「電気主任技術者」をご存じでしょうか?あまり聞きなれない名前ですが、電気設備に不可欠な保安監督業務を行う役職です。しかし、認知されている方は少ないでしょう。実は今、電気主任技術者の「人材不足」が問題になってきています。一体何が原因なのか?そして対策はあるのでしょうか?今回は電気主任技術者の人手不足に関して解説します。
【基礎知識】電気主任技術者とは?
電気主任技術者は、発電所や変電所、工場やビルなどの電気設備を保安監督する役職です。電気主任技術者になるには国家資格が必要で、取り扱い可能な事業用電気工作物の電圧ごとに、第1種・第2種・第3種に分類されています。
似た言葉の「電気工事士」は、電気工事または修理などがメインの業務です。一方、電気主任技術者は電気工事士を監督する立場にあり、電気設備を運用または管理します。
電気主任技術者の仕事内容
電気主任技術者は、電気設備の点検・保安・清掃や故障対応、電気工事士の監督などが主な仕事内容です。
電気設備の点検や保安業務では、電流・電圧の点検、抵抗・配線を詳細にチェックします。また、清掃もゴミやホコリが原因による設備の不具合を防ぐために大切な業務です。
もし電気設備に故障があった場合は、電気主任技術者が中心となって対応します。原因の特定や修理、場合によって電気工事士に依頼することも、業務内容として含まれています。
電気設備の保安管理以外に、電気工事の全体を管理して作業者の指示や監督など、重要な役割を担っています。
電気主任技術者は1種/2種/3種に分かれる
電気主任技術者は、取り扱い可能な電圧により、第1種・2種・3種に分かれています。
分類によって取り扱うことのできる電圧は次のとおりです。
- 第1種電気主任技術者:すべての事業用電気工作物
- 第2種電気主任技術者:電圧17万ボルト未満の事業用電気工作物
- 第3種電気主任技術者:電圧5万ボルト未満の事業用電気工作物(5,000kW以上の発電所を除く)
引用:一般財団法人電気技術者試験センター「電気主任技術者って何だろう?」
具体的な電気設備は次のとおりです。
- 第1種電気主任技術者:大手電力会社の送電線・変電所・発電所(200万kW以上)
- 第2種電気主任技術者:大規模な工場、自家用発電設備(5,000kW以上)
- 第3種電気主任技術者:ビルや工場、コンビニ、5000KW未満の発電設備
上記のように、電気主任技術者は分類によって取り扱える電気設備が異なります。
電気主任技術者の魅力
電気主任技術者には次の魅力があります。
- 平均年収が約611万円
- 幅広い業界で活躍できる専門性
- 需要増加により就職や転職
厚生労働省が発表した「令和3年賃金構造基本統計調査」によると、電気主任技術者の平均年収は611.1万円でした。国税庁の「令和3年分民間給与実態統計調査」では、日本人の平均年収が443万円なので、電気主任技術者の年収は高い水準であると言えます。
電気設備の運用や管理は、仕事内容が同じでも幅広い業界で必要とされています。たとえばメーカー以外にも、商業施設・大学・病院などにも電気設備が配置されているため、このような場所でも電気主任技術者が求められています。
経済産業省の令和3年「電気保安人材の現状分析と 取組の方向性について」によると、電気主任技術者の約6割が60代以上という結果でした。
今後、有資格者が減少すると考えられ、電気主任技術者の需要は高まることが予想され、就職や転職しやすい職業とも言うことができます。
電気主任技術者が不足といわれる課題点
電気主任技術者は人手不足が問題となっています。電気主任者技術者が不足している課題点は次のとおりです。
- 認知度の低さ
- 資格試験が厳しい
- 電気設備の増加
- 2025年問題
それぞれ詳しく見ていきましょう。
認知度の低さ
電気主任技術者の認知度の低さも技術者不足の要因と言えるでしょう。電気主任技術者は、電気業界の中で理解しておくべき存在であり、資格です。しかしそれ以外の業界での認知度は高くありません。
電気主任技術者を知る数少ない機会としては、身近な人や職場の取引先と関係していることくらいしかありません。このように、普段の生活では認知する機会が少ないため、電気主任技術者の資格取得者や就職者が増加しないと考えられます。
資格試験が厳しい
電気主任技術者の不足には、資格試験の難しさも影響しています。電気主任技術者の資格試験は第1〜3種まであり、入門レベルの第3種でも合格率は約10%と難関です。
電験3種は理論・電力・機械・法規の4科目すべてが合格点に達する必要があります。出題範囲が幅広いため、1年以上かけて計画的に勉強しなければ、合格は難しいでしょう。
合格した科目は2年間保留することができ、次回の試験で免除される制度があります。1回の試験で4科目すべて合格できなくとも、段階的に挑戦することができます。とはいえ、簡単に合格できる試験内容でないことは覚えておいてください。
電気設備の増加
電気設備は毎年増加しています。そのため、電気設備の保安管理に従事している電気主任技術者の数が、電気設備の増加に追い付かないのが現状です。
経済産業省によると、再生エネルギー発電設備や業務ビルなどにおける電気設備は増加中であり、2030年にかけて急増していくことが予想されています。
地球環境を考慮した再生エネルギーは最も注目されており、今後はより多くの技術者が必要になるでしょう。
2025年問題も電気主任技術者の減少に影響します。
2025年問題とは、現在約800万人いる「団塊の世代」が2025年以降に75歳以上となり、社会全体が超高齢化する問題です。電気主任技術者として知識や経験をもつ「団塊の世代」の引退は、電気業界にとっても大きな痛手となることはほぼ間違いありません。
【経済産業省】電気主任技術者不足での対応
経済産業省では、電気主任技術者の不足に対応するべく、取り組みを進めています。経済産業省の電気主任者不足に対する取り組みは次のとおりです。
- 配置要件の見直し
- 外部委託範囲の拡大【太陽光発電】
- 電気主任技術者試験の開催を年2回に増加
それぞれ詳しく解説します。
配置要件の見直し
電気主任技術者不足の対策として、発電所や変電所、工場やビルなどの電気工作物に配置される技術者の見直しが実施されています。
現行の制度では、第2種電気主任技術者と電気工作物は2時間以内に到達できる距離でなくてはなりません。そのため、山間部や僻地の再生エネルギー設備にも技術者を均等に配置することは難しい状態です。
そこで新制度では、配置される技術者を第3種電気主任技術者でも許容する制度が検討されています。ただし、総括する第2種電気主任技術者の遠隔によるスマート保安技術監督下にあることが条件です。
新制度の導入により、効率的な人材の配置と技術者不足の改善が期待できます。
外部委託範囲の拡大【太陽光発電】
電気主任技術者不足の対策として、太陽光発電における外部委託の可能範囲も拡大されています。
太陽光発電所の外部委託は、電圧7,000V未満かつ出力2,000kW未満しか認められていません。
一方経済産業省が検討の結果、外部委託可能な範囲を電圧7,000V未満かつ出力5,000kWまで拡大され、令和3年4月1日より改正実施されました。
第3種電気主任技術者の監督できる環境であれば、より多くの外部委託者に依頼できるため、人員不足の改善にもつながっています。
電気主任技術者試験の開催を年2回に増加
電気主任技術者不足の対策として、受験回数の増加も重要な取り組みです。これまで第3種電気技術者試験(電験3級)は年1回の開催でしたが、合格者を増加させる対策として、令和4年度より年2回の受験が可能になります。
また科目別合格制度の受験回数は、3年間で最大6回に統一されました。そのため、1回の試験で1科目合格する受験方法でも、十分資格取得が狙えます。
令和5年の9〜11月より、CBT方式のパイロット試験が実施される予定です。マークシート方式ではなくパソコンで回答する方法で、全国130以上の会場で複数の時間帯から選択できます。
電気主任技術者が不足した場合のリスク
電気主任技術者の不足は、技術者の負担増加につながり、さらなる人材の減少を招く原因にもなります。
経済産業省によると、有資格者の必要な電気設備は年0.6%ずつ上昇しており、今後も増加していくと予想されています。
電気設備の増加に対して、電気主任技術者の人数が足りていない状態では、技術者1人あたりの業務負担が増え続ける一方です。
技術者の負担増加は労働環境の悪化を招き、転職や退職など電気業界からの流出が起こりかねません。
電気主任技術者の人手不足に関するまとめ
電気主任技術者の人手不足について解説してきました。太陽光発電設備では、有資格者による定期点検義務がありますが、技術者の不足などの状況によっては点検依頼が難しくなる可能性があります。また、外部委託による点検は経費もかかります。
以上を踏まえ、点検による継続的な困難さや出費を考慮すると、「売却」という選択肢も視野に入れることもありかもしれません。太陽光発電設備は専門業者に依頼することで適正な価格で売却が可能です。投資家のなかでも、設備売却を視野に入れた運用をしている方も少なくありません。
弊社では、数多くの売却実績を持っております。売却しようかどうしようか、迷っている段階でもかまいません。ぜひ、一度ご相談ください。