再生可能エネルギーの風力発電は、脱炭素につながるメリットの多い発電設備です。しかし日本では、さまざまな理由から普及していません。
今回は、日本で風力発電が普及しない理由や代替案について詳しくご紹介します。導入しやすい再生可能エネルギーを探している方や風力発電事業について関心を持っている方などは、参考にしてみてください。
日本で風力発電が普及しない理由
風力発電は、とくにヨーロッパで普及の進んでいる再生可能エネルギーです。しかし、日本では風力発電の普及が進んでおらず、ヨーロッパと異なります。まずは日本で風力発電が普及しない理由について解説します。
初期費用が高い
初期費用の高さが、風力発電の普及を妨げているといえます。日本の風力発電に費用がかかるのにはさまざま要因がありますが、主に大きな理由は2つです。1つは日本の再生可能エネルギー市場は、世界と比較するとまだ小さく、需要はそれほど大きくないことです。市場規模が小さければ、製造をはじめとする関連コストはなかなか下がりません。
また日本は台風や地震といった災害リスクが高い環境にあります。たとえば日本の沖合は水深が深いため、洋上風力発電においては、欧州よりも深い位置に設置しなければならず、より頑丈なつくりが求められます。維持管理費も大きくなりやすい傾向にあり、コストがかさんでしまうのです。
導入に時間がかかる
風力発電の導入は、手続きや工事の関係から導入に時間がかかる事業でもあります。
国内で風力発電所を設置するためには、まず環境アセスメントに関する調査および資料作成等を実施し、手続きを進めなければなりません。環境アセスメントとは、開発事業で環境にどのような影響を与えるのか事前に調査・分析評価を行う取り組みのことです。
手続きや審査には数年かかり、調査に不備などがあれば行政から追加調査なども求められます。さらに法規制への対応、設置場所の選定、設置予定場所の風況(年間の風速などに関する情報調査)、開発計画の策定から部材調達、設置工事など、さまざまな工程が必要です。
そのため、日本で風力発電を始めるためには8年から10年程度かかり、スピーディに導入することが難しいといえます。
一定の風速を確保可能な設置場所が少ない
日本はヨーロッパと比較して、一定の風速を確保可能な場所が少ないです。
- 風力発電事業に適した土地を探すためには、以下の条件を満たす必要があります。
- 年間を通して一定の風が吹いている(設置高さ30~40mで平均風速6m/s以上)
- 風力発電設備の設置・運用が可能な広さの土地が確保できる
- 設備の運搬が可能な道がある
- 設置場所周辺の景観を損ねない環境である
- 騒音などの被害を与えない環境である
ヨーロッパは偏西風のおかげで一定の風を確保しやすい気候でもあり、風力発電に適しています。一方日本は、ある程度の風速を確保できる平野部が少なく、風力発電に適した土地が少ないのです。
送電網の整備が必要
発電した電力を電力需要家へ届けるためには、送電線が必要です。したがって、発電所の設置は送電網の整備とセットで考えなくてはなりません。
当然ながら送電線が一度に送れる電力には限りがあります。再生可能エネルギーの普及により送電網の需要も高まっており、送電網の容量が足りずに出力制限(太陽光発電や風力発電の稼働を一時停止すること)がかかることも増えてきています。
一部の地域では、送電網に空き容量がほとんどないとしているところもあります。こうした状況の中、風力発電所の設置予定地や、その周辺の既存の送電線の状況によっては送電網の増強が必要になるケースもあるのです。しかし、送電網の増強は非常にコストがかかり、発電事業者が自力で整備する(自営線を設置する)のはハードルが高いため、導入が進まない理由の1つとなっています。
最近では電力会社によって、地域間の電力を送電するための送電網増強なども実施され始めており、送電網の空き容量改善が期待されます。
風力発電がヨーロッパで普及しているのはなぜ?
ヨーロッパは偏西風の影響により、安定した強さの風が吹きやすい環境です。また沖合から40km以上まで遠浅(水の浅い場所)が続く地形で、洋上風力発電も設置しやすいといえます。
陸地では平坦な地形が続き、陸上風力発電の設置にも適している地形が多いのです。
たとえばデンマークの場合は、海に囲まれた環境でなおかつ平地の続く地形です。2017年の電力使用量に対する風力発電の割合が43%以上あり、普及の進んでいる国の1つといえます。
普及の進まない風力発電のメリットとは?
国内では普及の進まない風力発電ですが、導入メリットも複数存在しています。ここからは、風力発電のメリットについてわかりやすく解説していきます。
化石燃料不要で二酸化炭素排出を抑制
風力発電は、火力発電と異なり化石燃料不要のため、発電時に二酸化炭素を排出しません。脱炭素経営を目指す企業にとってはもちろん、社会や環境にもメリットの大きな発電設備です。
風力発電は、風の力でブレード(羽)を回転させ、ブレードの回転力を発電機で電気に変換する仕組みです。火力発電のような燃料を燃焼させてタービンを回転させる方法とは異なり、燃料調達を必要としません。
企業にとって脱炭素につながる活動は、投資家の評価をはじめ消費者から信頼を得る上でも欠かせない要素です。長期的な活動を視野に入れ、非化石電源を求めている企業にとっては、大きなコストを投じる価値があるといえます。
一定の風速があれば夜間でも発電可能
風力発電は、太陽光発電と異なり一定の風速を得られれば夜間でも発電を継続できます。
太陽光発電は、太陽光パネルで光を電気へ変換する再生可能エネルギーです。風力発電と同様に二酸化炭素の排出を抑えながら発電を行えるのが、メリットの1つといえます。また、国内で普及している再生可能エネルギーでもあり、太陽光発電の施工販売業者や運用に関するサポートサービスが充実しているため非常に導入しやすいです。
しかし、太陽光発電は夜間に発電できません。
風力発電に必要な風は、場所や天候によって夜間でも吹いています。とくに一定の強さで風が吹いている沿岸部は、日中や夜間にかぎらず発電しやすい立地です。
変換効率は他の再エネより高い傾向
風力発電の変換効率は、約20~40%と他の再生可能エネルギーと比較して高い水準にあります。変換効率とは、エネルギーを何%電気に変換できるか示したもので、高ければ高いほど効率的な発電を行える発電設備といえます。
国内で普及している太陽光発電の変換効率は約10~20%で、風力発電より低い傾向です。また地熱発電やバイオマス発電も、風力発電より低い変換効率であるため、効率的な自家消費や電力供給という点で課題が残されています。
水力発電は変換効率80%程度と風力発電を上回るものの、ダムを建設しなければいけないため、大規模な開発コスト・森林伐採などによる周辺環境への影響が懸念されます。
風力発電も設置に適した土地の選定など課題は多いものの、洋上への設置という選択肢があります。
洋上風力発電は発電量を伸ばしやすい
風力発電の中でも洋上風力発電は、陸上より一定の風が吹きやすい環境ということもあり、日本でも発電量を伸ばしやすいです。建物や道路がないため、大規模な設備を設置しやすい点もメリットの1つといえます。
国内企業は、洋上風力発電で発電した電気を陸上へ送電するための設備開発や環境整備を進めており、今後の普及に期待できます。
風力発電を普及させるには
日本で風力発電を普及させるには、行政や国の支援、法改正、大手企業による実証実験や環境整備などといった取り組みが重要といえます。
たとえば、国では2017年に港湾法を改正し、洋上風力発電事業の普及につながる仕組み作りが進められています。
法改正前は、洋上風力発電事業に関する申請を自治体側で内容を精査していたため、統一された判断基準などがありませんでした。法改正後は、国の指定した領域で洋上風力発電事業を募集する方式に変わり、曖昧な判断基準が是正されています。また、自治体の負担も軽減されているのは、メリットといえます。
さらに、国の指定した領域で洋上風力発電を行える期間が、20年から30年間に延長されたことで、より長期的な発電事業を進められる環境へ変わっています。
また2024年4月1日JFEエンジニアリング株式会社により、着床式洋上風力発電向けの基礎に必要な原材料や部材の生産を行う日本初の工場が稼働開始しました。風力発電事業に関する国や企業の取り組みが進んでいくことで、再生可能エネルギー事業への参入数増加についても期待できます。
コストや運用面では太陽光発電がおすすめ
ここまで風力発電が日本で普及しない理由、導入メリットや普及に向けた取り組みについて紹介しました。しかし、コストや運用しやすさという点を考慮すると、民間企業が導入するなら太陽光発電の方がメリットの多い再生可能エネルギーです。
最後に、企業にとって太陽光発電がおすすめの理由を、コストや運用面から解説していきます。
風力発電より初期費用が安い
太陽光発電は、風力発電よりも初期費用を抑えられる再生可能エネルギーです。本体価格や施工費用をなるべく抑えたい企業にとっては、とくに大きなメリットといえます。
経済産業省の「令和6年度以降の調達価格等に関する意見」によると事業用太陽光発電の初期費用は、出力1kWにつき14.7~25.1万円です。
一方、風力発電の初期費用は、以下の通りです。
【令和6年度以降の調達価格等に関する意見】
陸上風力発電 | 1kWにつき27.3 ~34.7 万円(資本費の中央値) |
---|---|
洋上風力発電 | 1kWにつき137万円(資本費の平均値) |
※資本費:施工費用や固定資産税などの費用
資本費は、陸上風力発電でも少なくとも27万円以上かかります。太陽光発電と比較した場合、初期費用の高い再生可能エネルギー発電設備です。
さらに、太陽光発電の費用回収期間は10年前後で、FIT制度やFIP制度の適用期間中に回収を完了させられます。利回りや費用回収の負担という点を考慮すると太陽光発電は、導入しやすく運用しやすい設備といえるでしょう。
出典:経済産業省 調達価格等算定委員会「令和6年度以降の調達価格等に関する意見」
設置場所の自由度が高い
太陽光発電は、地上や屋根設置とさまざまな場所に設置可能で、風力発電より自由度の高い再生可能エネルギー発電設備といえます。
風力発電は、年平均6m/s(毎秒6m)以上の風速を記録する場所が発電に適しています。日本で運用する場合は、洋上や一部の沿岸部などでなければ運用の難しい条件でもあります。
一方、太陽光発電は、自社の工場や倉庫、ビルの屋根や屋上をはじめ、空いたスペース、カーポートの屋根、農地(ソーラーシェアリング)、水上などさまざまな場所に設置することが可能です。
さらに、自社の敷地に空きスペースがない場合は、遠隔地の土地を取得し、自己託送方式で電力供給できます。(自己託送:送配電網を活用して自社の建物へ電力供給を行う方式)
太陽光発電に必要な日光は、木々や建物の影などといった日射量に影響の少ない場所であれば発電可能なエネルギーです。設置場所に悩んでいる企業は、太陽光発電を検討してみることをおすすめします。
維持管理の手間がかからない
太陽光発電の維持管理に関しては、専門のO&Mサービスへ任せられます。自社で管理用のシステムや担当者を用意することなく、発電事業を始められるのが強みです。
太陽光発電は比較的普及している再生可能エネルギーのため、施工販売業者だけでなく運用管理やメンテナンスを専門とするO&Mサービスも複数存在しています。また、ノウハウを蓄積した業者が存在しており、風力発電よりも運用ハードルの低い事業といえます。
とくに脱炭素経営や再生可能エネルギー事業に関して未経験の企業は、太陽光発電事業から少しずつノウハウを蓄積してみるのが大切です。
風力発電の普及には環境整備が必要!再エネ導入に太陽光発電の検討を!
日本で風力発電が普及しない理由は、主に気候や地形、法律や技術、コストといった点で課題が多いためです。
これから脱炭素経営を始める方の中で再生可能エネルギーに注目している方は、今回の記事を参考にしながら太陽光発電事業を検討してみてはいかがでしょうか。
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