太陽光発電で売電を行う場合は、電力会社との間で電力需給契約を交わします。契約内容には力率一定制御について定められているものの、よくわからないという方も多いのではないでしょうか。力率一定制御は電力供給量に関する制御で、安定供給にもかかわる重要な内容です。
そこで今回は、力率一定制御の意味や太陽光発電との関係性について詳しくご紹介します。太陽光発電の売電事業で力率一定制御について気になっている方や太陽光発電の売電を継続すべきか悩んでいる方などは、参考にしてみてください。
電力の基本についておさらい!
力率一定制御を理解するためには、電力の基本について把握しておく必要があります。まず電力とは、電気製品を使用する際に消費する電気のことです。
電力を求めるには、「電圧×電流(P=V×I)」という計算式を使用します。
- 電力は電気エネルギーが1秒間に消費される量(仕事を行う量)
- 電流は電子が1秒間に流れる量
- 電圧は1つの電子が流れていく力
よりわかりやすく説明すると、電圧は水圧に近いイメージです。電流は水流、電力は水量といったイメージへ変換できます。
水道と水でたとえると、蛇口を閉めれば水圧(=電圧)が小さくなり、配管内の水流(=電流)も減少していきます。反対に蛇口を開けば水圧(=電圧)が大きくなり、配管内の水流(=電流)は増えていきます。(※配管=電線のイメージ)
また、蛇口を開いて一定の水圧をかけた上で配管内の水流を保てば、一定の水量(=電力)を確保することが可能です。つまり、電圧と電流のかけあわせによって、水量(=電力)は変化していくということです。
たとえば、水量(=電力)が大きければ大きいほど、たくさんの水(=電気)を使用できます。
太陽光発電で考えた場合、たくさんの太陽光パネルを設置すれば多くの電力を生み出すことができますし、売電量を増やせます。
太陽光発電で発電した電力を全て売電できない?
電力と電圧、電流のイメージを把握したあとは、電力の性質について確認していきましょう。
前段で解説したように、電力を水でイメージした場合、「水圧×水流」で水量を調整できることがわかります。しかし実際には、電圧と電流の調整によって発電した電力を100%売電できません。
そこでここからは、電力を100%売電および活用できない理由についてわかりやすく解説していきます。
電力を100%活用できない大きな理由は力率が関係
電力を100%売電できない大きな理由は、力率が関係しているためです。力率は、発電もしくは供給された電力のうち何%活用できるかを数値化したものです。理論上では、「電圧10V×電流10A=電力100W」という状態で活用できます。しかし実際は、電気機器や配線、変圧器、電子機器の中を電流が通るたびに電力を損失していきます。
電力の損失は、熱など複数の要素で起こります。つまり「電圧10V×電流10A」という状況でも、有効な電力は60Wというケースもあり得ます。なお、力率は有効な電力を%で示したもので、60Wなら力率60%です。
送電線内の電圧が上昇し続けると安定した電力供給ができない
太陽光発電で発電した電気を100%活用できない理由は、熱などによる電力損失の他、送電線の電圧上昇も関係しています。
太陽光発電で発電した電気を売電するには、送配電網を通して送電する必要があります。(送配電網:変電所や変圧器、電線などの設備)
しかし、各太陽光発電所で自由に電力が送電されると、電力需給のバランスに影響を与えてしまい、停電リスクにつながります。
さらに太陽光発電所から送電される電圧は、送電線に含まれる抵抗などの影響で上昇してしまうため、電力会社側で都度調整しなければいけません。
一般送配電事業者は電力を安定供給するため、無効電力を電力会社と太陽光発電の間で送り続けています。無効電力は、実際に消費される電力ではなく、送電線内の電圧上昇を抑えるための電力です。
無効電力が送電されていると、太陽光発電で発電した電力を100%売電できません。ただし、電圧上昇によるトラブルや停電リスクなどが回避できます。
ちなみに、太陽光発電で実際に売電可能な電力のことは有効電力といいます。有効電力と無効電力を合わせたものを皮相電力と呼び、皮相電力に対して有効電力の値が力率で示されます。
パワーコンディショナは無効電力を取り込む機能がある
電力会社から送電される無効電力は、パワーコンディショナで処理されます。パワーコンディショナには直流・交流変換機能の他にも、有効電力の送電制御、無効電力を取り込む機能が搭載されています。
そのため、太陽光発電所の所有者側は、無効電力や有効電力に関する制御や調整などは不要です。
力率一定制御とは無効電力に関する取り決め
前半で解説したように、太陽光発電所から売電可能な有効電力や無効電力の割合は、力率で示されます。
ここまで確認した方は、「力率一定制御」という用語に関して少しずつイメージでき始めているのではないでしょうか。続いては、今回のテーマでもある力率一定制御の特徴について確認していきましょう。
力率一定制御は電力会社側で取り決められている力率のルール
力率一定制御は、大手電力会社で取り決めたパワーコンディショナの力率に関するルールであり、パワーコンディショナに搭載されている機能でもあります。
パワーコンディショナに搭載されている力率一定制御は、最大出力を記録した際に有効電力の制限がかかる設定を指しています。
たとえば、パワーコンディショナの力率が90%で最大出力100kWという場合、力率一定制御によって有効電力は90kWに抑えられます。
力率一定制御は、太陽光発電設備ごとに設定されている最大出力を記録した際に作動するため、常に電力損失するわけではありません。
発電事業者側で特に対応するべき内容はない
発電事業者側では、力率一定制御に関する手続きや複雑な作業などは特にありません。
大手電力会社で要請されている力率一定制御は、既にパワーコンディショナに搭載されています。管轄の電力会社や太陽光発電の出力によって力率一定制御の数値は異なるものの、太陽光発電設備に付帯されている管理モニターから簡単に力率の値を変更できます。
力率一定制御によるデメリットはある?
力率一定制御の仕組みやルールについて確認した方の中には、発電事業者にとってデメリットがあるのか気になる方も多いかと思います。ここからは、力率一定制御による発電事業者側のデメリットについて確認していきましょう。
売電収入に大きな影響はない
力率一定制御による売電収入の影響は、ほとんどありません。
出力10kW以上50kWのパワーコンディショナに対しては、力率一定制御は95%です。また出力50kW以上のパワーコンディショナは、東京電力と関西電力で90%、その他大手電力会社は別途協議によって力率一定制御が定められます。
年間の発電量は、上記の力率一定制御によって数%抑えられてしまいます。ただし、送電線の電圧上昇を抑制できるため、出力抑制による発電停止措置を避けられますし、売電しやすい環境を保てます。(出力抑制:電力の過剰供給を抑えるため、一時的に発電設備の稼働を停止させる措置)
さらに力率一定制御を受けるのは、太陽光発電の最大出力を記録した場合のみです。そのため、売電収入に大きな影響はありません。
交流変換を行っている時点で力率は既に下がっている
太陽光発電の力率は、交流変換やその他の熱の影響などで下がっています。そのため、力率一定制御がなかったとしても、力率100%の状態で売電できないのが現状です。
太陽光パネルから発電された直流の電力は、パワーコンディショナによって交流電力へ変換されます。すると、直流・交流変換によって損失が発生します。さらに発電や送電時の熱などでも損失してしまうため、100%未満の力率へ変わってしまいます。
力率一定制御が原因で売電収入を伸ばせないという誤った認識を持たないよう、太陽光発電の発電効率や力率について正しい知識を身に付けるのも大切です。
売電収入は力率一定制御以外の部分で影響を受けている
前段で紹介したように、力率一定制御の影響は売電収入において限定的です。続いては、太陽光発電の売電量が影響を受ける要素について解説していきます。
FIT認定を受けている場合は固定買取価格が要因の1つ
固定買取価格は毎年度下落傾向にあるので、初期費用を抑えなければ売電収入を伸ばしにくい状況といえます。
FIT制度は、固定買取価格で10年間もしくは20年間売電を継続できる再生可能エネルギーの導入支援制度です。電力の買取価格は毎年度変更されていて、FIT認定を受けた年度の固定買取価格で売電を始めます。
たとえば、2023年度に出力10kW以上50kW未満の太陽光発電を設置し、なおかつFIT認定を受けた場合、1kWhにつき10円の固定買取価格で20年間売電できます。
2012年度の固定買取価格は出力10kW以上で1kWhにつき40円と、2023年度より30円も高い水準でした。このように固定買取価格は、売電収入に大きな影響を与える要素といえます。
設置場所の日射量
売電収入を伸ばすには、日射量の多い環境で発電を始めるのが大切です。
日射量や日照時間は、設置場所の環境や周辺の建物、木々などの影響によって大きく変わります。発電効率を高めるには、以下のような場所に太陽光発電を設置するのがおすすめです。
- 夏場の気温上昇が抑えられている
- 降雪量の少ない場所
- 日照時間の長い場所
- 日射量が多い
- 周辺に建物がない、少ない
- 木々による陰や影のない場所
- 地盤の強い土地
太陽光パネルの発電効率は温度上昇に伴い低下していくため、なるべく夏場の気温が低い土地で運用していくのが大切です。また降雪量の少ない場所は、積雪による太陽光パネルの破損や発電量低下といった影響を受けにくい環境だといえます。
その他、陰や影のない場所・少ない場所は、太陽光発電用地として検討しやすいでしょう。
また発電効率と直接関係ないものの、災害リスクの低い場所や地盤の強い場所は、太陽光発電の故障リスクを抑えられるため、太陽光発電用地に適しています。
太陽光パネルやパワーコンディショナの性能
太陽光パネルやパワーコンディショナの性能は、売電収入に大きな影響を与える要素のひとつです。
太陽光パネルは、発電量に直接関係しています。発電効率はメーカーや型番によって異なりますが、低いタイプで18%前後、高いタイプなら20%前半を保っています。中でも発電効率20%を超える太陽光パネルは、性能の高いパネルです。
パワーコンディショナを選ぶ場合は、直流・交流変換の効率が高いもの、太陽光パネルの最大出力より大きな出力といった点を中心に比較検討してみるのが大切です。
売電収入低下に悩む場合は自家消費へ転換するのがおすすめ
現時点で利回り低下、売電収入の伸び悩みなどに関して困っている時は、全量自家消費型太陽光発電へ切り替えてみるのがおすすめです。最後は、全量自家消費型太陽光発電へ切り替えるメリットをわかりやすく紹介していきます。
電気料金高騰による固定費負担を抑制できる
全量自家消費型太陽光発電は、電気料金高騰の影響を抑えられます。FIT型太陽光発電を運用する場合は、発電した電気を売電し、収益を電気料金負担へ充てていきます。電気料金の単価より固定買取価格が低いと、電気料金の削減効果を得られません。
一方、全量自家消費型太陽光発電で発電した電気は、自社の建物内で活用できます。そのため、電力会社からの買電量(電力の購入量)を直接削減できますし、FIT制度の変更や規制といった影響を受けずに運用することが可能です。
電気料金は2022年から急激に値上がりしているので、全量自家消費の方がメリットの多い運用方式といえます。
高圧電力契約なら最大デマンド値の更新を避けられる
50kW以上500kW未満の高圧電力を契約している場合は、全量自家消費型太陽光発電の活用によって、最大デマンド値の抑制を実現できます。小口の高圧電力契約では、基本料金の計算に最大デマンド値が用いられています。
デマンド値とは、30分間ごとの平均消費電力量のことです。最大デマンド値は、過去12ヶ月間に計測されたデマンド値の中で最も消費電力の高い値を指します。
つまり、過去12ヶ月間のうち1回でもデマンド値を更新してしまうと、電気料金の値上げにつながってしまうことになります。
全量自家消費型太陽光発電を導入しておけば、一時的な生産設備の稼働率向上、空調や照明の消費電力量増加といった状況でも買電量を削減できるため、最大デマンド値を抑制することが可能です。
環境価値の売買で収益を得られる
全量自家消費型太陽光発電は、自家消費だけでなく環境価値の売買でも収益を得られます。
FIT型太陽光発電は、国民の電気料金に含まれる再エネ賦課金や電力会社による電力買取によって成り立っています。また電力に含まれる環境価値は、再エネ賦課金を負担した国民に還元されるという考え方で統一されています。
全量自家消費型太陽光発電は非FIT型の設備なので、電力に環境価値が残されています。そのため、発電した電力に含まれる環境価値は、非化石証書という形で売却することが可能です。
さらに環境価値を活用した事業は、消費者や取引先からの評価アップにつながります。
力率一定制御など複数の要素から売電収入が伸び悩む時は自家消費がおすすめ!
力率一定制御は、送電線内の電圧上昇抑制および電力の安定供給を維持するため、電力会社側から要請されている力率の制限に関する取り決めです。最大出力で発電した場合は、力率一定制御の機能によって数%の電力が無効化されます。
なお売電収入低下の主な原因は、力率一定制御ではなく太陽光パネルやパワーコンディショナの性能、設置場所の日射量・日照時間、その他天候などが関係しています。
自社の電気代削減効果を伸ばしたい方や売電収入のみで電気代削減効果を伸ばせない方は、今回の記事を参考にしながら全量自家消費型太陽光発電を検討してみてはいかがでしょうか。
和上ホールディングスでは、全量自家消費型太陽光発電の企画提案から設計、部材調達、土地の造成工事、施工、運用保守まで一括サポートしています。
また、自社敷地内への設置だけでなく屋根設置、水上型、営農型、PPA、自己託送型など、多種多様な設置方法に関して知識と技術を保有しています。地上設置以外の運用方法について検討している場合でも、お気軽にご相談ください。
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