。
場合によって生育不良の場合がある
太陽光発電設備の設置環境や養殖魚や海藻の種類によっては、漁電共生を取り入れても生育不良を招いてしまう可能性があります。
例えば、ハマグリの主食でもある藻類の成長には日光が必要です。しかし、養殖場の上に太陽光パネルを隙間なく設置してしまうと日光を遮ってしまうため、藻類の成長を阻害することになります。するとハマグリの成長にも影響が出てしまい、事業にとって大きな損失と言えます。
漁電共生を検討する場合は、太陽光パネル同士の隙間についても考慮して設計し、日光を遮らないようすることも大切です。
適切な規制がなければ環境や生態系へ影響を与える可能性も
適切な規制が整備されなければ、周辺の生態系や環境に影響を与えてしまう可能性があることも、注意の必要なポイントです。
例えば、耐久性などに問題のある状態で太陽光発電設備を設置してしまうと、台風や暴風、地震などの災害時に大きな被害を招くおそれがあります。また、環境アセスメント(開発による環境への影響を評価すること)などの規制がなければ、周辺の生態系を無視した開発が進められてしまうかもしれません。
台湾では環境アセスメントに関する義務が定められていないため、環境破壊などのリスクも懸念されています。
周辺住民へ理解してもらうための実績や説明が必要
漁電共生へ参入したり漁業関係者と共同でプロジェクトを進めたりする場合、地元住民や地元の漁業関係者からの理解や信頼を得る必要があります。
漁電共生は新しい事業方式で、生態系や周辺の環境にどのような影響を与えるのか完全に分析されていません。そのため、人によっては再生可能エネルギー事業に対して警戒感を示すケースも考えられます。
また、地元住民や漁業関係者の理解なしに漁電共生を進めてしまうと、さらに反発を招いてしまうリスクがあります。
漁電共生プロジェクトへ参入したり立ち上げたりする際は、地元住民への丁寧な説明、漁業関係者との積極的なコミュニケーションと情報共有なども重要です。
台湾での漁電共生に関する事例
台湾政府は、2030年までに太陽光発電を30GW分設置する目標を掲げていて、国および企業による漁電共生プロジェクトも積極的に進められています。
例えば、台湾の「臺鹽實業」という企業の子会社「臺鹽綠能(TGE)」は、漁電共生による太陽光発電の開発事業を手がけています。
実際に養殖事業者とプロジェクトを進めているのはマニエス台湾で、FIT制度による電力買取事業が行なわれています。また、イーレックスや九電工、JA三井リースなどの国内企業は、臺鹽綠能とマニエス台湾の漁電共生プロジェクトを推進しています。
このように漁電共生は、台湾政府や日本企業も参入している大規模な事業で、今後の発展が期待されます。
国内ではソーラーシェアリングが広まりつつある
漁電共生は、主に台湾で考案・進められている事業です。一方、国内では、「農業+太陽光発電」のソーラーシェアリング事業が広まりつつあります。
そのため、漁業以外の事業を始めたい場合や国内で始めやすい太陽光発電関連事業を探している場合は、農業を組み合わせたソーラーシェアリングを検討してみるのもおすすめです。
そこで次は、ソーラーシェアリングの主な特長について解説していきます。
農地の上で太陽光発電を運用可能
ソーラーシェアリングは、農地の上に太陽光発電設備を設置し、農業を継続しながら発電事業も可能な運用方式のことです。
一般的な太陽光発電と異なり、ソーラーシェアリング用の太陽光発電設備には専用の支柱や固定部品などが備わっています。設置の際は、農地に支柱を差し込んで固定した後、支柱の上に太陽光パネルをセッティングします。
また、太陽光パネルの間に隙間を空けておくので、作物に必要な光を確保しながら発電することができます。
発電開始後は、穀物や野菜、フルーツなどの作物を育てながら太陽光発電の電力を売電や自家消費といった選択が可能です。FIT制度の認定を受ければ固定単価で売電収入を得られ、また農機具などの電力もまかなえます。
農地転用せずに運用を始められる
ソーラーシェアリングの大きなメリットは、農地転用せずに始められる点です。
通常、農地を農業以外の用途で使用する場合は、地目変更のために農地転用手続きを行ない、許可を受けなくてはなりません。しかし中には転用が難しい農地があり、許可を受けるまでに時間がかかることもあります。
ソーラーシェアリングなら農地の一時転用手続きが認められているので、地目を変更せずに太陽光発電と同時に農業を続けることが可能です。農地の一時転用は、文字どおり農地を一時的に別の用途へ用いるための申請手続きを指します。
転用期間については原則3年以内ですが、条件を満たせば10年に延長することもできます。
太陽光発電関連事業において全量自家消費を検討するメリット
漁電共生やソーラーシェアリングといった太陽光発電を組み合わせた事業を検討する際は、余剰買取や全量買取ではなく、全量自家消費の方がメリットを得られる可能性があります。
それでは、太陽光発電を組み合わせた事業で全量自家消費を選択するメリットについて解説していきます。
発電した電気を自社の設備へ供給できる
全量自家消費を選択すれば、発電した電気をすべて自社の設備へ供給できるため、大幅な電気料金削減が見込めます。
FIT制度は、10年間もしくは20年間固定の単価で再生可能エネルギーの電力を売電できる国の制度で、売電収入の収支を保ちやすいといったメリットがあります。
しかし、FIT制度の固定買取価格は年々下落傾向で推移しているだけでなく、2022年のロシアによるウクライナ侵攻などによる電気料金の値上げも続いています。そのため、売電のみでは電気料金の負担を軽減するのが難しい状況になってきています。
例えば東京電力の高圧電力(500kW未満)プランは、1kWhあたり19.77円の電力量料金です。一方、FIT制度の固定買取価格は1kWhあたり9.5円(出力50kW以上250kW未満)なので、2倍以上の差が生じています。
全量自家消費の場合は自社の設備に電力を供給できるため、電力会社からの買電(電力の購入)を直接削減しながら通常どおりに電気を使用できます。
FIT型と異なり環境価値を付帯した電力運用が可能
全量自家消費型は、FIT型と異なり環境価値のある電力を運用できるため、脱炭素経営という点でもメリットの大きな運用方法と言えます。
FIT制度の認定を受けた電力は、電力会社側で買い取らなければいけません。さらに、買取コストの一部は、再エネ賦課金という項目で国民の電気料金に上乗せされています。
そのため環境価値は、再エネ賦課金という形で消費されているとみなされています。さらに買い取られたFIT電力は、火力・原子力発電由来の電力を含む電力市場で取引されるので、完全な再エネ電力ではありません。
全量自家消費型はFIT制度の認定を受けないため、環境価値を残した電力を運用できるだけでなく、脱炭素経営という点でも企業価値をアップできます。
自社の脱炭素経営を加速させたい、企業価値を向上させたいという場合は、全量自家消費型太陽光発電の活用を検討してみましょう。
二酸化炭素の排出量削減効果による企業価値アップを期待
全量自家消費型太陽光発電によって自家消費を進めていけば、二酸化炭素を大幅に削減できるのに加え、削減実績を活用して自社の脱炭素経営をアピールできます。
脱炭素経営はCSR(企業の社会的責任)活動の一環ではなく、自社の事業に気候変動対策を盛り込んでいく経営方法を指します。しかし、業種や事業内容によっては簡単に脱炭素や省エネ、二酸化炭素の削減を進められないケースもあります。
そこで太陽光発電なら、前半で紹介した漁電共生やソーラーシェアリングなどのように既存の事業と組み合わせやすく、自家消費によって二酸化炭素の削減実績を作ることができます。
漁電共生は「養殖+太陽光発電」!売電より自家消費型太陽光発電の方が将来性あり
漁電共生とは、養殖場に太陽光発電を設置し、養殖と同時に売電を行なう事業のことです。主に台湾で進められている事業で、日本企業も台湾の企業と共同で取り組んでいます。
漁電共生の場合は売電を軸にした事業ですが、太陽光発電の自家消費という選択肢もあります。特に電気料金の削減や脱炭素経営という点では、自家消費の方がおすすめです。
養殖業・農業などを行なっている方や脱炭素経営の方法を模索している方などは、今回の記事を参考にしながら全量自家消費型太陽光発電を検討してみてはいかがでしょうか。
和上ホールディングスでは、全量自家消費型太陽光発電の企画提案から設計、設置工事、設置後の保守運用まで一括サポートしています。
さらに、さまざまな設置場所に対応した設計のほか、部材調達および設置工事も進められるので、ソーラーシェアリングや水上設置型太陽光発電等を検討している方にもご利用いただけます。
自家消費型太陽光発電のメリットやデメリットが気になる方は、お電話やメール、お見積もりフォームからお気軽にご相談ください。