小水力発電とは?メリット・デメリットや水力発電との違いを解説

小水力発電とは?メリット・デメリットや水力発電との違いを解説

国内において小水力発電は、出力1,000kW以下の水力発電を指しています。大型の水力発電と異なり、既存のダムや水路などにも設置でき、個人で導入を検討する方もいます。

今回は、小水力発電の仕組みやメリット・デメリット、水力発電との違いについて詳しくご紹介します。再生可能エネルギー事業に関心を持っている方などは参考にしてみてください。

小水力発電の仕組み

小水力発電は、文字通り小規模な水力発電システムです。水流とその落差を利用して発電する方法で、いわゆる水力発電(大規模な水力発電)とは仕組みや構造物などに違いがあります。

小水力発電は明確に定義付けられているわけではありませんが、1,000~10,000kW以下の水力発電のことを小水力発電と呼ぶ傾向にあります。たとえば日本の再生可能エネルギーにおいては、新エネルギー法の対象とされている1,000kW以下の水力発電を「小水力発電」と呼ぶことが多いです。

世界では出力に関する定義が統一されておらず、国や機関によって異なります。ESHA(ヨーロッパ小水力発電協会)は、10,000kW以下の出力であれば小水力発電とみなしていますが、IEA(国際エネルギー機関)は定義付けていません。

ダムを建設しなくても設置可能なため、設備の規模や環境によっては、個人でも設置することが可能です。それでは、小水力発電の仕組みと種類を詳しく解説します。

小水力発電と水力発電の違い

小水力発電と水力発電は、発電量と構造物に違いがあります。冒頭で触れたように、小水力発電は1,000~10,000kW以下の規模の発電設備です。

また水力発電と大きく異なるのが構造物です。水力発電は遠方にダムを建設し、水位差(高いところから低いところへ水を落とし、水車を回転させる)で水車を回転させて発電します。対して小水力発電は、ダムよりも小規模なため池やプール、水道の給水設備などを活用しながら発電を行う仕組みで、大規模な構造物になりません。

小水力発電の種類は水の利用方法や発電方式でわかれている

小水力発電の種類は、発電方式や水の利用方法、構造物、水車の構造などでわかれています。以下にそれぞれの種類を紹介します。

▼小水力発電の発電方式

小水力発電の発電方式は、水の落差を発生させる方法と、水の利用方法によって分類されます。以下に表でまとめました。

分類方法 発電方式の種類 概要
水の落差の作り方による分類 水路式 水路で水の落差を利用する
ダム式 ダムの水位差を利用する
ダム水路式 水路式とダム式を組み合わせて水の水位差を利用する
水の利用方法による分類 流れ込み式 既存の水路に流れている水で水車を回転させる
貯水池式 長期間の発電に対応するため、水を貯める
調整池 短期間の発電に対応するため、水を貯める
揚水式
  • 2ヶ所のダム間で起こる水位差を利用する
  • 他の方式と異なり蓄電池のような機能を持たせられる

▼小水力発電の構造

小水力発電の構造については、4種類にわかれています。

構造 概要
既存施設利用 既存のプールやため池に貯めた水を活用した発電方法
減圧設備代替式 水道の給水設備や工場の利水などに使用されている減圧バルブを活用して発電を行う
直接設置式 用水路、堰(せき)の水位差を活用した発電方法
水路式 水位差を確保するための水路を設置し、かつ河川の水を利用する発電方法

このように大規模な水力発電と異なり、既存の水道設備や用水路、プールやため池などを活用できる点が大きな特徴です。

▼水車の構造

小水力発電では、水の力で水車を回転させ、水車に接続されている発電機で回転力を電気に変換させています。以下に水車の構造と種類を紹介します。

水車の構造 構造の概要 水車の種類 水車の概要
重力水車
  • 水の重さを利用し、水車を回転させる
  • 小規模で効率が高くないため、発電だけに使用されることはあまりない
上掛け水車 上部に設置した水路から水を落とし、水車を回転させる
下掛け水車 水路の中に水車を設置し、水の流れを水車へ直接伝えて回転させる
反動水車
  • 水流の中に特殊な構造の水車を設置し、回転力を起こす
  • 水位差を起こしにくい場所でも発電を行える
フランシス水車 水の速度・水圧で力を加えて回転させる
プロペラ水車 水の速度・水圧で力を加えて回転させる
衝動水車
  • 水流を直接水車に当てて回転させる
  • 少ない水量でも水車を回転させるのが強みで、水位差を作りやすい場所に適している
ペルトン水車 ノズルから噴出する水を衝突させて回転させる
ターゴインパルス水車 ノズルから噴出する水を斜めに入れて回転させる
クロスフロー水車 水車内を貫通するように水を通して回転させる

小水力発電、水力発電で用いられているのは、主に反動水車や衝動水車です。中でも反動水車に用いられているフランシス水車は、国内水力発電所の約70%で採用されています。

小水力発電のメリット

小水力発電は、他の再生可能エネルギーと同じく、CO2排出量を削減できる発電設備であり、大型の水力発電所より環境にやさしいといったメリットがあります。続いては、小水力発電の主な導入メリットをわかりやすく解説します。

化石燃料を使用せずに発電できる

小水力発電は化石燃料を使用しません。化石燃料とは、LNG(液化天然ガス)や石油、石炭、メタンハイドレートシェールオイルなど、動植物の化石から得られる燃料のことです。

日本は化石燃料を輸入に頼っているため、為替相場や国際情勢の変動による燃料価格高騰を含む外的要因の影響を受けやすいです。電気会社から供給される電力はこうした化石燃料への依存が大きく、燃料価格の高騰で電気料金が値上がることが多いです。

小水力発電はこうした外的要因に左右されにくいです。発電した電力を自家消費(自社の設備や建物で消費)することで、国際情勢の影響を受けず、固定費を削減できる可能性があります。

発電時のCO2排出量を抑えられる

発電時のCO2排出量を抑えられるため、脱炭素経営にも活用できます。

日本のベースロード電源(常時一定の電力を確保できる電源設備)とされる火力発電は、化石燃料の燃焼によって水を沸騰させ、蒸気でタービンを回転させて電力に変換します。この化石燃料の燃焼で、気候変動の原因とされるCO2を排出してしまいます。

一般的な電気料金プランで契約し、電力会社から買った電力を使用しているだけで、CO2を間接的に排出してしまいます。このため、再生可能エネルギーである小水力発電を活用して、間接的なCO2排出を減らすという取り組みが注目されているのです。

小水力発電は、発電時にCO2を含む温室効果ガスを排出しません。発電した電気を自家消費すればするほど、電力会社からの買電量(電力購入量)を削減でき、CO2の間接的な排出を抑制できます。

小規模な水路でも発電ができる

小水力発電は、ダムや貯水池といった大規模な設備を建設しなくとも設置できます。予算を抑えながら、発電量を確保した再生可能エネルギーを導入したい場合などに候補となるでしょう。

小水力発電は、既存の用水路や一般河川、上下水道、既設のダム、ビル・工場周辺の用水路といったさまざまな場所に設備を設置することが可能です。

大型の水力発電所より環境にやさしい

小水力発電は、大型の水力発電所と比較して環境負荷の少ない発電設備です。

水力発電所は大規模なダムや貯水池の建設が必要です。森林の伐採や造成工事なども行わなければなりません。ダムや貯水池を建設することで、河川をせき止め、周辺の生態系に影響を与える可能性もあります。

小水力発電は、大規模なダムや貯水池の建設をせずに設備を導入できます。既存の河川や用水路などを活用するため、生態系への影響も抑えられるといわれています。

変換効率が高い

小水力発電の変換効率は、水車の種類や規模によって異なりますが、一般的には60~80%程度だといわれています。太陽光発電など他の再生可能エネルギーは10~30%前後だといわれているため、突出して変換効率のよい再エネ設備といえるでしょう。

再生可能エネルギー発電設備における変換効率とは、エネルギーをどれほど電気へ変換できるかを数値化したものです。数値が高ければ高いほど、効率的に発電できることを示しています。

小水力発電のデメリット

しかし、太陽光発電など他の再生可能エネルギーに比べると小水力発電の普及はあまり進んでいません。これは、導入への高いハードルが関係しています。ここからは、小水力発電の主なデメリットを紹介します。

水利権や規制への対応があり複雑

小水力発電は、水利権や規制の影響を受ける設備です。

小水力発電を導入するためには、河川法やその他の規制(水利権)を考慮した手続きが必要です。国や自治体から許可を得る必要があり、手続きや審査に手間や時間がかかる事業です。地域との合意形成なども求められ、簡単に導入できるものではありません。

たとえば農業用水を利用したい場合は、農家や農業団体からの許可や理解が必要です。さまざまな規制がある小水力発電は、初めて再生可能エネルギー設備を導入する企業やスピーディに発電設備を導入したい企業にとってデメリットが大きく、導入ハードルが高いのです。

メンテナンスが必要

小水力発電は定期的なメンテナンス・点検が必要です。維持管理や点検に関する作業は専門業者へ依頼できますが、維持管理費用が必要です。とくに小水力発電は、落ち葉やごみなどがフィルターに溜まりやすく、定期的な交換や確認が欠かせません。

水の落差がない場所で発電できない

小水力発電は、構造上、水の落差・水量のない場所では水車を回転させられないため、発電できません。たしかに小水力発電は、水力発電と比較すると、より幅広い場所に設置できる設備です。しかし既存の水路やため池等の状態によっては、設備の設置・運用が難しい場合もあります。

初期費用が高い

初期費用の高さは、小水力発電を導入する上で大きな課題です。

小水力発電の初期費用は、経済産業省の「令和6年度以降の調達価格等に関する意見」によると1kWにつき175万円(100kW 未満および異常値除外のため 300 万円/kW 以上の高額案件は除く)で、再生可能エネルギーの中でも比較的高額といえます。

なお太陽光発電の初期費用は1kWにつき14.7~25.1万円と、小水力発電に対して10分の1に近い水準です。

規模の大きい工場などでの利用を前提とした場合は検討の余地はありますが、民間企業にとってはハードルが高いといえるでしょう。

出典:「令和6年度以降の調達価格等に関する意見」(経済産業省)

民間企業や個人はできる?小水力発電が普及しない理由

致します。

設備を設置するためには、設置場所周辺の水使用に関する許可を得たり、地元・団体との合意形成を行ったりしなくてはなりません。このような規制や水利権に関する複雑な手続きは、設備導入における高いハードルといえます。

また採算性にも大きな課題があります。小水力発電の初期費用を回収するためには、通常20年程度かかると計算されています。初期費用が大きいこともあり、回収に長い時間がかかる点がネックとなります。

小水力発電に溜まるごみや落ち葉、木の枝などを毎日チェック・除去しなくてはいけません。稼働を継続するためには、清掃やチェックを行う人員の確保が必須です。

導入までの手続きから費用回収、維持管理と、さまざまな課題・デメリットがあり、再生可能エネルギーを初めて導入する企業にとって難しい事業といえます。

小水力発電の事例

山梨県北杜市では、2007年4月よりクリーンでんでん(北杜市村山六ヶ村堰水力発電所)という、小水力発電を稼働・管理しています。

クリーンでんでん(北杜市村山六ヶ村堰水力発電所)は、フランシス水車を用いた水力発電システムで、年間約240万kWhもの電気を発電できます。一般家庭約400~600世帯分に匹敵する発電量を確保できます。

小水力発電より導入しやすいのは太陽光発電

小水力発電は大きな発電量を確保できる再生可能エネルギーですが、導入ハードルは高いです。一方太陽光発電は、小水力発電と比較して導入しやすさという点でもメリットの多い再生可能エネルギー発電設備です。ここでは、太陽光発電と小水力発電を比較しながら紹介します。

小水力発電と比較してさまざまな場所で設置可能

太陽光発電は、小水力発電と比較してさまざまな場所に設置しやすい設備です。地上や建物の屋上、水上、農地、遠隔地など、設置場所の自由度は高いといえるでしょう。

たとえば、自社の敷地内や駐車場に空きスペースがあるときは、地上設置型太陽光発電やソーラーカーポートによる導入が選択肢となります。ソーラーカーポートとは、カーポートの屋根に太陽光パネルを搭載した太陽光発電システムです。

また十分な空きスペースがない場合は、自己託送方式も活用できます。自己託送方式とは、遠隔地に設置した太陽光発電の電気を、既存の送配電網を通じて自社へ送電する仕組みのことです。導入の際は、一般送配電事業者へ託送料金を支払う必要があります。

日光は、屋外であればさまざまな場所で吸収することが可能です。そのため、水量や水位差の必要な小水力発電と比較して、設置場所に関する制約が少ない点はメリットといえます。

初期費用が小水力発電より安い

太陽光発電の初期費用は、小水力発電よりも安い傾向です。

先述のとおり小水力発電の初期費用は、1kWにつき1kWにつき175万円程度です。一方、太陽光発電の初期費用(産業用)は、1kWにつき14.7~25.1万円で、費用の回収期間は8~12年程度とされています。

小水力発電よりも費用回収期間が短く、かつ費用負担を抑えられるのは大きなメリットです。

出典:「令和6年度以降の調達価格等に関する意見」(経済産業省)

小水力よりスピーディに計画・稼働できる

太陽光発電は、小水力発電よりもスピーディに計画・設置・稼働できます。

前半でも触れたように小水力発電の建設期間は、一般的に2~3年程度です。1年以内に設置・稼働することは難しく、体力のある企業・資産家でないとなかなか手が出ません。

一方、太陽光発電事業の場合は半年~1年前後で稼働できるケースが多いです。出力250kWの産業用太陽光発電であれば、着工から4~6週間程度で設置工事を完了させられます。2~3年程度かかる小水力発電と比較して、スピーディに導入できるのが強みのひとつです。

蓄電池との連携で発電量の少ない場面でも自家消費が可能

太陽光発電は蓄電池と連携させることで、発電量の少ない場面や発電できない夜間でも自家消費できます。

小水力発電の場合は、一定の発電量を常時確保できるのが強みです。一方、太陽光発電単体は、日中の晴れている時間帯にしか発電できないため、小水力発電と比較すると不安定な発電方法です。

しかし産業用蓄電池と連携すれば、日中に発電した電気を貯めて、消費電力量の多い時間帯や発電できない場面で自家消費することが可能です。長期停電が起きても、自立運転モードへ切り替えることで、非常用電源としても活用できます。

夜間の消費電力量が多い企業、非常用電源として再生可能エネルギーを導入したい企業などにとっても太陽光発電は、使いやすい発電設備です。

小水力発電は用水路などでも発電が可能!

小水力発電は、出力1,000~10,000kW以下の水力発電設備を指すことが多いです。水力発電所よりも環境負荷を抑えられるほか、ダム以外の場所でも設置できる再生可能エネルギーです。ただし、建設コストや採算性、水利権など、さまざまな課題があります。

民間企業や個人の発電事業者が導入する場合には、小水力発電より太陽光発電の方が導入しやすいでしょう。太陽光発電は、小水力発電より安く、設置場所に関する制約も少ない再生可能エネルギーです。

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