世界的なSDGsへの取り組みの一つに「EV100」があります。これは脱炭素社会へ向けたひとつの国際イニシアチブです。しかし、実際にEV100とは何かを理解している方は少ないのではないでしょうか?世界的な大きな流れに乗るためにも、EV100をはじめとした取り組みはきちんと知っておきたいものです。
今回はEV100とは何かについて、また参加している日本企業や取り組み内容をご紹介していきます。
EV100とは?
ここではEV100の概要と、どのような目的があるのか、参加する際の条件はあるのかについて詳しく解説していきます。
EV100の基礎知識
EV100とは、イギリスの国際環境NPO団体であるThe Climate Groupが2017年9月に発足した国際的なイニシアチブ(企業集団)のことで、2030年までに事業で利用する車両を全てEV(電気自動車)にすることを目標に掲げています。
The Climate Groupはこれまでにも、事業で使用する電力を全て再生可能エネルギーで賄う取り組みであるRE100や、事業の省エネ効率を50%改善する事を目指すEP100を運営してきました。
参加条件
EV100に参加する企業は、2030年までに以下の条件を少なくとも1つ以上行う必要があります。
- 企業が直接保有もしくはリースしている車両をEV化する
- EVの使用に関する規約をサービス契約に設ける
- 顧客へEV利用を推進するために、全関連施設にEV充電設備を設ける
- 従業員へEV利用を推進するために、全関連施設にEV充電設備を設ける
使用する電気は、再生可能エネルギーであることが望ましいです。またEV100の対象となるのは、バッテリー自動車やエクステンデッドレンジ車、プラグインハイブリッド車、燃料電池自動車です。
EV100の主な加盟企業(世界/日本)
EV100は、地球温暖化や大気汚染問題を解決する取り組みとして世界各国で導入が進められています。2022年3月時点で、世界のEV100の加盟企業は121社、国内では7社となっています。
ここでは、世界と日本における加盟企業と、どのような取り組みをしているのかについて解説していきます。
世界の加盟企業と主な取り組み事例
IKEA(スウェーデン)
2025年までにラストマイル運送をEV化することを目標としており、すでにアムステルダムと上海では達成しています。
ナショナル・グリッド(アメリカ・イギリス)
ナショナル・グリッドは世界最大手の電力会社です。アメリカでは、従業員がEVにスムーズに移行できるように、購入やリースにかかる費用を負担しています。また事業所内には充電設備を160個以上設置しており、2021年時点で、企業全体で5,784台の車両がEV化しました。
オーステッド(デンマーク)
グリーンエネルギー企業のオーステッドは、2020年に脱炭素化プログラムを立ち上げ、2025年までに全てのサプライチェーンで使用する電源をEV化することを目標に掲げました。2年間ですでに半数以上のサプライヤーが再生可能エネルギーを採用しています。
輸送部門だけでなく、製造過程から運用まで、温室効果ガス削減を目指して対応を強化しています。
日本の加盟企業と主な取り組み事例
NTT(日本電信電話株式会社)
NTTは、グループ全体で保有している約1.1万台の車両を2030年までにすべてEV化することを目標に掲げました。世界では唯一、EP100も同時加盟しており、脱炭素化に向けて積極的にエネルギー効率の高い設備を導入しています。
高島屋
大手百貨店の高島屋は、国内では4社目として2019年にEV100に参加しました。
各店舗が保有している外商営業車両や営業車を徐々にEV車両や燃料電池自動車に転換しており、保有車両数も見直しています。
また、現在は3店舗にチャージステーションを設置しており、今後も拡大する予定です。
アスクル株式会社
大手通信販売事業のアスクルは、2017年にEV100に加盟しました。2030年までに「CO2ゼロチャレンジ」に取り組むことを発表し、子会社のアスクルロジストが保有する車両をEV化することが目標です。
EV化により騒音や振動問題も解決できるため、ドライバーの労働環境の向上にも繋がっており、社員の環境問題の取り組みに対する意識が高まっています。
EV100のメリットとは?
日本国内や世界全体で、続々と加盟しているEV100ですが、メリットはどのようなものがあるのでしょうか。ここでは、EV100の4つのメリットについてご紹介します。
1.補助金制度がある
EV車を購入またはリース契約する場合、国からの補助金制度を活用することができます。
令和3年度補正予算と令和4年当初予算では、EV車の他にもプラグインハイブリッド車や燃料電池自動車の導入、充電設備の支援金に関する内容が盛り込まれています。補助金を受けるための条件は以下の2点です。
- 初年度登録である自家用車
- 災害時には非常用電源として給電活動に協力すること
上限額は車両の種類によって異なり、最大で230万(燃料電池自動車の場合)の補助が出ます。給電機能がある場合は上限額が引き上がる場合もあるので、詳細を確認することをおすすめします。
2.減税の対象になる
電気自動車を購入する際は、税金の優遇措置が受けられます。減税制度は下記の3つです。
- グリーン化特例
- 環境性能割
- エコカー減税
電気自動車に移行することで排気ガスがゼロになるため、自動車税が安くなります。さらに環境性能や燃費性能などに優れた車両は、新規登録時や車検においても重量税がかかりません。
普通車の場合、購入時にかかる環境性能割はEV化によって非課税となります。また自動車重量税についても、EVの場合は購入時と2度目の車検で免税となるので、コストを大幅に抑えることが可能になります。
3.社会貢献できる
電気自動車は環境汚染の原因となっている二酸化炭素を排出しないので、温室効果削減にも貢献できます。SDGsの目標達成にも大きな影響のある電気自動車は、2050年までの持続可能な脱炭素社会を目指すためにも、欠かせない取り組みになるでしょう。
国内全体の二酸化炭素排出量のうち、約16%を占めているのがガソリン車と言われています。本質的に温室効果ガスの排出をゼロにするには、火力発電に頼らず、再生可能エネルギーへ転換することが求められます。
各企業は運送面だけでなく、原材料の調達・製造から廃棄までの全工程でCO2排出削減に取り組むことで、大きく社会貢献できるでしょう。
4.世界の投資家へのアピールになる
EV100への加盟は企業の認知度向上につながり、脱炭素に取り組む企業として世界の投資家に強くアピールできます。機関投資家は、ESG(環境・社会・企業統治)の視点で企業を判断し、より環境に配慮した企業へ投資する傾向があります。
脱炭素社会への取り組む企業としてのブランディングにも、EV100は貢献するでしょう。さらに製品の品質管理や生産過程において適切に管理できるようになるので、中長期的に見てガバナンスの強化にもつながります。
EV100以外の脱炭素のための取り組み
SDGsにおける最終的な目標に、2050年までにカーボンニュートラル、脱炭素社会の実現があります。具体的には2030年までには温室効果ガスの排出量を46%削減すること中間目標として掲げています。
ここでは、EV100以外の脱炭素のための取り組みとして、RE100とEP100を紹介します。
RE100
RE100とは、2014年に発足した国際的イニシアチブで「Renewable Energy 100%」の略です。事業で消費するエネルギーを、全て再生可能エネルギーで賄うことを目標に掲げています。2022年時点では世界全体で356社が加盟しており、国内だけでも66社が参加を表明しています。
・RE100の代表的な加盟企業
ソニー、イオン、マイクロソフト、Google、イケア、スターバックス等
電力需要サイドから再生可能エネルギーの必要性をアピールすることで、開発の推進を電力会社等に働きかけることがRE100の目的です。多数の企業で開発が進めば低コストでの電力転換が実現し、それに応じた法令が施行されるなどの好循環が生まれるでしょう。
EP100
EP100は、2016年に発足した国際的イニシアチブで「100% Energy Productivity」の略です。2030年までに事業に関わるエネルギー効率を50%改善することを目標に掲げています。2021年時点では、世界全体で129社が加盟しており、国内では3社が参加を表明しています。
・EP100の代表的な加盟企業
大東建託、NTT、大和ハウス、H&M、ヒルトン等
EP100では、エネルギー効率の倍増だけでなく、エネルギーマネジメントシステムの構築やゼブと呼ばれるカーボンニュートラルな建物の所有を条件にしています。
たとえばH&Mでは、工場内の電球を全てLEDに変換することでエネルギー効率の改善に貢献しています。
脱炭素社会へ向けてEV100を知っておこう!
この記事ではEV100の基礎知識から加盟状況、メリットなどを解説しました。EV100は、温室効果ガスの排出削減に欠かせない国際的イニシアチブです。国内の大手企業も続々と加盟を表明しているほか、補助金制度や免税など、導入しやすい環境整備も進められています。
2050年の脱炭素社会を目指し、企業から従業員、個人へと取り組みの輪が広がっていくことでしょう。