太陽光発電の自己託送は、遠隔地から自社の発電設備を自社設備で送電し、自家消費していく運用方法です。しかし一部の事例で、自己託送を名目に再エネ賦課金逃れを行なうケースが出てきたため、要件厳格化の検討が始まりました。
そこで今回は、自己託送の仕組みと再エネ賦課金逃れの背景、導入時の注意点について詳しくご紹介します。自己託送を検討している事業者は、参考にしてみてください。
太陽光発電の自己託送に関する仕組み
自己託送の再エネ賦課金逃れに関するニュースを知った方の中には、自己託送モデルについてよくわからないという方も多いかと思います。
まずは、太陽光発電の自己託送モデルについて確認していきましょう。
遠隔地から自社の建物へ電力を送電
太陽光発電における自己託送とは、遠隔地に設置した自社もしくはグループ企業の太陽光発電を自社の建物へ送電および自家消費していく運用方式のことです。
例えば、自社の敷地内に設置スペースがない、メガソーラーなど大規模な太陽光発電所を設置するにあたって広大な敷地面積を必要とする場合に自己託送方式が役立ちます。ただし、送配電網(送電・配電設備)を経由して電力を供給する必要があるため、送配電設備の利用料として託送料金を一般送配電事業者へ支払います。
なお、オフサイトPPA(Power Purchase Agreements)は、遠隔地にある第三者の発電設備から発電された電気を小売電気事業者経由で供給してもらう方式なので、自己託送方式と異なります。
自己託送方式には、あくまで遠隔地の太陽光発電所の所有者と需要家(自家消費する企業)が同一・密接な関係(グループ企業、親会社、子会社、他社と組合を作り共同運営などの関係)であるという条件があります。
再エネ賦課金の負担がかからない
自己託送方式による太陽光発電の自家消費では、敷地内での自家消費と同様に再エネ賦課金の負担がかかりません。
再エネ賦課金は、FIT制度による電力買取コストの一部を国民の電気料金から負担する国の制度です。電力会社から供給される電気を使用している場合は、毎月の基本料金や電力量料金に加えて再エネ賦課金が上乗せされています。
再エネ賦課金の単価については、1年に1回更新される仕組みです。また、毎月の再エネ賦課金は、「単価×電力使用量」で求められます。
一方、非FITおよび非FIT型でなおかつ自己託送方式による全量自家消費型太陽光発電で発電した電気は、再エネ賦課金の対象外です。そのため自己託送方式は、再エネ賦課金の削減効果という点でも注目されている運用方式と言えます。
自己託送名目の再エネ賦課金逃れとは
近年、本来の自己託送方式と異なる運用による再エネ賦課金逃れのケースが、大きな問題として国でも取り上げられています。
例えば、他者の所有している太陽光発電所を需要家(自社)の名義に切り替え、名目上自社設備として自己託送してもらい、再エネ賦課金の負担を逃れるというパターンなどがあります。
いわゆる名義貸しによる運用は、自社設備から発電された電気の自家消費とは言えません。
また、2021年の11月に一部自己託送の要件が緩和され、資本関係にない企業同士の組合設立および自己託送方式というケースも認められました。そのため、自己託送方式の趣旨に沿っていない運用方法も増え、再エネ賦課金逃れにつながってしまっている状況です。
このような事例は、再エネ賦課金を負担している国民から見て公正性を欠く大きな問題としてみなされています。
再エネ賦課金逃れによる自己託送制度への影響
政府では、自己託送方式の要件緩和などによって増えた再エネ賦課金逃れを止めるため、自己託送制度に関する緊急の措置および厳格化に関する検討を始めています。
自己託送制度に関する変更や規制は、太陽光発電事業を進めている企業、これから始める企業どちらにとっても影響の大きな内容なので、確認した上で慎重に事業を進めていきましょう。
それでは、政府が行なっている自己託送制度に関する措置や検討案について解説していきます。
2024年1月1日から自己託送の新規受付一時停止
資源エネルギー庁では、自己託送制度の指針改正や要件厳格化を決め、なおかつ指針の改正が行なわれるまで自己託送の新規受付を一時停止しました。
また、自己託送制度の新規受付一時停止措置は、2024年1月1日から始まっています。
そのため、全量自家消費型太陽光発電を検討する際は、敷地内での設置を前提として設計や計画を進めていく必要があります。
自己託送の要件厳格化へ向けた方針策定が進む
資源エネルギー庁から発表された自己託送制度の要件厳格化に関する案は、4種類に分かれています。
以下に要件の厳格化に関する案とポイントを紹介します。
名義のみ管理責任者として運用する場合は対象外
1つ目は、他者の所有する遠隔地の太陽光発電所に関する名義を自社に切り替えて名目上運用する場合、自己託送の対象外とする案です。
前半でも解説したように、名義貸しによる自己託送方式は本来の自己託送および自家消費と異なる運用方式であり、再エネ賦課金逃れのために活用されかねません。
そのため資源エネルギー庁では、「名義上の管理責任者=名義貸しによる自己託送」を認めない方向で調整を進めています。
発電所の維持・運用を業務委託すると対象外
2つ目は、遠隔地に設置した自社の太陽光発電所に関する維持管理業務を外部委託している場合に、自己託送の対象外とする案です。
ただし、維持や運用面における部分に関する規制は厳しすぎる内容でもあるため、今後も議論が進められる予定とされています。
余剰電力の送電は自己託送の対象
3つ目は、太陽光発電所で自家消費した電力を除いた余剰電力のみ自己託送の対象とする案です。
余剰電力のみ自己託送という要件が実施された場合、遠隔地の太陽光発電所で発電した電気を全て送電および自社の敷地内で自家消費できない可能性も出てきます。そのため、これから太陽光発電の自家消費を検討する企業は、自社の敷地内での設置を前提に進めた方がいい場合もあります。
なお、3つ目の要件は2つ目と同様に厳しすぎるため、今後も調整や議論が進められる予定です。
他者へ電気を共有する場合は条件付きで自己託送の対象
4つ目は、自己託送によって送電された電気を自社の敷地内で自家消費する際、敷地内であれば条件付きで他者と電気を共有可能とする案です。この条件とは、他者との間に資本関係をはじめとした密接な関係が明確に示されるケースのことです。
4つ目の案は、特にグループ企業などで自家消費を進めていく場合に重要な要件と言えます。
自己託送モデルによる自家消費型太陽光発電の注意点
自己託送モデルによる全量自家消費型太陽光発電を今後も検討していく場合は、いくつかの注意点を把握した上で判断・準備しましょう。
それでは、自己託送モデルによる自家消費型太陽光発電の注意点を解説します。
設備のほかに土地の購入および造成工事の費用がかかる
自己託送モデルの全量自家消費型太陽光発電事業を進めていく場合は、土地の購入および造成工事の費用なども発生します。そのため、敷地内に太陽光発電所を設置する場合と比較して、コストや手続きの負担が大きいと言えます。
また土地を選定する際は、災害リスクや近隣トラブルのリスクについてもあらかじめ分析しておくのが大切です。
日本は災害の多い環境なので、以下のような被害を受ける可能性があります。
- 豪雨による土砂災害
- 台風によるパネルの飛散など
- 落雷によるショート
- 地震による破損、津波被害など
- 雪の重みによる破損
- 沿岸部に設置した場合は塩害による腐食
自治体から公開されているハザードマップなどを参考にしながら、なるべく災害リスクや二次災害の危険性を抑えられる土地を選定するのが大切です。
ほかにも近隣トラブルリスクは、隣地や周辺住民からの反対運動、騒音や光害トラブルといったリスクのことです。近隣トラブルを避けるには、山間部などの住宅が少ない土地を選ぶのもポイントです。
大規模な設備を運用できる反面導入費用が高い
自己託送では、広大な敷地を購入してメガソーラークラスの大規模な設備を設置できる反面、導入費用の高さがネックと言えます。
特に電気代削減・二酸化炭素排出量削減効果を可能な限り高めるために太陽光発電所の設備規模を大きくする場合は、注意が必要です。
前段で紹介した土地の購入および造成工事費用だけでなく、メガソーラー1MWあたり1億円程度の導入費用がかかります。そのため、発電量の計算、費用回収期間、維持管理費用なども含めて初期費用回収の見通しがあるのか詳細に把握するのも、失敗しないためには重要なポイントです。
全量自家消費型太陽光発電による電気代削減効果を高められるかどうかは、太陽光パネルの設置枚数だけでなく設置場所の日照時間・日射量、天候なども関係します。
そのため自家消費を検討する場合は、自己託送以外の方法も含めて確認するのがおすすめです。
計画値同時同量制度に対応する必要がある
計画値同時同量制度は、前日の正午までに電力需要と電力供給量の予測値を30分ごとに分けて作成し、電力広域的運営推進機関へ報告を行なう義務が課された制度です。
自己託送方式で全量自家消費型太陽光発電を運用する場合は、この計画値同時同量制度に対応する必要があります。
また、実際の発電量や自社の電力使用量が計画どおりではない場合、ペナルティとしてインバランス料金の負担を求められます。インバランス料金は、計画値より供給量が多い・少ないいずれの場合でも発生します。また料金については、一般送配電事業者によって異なります。
停電した場合は送電できないリスクもある
自己託送による自家消費型太陽光発電は、非常用電源として活用できない可能性もあります。
自己託送によって自家消費を行なうためには、送配電網を経由して電力供給しなければいけません。しかし、地震や台風、津波といった災害による影響で送配電設備が故障した場合、太陽光発電所から発電した電気を自社の建物へ送電できません。
そのため、非常用電源としての役割を重視する場合は、敷地内に全量自家消費型太陽光発電を設置することを検討するのがおすすめです。
自己託送モデルによる自家消費型太陽光発電のメリット
自己託送制度には現状課題もある一方、メリットも多数あります。そのため今後の新規受付再開までに、自己託送モデルによる自家消費型太陽光発電の特徴も把握しておくことをおすすめします。
最後は、自己託送モデルによる自家消費型太陽光発電のメリットを紹介します。
広い敷地で大規模な太陽光発電の設置が可能
自己託送モデルなら遠隔地のさまざまな土地で太陽光発電所を稼働できるため、メガソーラーといった大型設備の設置も検討することが可能です。
メガソーラーの発電量は、出力1MWで年間100万kWh以上見込めます。そのため、年間数10万kWh以上の電力を使用する企業には、電気代削減効果の大きな設備と言えます。
また、メガソーラーでは大型の蓄電池・蓄電池併設型による運用も可能なので、インバランスリスクを抑えられます。
電気代削減効果を効率的に進められる
自己託送モデルによる自家消費型太陽光発電を導入すれば、電気代の削減を効率的に進められます。
近年、円安傾向やロシアによるウクライナ侵攻などの影響から物価高・燃料価格高騰といった状況が続き、電力会社やガス会社の燃料調達コストも高騰しています。そのため、電気代やガス代の値上げ傾向が止まらず、企業の事業活動にも影響を与えている状況です。
全量自家消費型太陽光発電を導入していれば、電力使用量の過度な削減を検討しなくとも、再エネ賦課金を含む電気代を直接減らすことができます。
また、自己託送モデルなら発電した電気をグループ企業全体に供給できるため、より効率的に電気代を削減できます。さらに蓄電池を併用することにより、発電量の少ない時間帯でも自家消費することが可能です。
二酸化炭素排出量を削減
自己託送モデルによる自家消費型太陽光発電は、二酸化炭素排出量削減効果という点でもメリットのある運用方式です。
電力会社から供給されている電力の多くは、火力発電由来です。しかし太陽光発電で発電を行なう場合は、火力発電と異なり二酸化炭素を排出しません。
そのため、自己託送による自家消費率を高めれば、その分火力発電由来の電力使用量を抑えられ、また二酸化炭素排出量を大幅に削減できます。
近年、企業には脱炭素や環境へ配慮した経営や事業活動が求められています。全量自家消費型太陽光発電は、既存の事業を継続しながら脱炭素経営にシフトしやすく、なおかつ二酸化炭素の排出量削減という数値化しやすい実績を残すことが可能です。
自己託送の要件厳格化に対応しながら導入を進める必要がある
自己託送名目の再エネ賦課金逃れとは、本来の自己託送方式と異なる方法で太陽光発電事業を展開し、再エネ賦課金の負担を避けようとする試みのことです。また政府では、再エネ賦課金逃れを防ぐために自己託送要件の厳格化へ向けた準備を進めていて、改正内容の実施まで自己託送制度の新規受付を停止しました。
そのため、自家消費型太陽光発電を始めるには、自己託送制度の新規受付再開まで待つか別の方法で太陽光発電を設置する必要があります。
これから太陽光発電を活用していきたいものの導入方法に悩んでいる企業は、和上ホールディングスへの相談を検討してみてはいかがでしょうか。
弊和上ホールディングスでは、全量自家消費型太陽光発電のご提案から設計、施工、運用管理まで一括サポートしています。
また、自己託送方式だけでなく水上設置型や地上設置、屋根設置、PPA方式などさまざまな設置運用方式に対応しているのが特長です。そのため、自己託送制度の新規受付停止で設置方法に悩んでいる方もスムーズに別の方法を検討いただけます。
全量自家消費型太陽光発電について関心を持っている方は、お電話やwebフォームからぜひお気軽にご相談ください。