洋上風力発電から発電された電気は、通常海底ケーブルを通して送電されます。一方、実証実験が予定されている電気運搬船は、海底ケーブルと比較して地震の影響を受けにくく、大型の蓄電池を複数輸送できることが期待されています。
今回は、電気運搬船の特徴やメリット、デメリット、洋上風力発電との関係性について詳しくご紹介します。脱炭素経営のために再エネ関連の情報を調べている方などは、ぜひ参考にしてみてください。
電気運搬船とは
まずは、電気運搬船とはどのような船なのかを詳しく解説していきます。
大型蓄電池を運搬可能な船
電気運搬船とは、海上送電用に開発されている大型蓄電池の運搬を目的とした船のことです。とくに洋上風力発電から発電された電力の送電用船舶として、開発・製造が行われており、実用化されれば世界初のシステムでもあります。
洋上風力発電とは、海上に設置されている風力発電のことです。周辺に建物などがないため、陸上風力発電よりも大規模な設備を設置しやすい設備です。また陸上よりも一定の風速で風を受けやすいため、発電量を伸ばしやすい再生可能エネルギー設備として注目されています。
詳しくは後述しますが、電気運搬船が運用されれば、海底ケーブルに加えて洋上風力発電の電力を貯めた大型蓄電池を船で輸送し、さまざまな場所へ柔軟に給電を行うことが可能になると期待されています。
実証実験は2026年スタート予定
電気運搬船の開発を手がけている株式会社パワーエックス社は、2025年の完成を目指し2024年時点でも開発・研究を進めている状況です。
また、実証実験に関しては2026年開始を予定としており、実用化に向けた具体的なスケジュールなども少しずつ確認できます。
実用化に向けて開発されているパワーエックス社独自の製品、コンテナ型の船舶用大型蓄電池は「リン酸鉄リチウムイ オン (LFP) 電池」を使用しています。蓄電容量合241MWh・6,000サイクル以上の長寿命です。大型蓄電池の数を増やすことで、運搬できる電力量を増やすことができ、未来の送配電を支えるシステムとしてさまざまな技術やアイデアが盛り込まれています。
電気運搬船で注目される洋上風力発電の課題
船と大型蓄電池を用いた海上送電という新しい送電方法は、画期的かつ海に囲まれた日本において期待の大きなシステムといえます。電気運搬船という方式が生まれた理由の1つは、洋上風力発電に関するいくつかの課題も関係しているのです。
ここからは、電気運搬船の強みを知るために重要な、洋上風力発電の課題について確認していきましょう。
日本で設置可能な場所が限られている
現在、国内で洋上風力発電の設置可能な場所は限られているため、広いエリアへ給電したり大規模な開発を進めたりすることは難しいです。
そのため、洋上風力発電はヨーロッパで普及している一方、日本ではまだ発展途上といえます。
洋上風力発電を設置するためには、一定の風速を保てる場所に設備を設置する必要があります。国内で洋上風力発電の開発が進んでいるエリアは、北海道・東北の日本海側などに集中しています。電力需要に応じて他の地域へ送電するためには、送電網等設備を増強しなければなりません。
発電効率の高い洋上風力発電ですが、設置場所という点で制約を受けやすいのがネックです。
再エネ電源の急増による送配電網不足
洋上風力発電を含む再エネ電源の設置数は急増しており、送配電網不足という課題も出てきています。
発電所で作られた電気を各家庭や店舗、工場などへ供給するには、送電線や送電設備、変電設備などが必要です。しかし、風力発電や太陽光発電といった再生可能エネルギー発電設備の導入が拡大し続けている一方、送配電網は不足しています。
そのため現状では、発電量の急増に対応しきれず電力の損失を招いてしまっています。
とくに洋上風力発電の場合は、他の再生可能エネルギーと異なり海上に設置するため、海底ケーブルの設置工事が必要になります。ただし、海底ケーブルは潮流による摩耗のほか、経年劣化や地震などの災害による影響を受けやすい設備です。電気運搬船は、このような送配電に関する課題を解決に導ける可能性があります。
初期費用や維持管理の負担が大きい
洋上風力発電の大きな課題でもあるのが、初期費用や維持管理費用の負担です。
建設の際は設置のための基礎工事のみならず、変電所へ電力を送電するための海底ケーブルを調達し、海底に固定したり洋上風力発電設備へ接続したりする必要があります。
洋上風力発電設備の資本費は、経済産業省の「令和6年度以降の調達価格等に関する意見」によると1kWにつき平均137万円です。他の再生可能エネルギーより非常に高い水準の金額で、導入コストという点でもハードルの高い設備といえます。
設備の運転開始後は波による浸食などで劣化するため、定期的に洋上風力発電と陸地を往復しながらメンテナンスや修理交換作業の継続が必要です。
出典:「令和6年度以降の調達価格等に関する意見」(経済産業省)
電気運搬船の実用化で期待できること
続いては、電気運搬船の実用化で期待できること、想定されるメリットについてわかりやすく解説していきます。
北海道から本州への送電能力および運用効率が向上する
電気運搬船の実用化および普及が進んだ場合、北海道周辺に設置されている洋上風力発電の電力を本州へ効率的に送電できるようになります。また、その他地域の洋上風力発電で発電された電力も、電力需要の高い地域へ効率的に送電・運用することが可能です。
先述したとおり、北海道や東北地方は、他の地域よりも洋上風力発電の開発が進んでいます。送配電網不足で送電能力に影響をおよぼす可能性が出てきている一方、すぐに増設するのは難しい側面もあります。
そこで電気運搬船があれば、洋上風力発電の電力を蓄電池に貯め、船に搭載した上で需要のある地域へ輸送できます。海底ケーブルの敷設工事にかかる負担を避けながら、電力損失を削減できるのは、大きなメリットです。
海底ケーブルの設置コストを抑えられる
洋上風力発電で発電された電力を電気運搬船で運用できれば、海底ケーブルの部材調達コストや敷設工事の費用、維持管理の負担などを抑えることが可能です。
海底ケーブルを敷設するためには、ケーブルがまたがるすべての海域・揚陸部等の自治体に許可を求めなければなりません。また1mにつき数10円~数100円の占用料を支払ったり、敷設に関する更新手続きを1~5年ごとに行ったりしなければなりません。
さらに海底の直流送電の整備には1兆円を超える費用がかかるため、コスト面の負担も大きな課題です。一企業で負担するのは困難でしょう。
電気運搬船が実用化および普及した場合は、海底ケーブルの調達や手続き関係の負担を大幅に抑えられます。また、1兆円を下回る費用で運用できる可能性があり、コスト面でもメリットの多い送電方法となることが期待されます。
海底ケーブル設置時に懸念される環境破壊リスクを回避できる
電気運搬船は、環境破壊リスクを回避できる点でもメリットがあります。
通常、海底直流送電では、送電用のケーブルを海底に沿わせながら固定していきます。状況によっては海底を掘削し、海底ケーブルを設置したのち埋め戻す方法もとられています。
そのため、海底の改変に伴う生物への影響が懸念されます。また、ケーブルの敷設工事による騒音や熱などが、環境に影響を与える可能性もあるのです。
一方、電気運搬船では海底の埋設を含む工事が不要のため、生物への直接的な影響を抑えられるのも強みの1つです。
出典:「国内外における海底ケーブルの敷設等について」(環境省)
土砂災害など特定の災害リスクを避けられる
洋上風力発電による発電および電気運搬船を活用した送電は、地上に発電設備や蓄電池を設置する場合と比較して、災害リスクを避けられる可能性があります。
日本は、地震や豪雨・台風などによる土砂災害、水害など、さまざまな災害リスクのある環境です。そのため、地上に設置された発電所や蓄電池は、浸水や地震による揺れなどの被害を受ける可能性があります。
大型蓄電池を搭載した電気運搬船と洋上風力発電を活用すれば、地上で起こり得る土砂災害や冠水、地震による地割れといった被害リスクを避けながら発電・送電を継続できます。
とくに災害の多い日本では、災害対策という点でもメリットの大きなポイントです。
企業にとって導入しやすい再エネは太陽光発電
電気運搬船の開発は、洋上風力発電事業を後押しするプロジェクトです。ただし現状では、企業にとって導入しやすい再生可能エネルギー発電設備は、太陽光発電といえます。
洋上風力発電の資本費は経済産業省の「令和6年度以降の調達価格等に関する意見」によると1kWにつき平均137万円かかります。一方、事業用太陽光発電の初期費用は、1kWにつき14.7万円~25.1万円と洋上風力発電に対して約10分の1~6分の1です。
他には以下のようなメリットがあります。
- 自社の敷地内に空きスペースがあれば設置可能
- 敷地内に設置スペースがなければ自己託送方式で自家消費可能
- 非FIT型でも自家消費や売電など柔軟に運用できる
- 小規模~大規模設備まで自由に検討可能
また、太陽光発電事業に関する施工業者やメンテナンス専門のO&Mサービスなどが充実しており、スムーズに設置・運用を進められるのも大きなメリットです。
出典:「令和6年度以降の調達価格等に関する意見」(経済産業省)
電気運搬船は将来的に洋上風力発電の普及を支えるサービスに!
電気運搬船は複数の大型蓄電池を搭載した船で、洋上風力発電の電力を運搬することが可能です。また、海底ケーブルの敷設をはじめとした送電網の工事にかかるコストなどを抑えられるなど、複数のメリットを得られる可能性もあります。
このように電気運搬船は、洋上風力発電を支えるサービスとして期待できます。ただし、洋上風力発電事業は、コストや設置場所、維持管理などにおいて課題の多い設備です。
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