脱炭素経営を進める際は、環境関連の支援制度や枠組みについて把握しておくのも大切です。中でもカーボンクレジットは、二酸化炭素量の排出量削減へ向けた取り組みを進める際に役立つ制度の1つです。しかし新しい制度ということもあり、仕組みや特徴、どのように取り組んでいけばいいのかわからない方も多いのではないでしょうか。
そこで今回は、カーボンクレジットの仕組みや取引所、メリットやデメリットについて詳しくご紹介します。カーボンクレジットへの取り組みに関心を持っている方や、脱炭素経営につながる取り組みを始めたいもののよくわからず悩んでいる方などは、参考にしてみてください。
カーボンクレジットとは?
カーボンクレジットは、温室効果ガスの削減量・削減実績を売買できるよう制度化したものです。国では、2050年のカーボンニュートラル達成に向けて、企業へ脱炭素経営・温室効果ガスの削減などを求めています。
しかし、事業の内容から簡単に二酸化炭素や温室効果ガスを削減できない企業も存在します。カーボンクレジットを購入すれば、自社の温室効果ガス削減実績へ反映できますし、環境目標の達成に近づきます。
とくにエネルギー関連業界や航空業界などは、二酸化炭素の排出量を簡単に削減できない状況です。カーボンクレジットはこのような企業にとって需要の高い制度で、なおかつ今後も市場の拡大が見込まれています。
カーボンクレジットの仕組み
カーボンクレジットの意味を把握したあとは、仕組みについて確認していきましょう。カーボンクレジットの取引方法は、ベースライン&クレジット制度とキャップ&トレード制度という2種類に分かれています。
それぞれ似た制度ですが、取引の対象が異なるため混同しないよう注意も必要です。
ベースライン&クレジット制度
ベースライン&クレジット制度の場合は、温室効果ガスの削減実績を取引商品と考えます。たとえば、自社の生産設備を省エネ性能の高い新設備へ切り替えたとします。省エネ性能が高いので、生産活動の際に排出される温室効果ガスは旧設備より抑えられています。
つまり、「旧設備の温室効果ガス排出量-新設備の温室効果ガス排出量=差分」が温室効果ガスの削減量としてみなされます。
またベースライン&クレジット制度では、上記の削減量を販売・購入できるのが特徴です。他にも林などの活動で削減された二酸化炭素量は、カーボンクレジットで取引できます。
販売側としては温室効果ガスの削減量を取引に活用できるため、比較的わかりやすい制度といえます。
キャップ&トレード制度
キャップ&トレード制度(国内排出量取引制度)は、温室効果ガスの排出枠を取引商品とした制度を指します。2010年に東京都が国内で初めて導入しました。また、2011年に埼玉県も同様の制度を実施しています。
東京都の場合は、年間1,500kL以上のエネルギー使用量を記録している大規模事業所に対して、キャップ&トレード制度の対象および温室効果ガスの削減に関する努力義務を課しました。
温室効果ガスの排出量に関する上限を定められた事業所は、さまざまな方法で温室効果ガスの排出量を抑える必要があります。しかしどうしても排出枠を超えてしまう場合は、キャップ&トレード制度によって、他社から余剰分の排出枠を購入することが可能です。
このようにキャップ&トレード制度は、温室効果ガスの排出規制を受けた企業にとって役立つ制度で、排出枠を活用して利益を得られるのも強みです。
カーボンクレジットの主な種類
続いては、カーボンクレジットの主な種類を3つ紹介していきます。
国際的なカーボンクレジット
海外では、クリーン開発メカニズム(CDM)というカーボンクレジットが運用されています。また2021年に開催されたCOP26では、64メカニズムという後継制度が設立されました。
国際的なカーボンクレジットの64メカニズムは、温室効果ガスの削減活動期間5年間の更新2回、もしくは10年間とされています。また、温室効果ガスの吸収に関する活動は、最大15年間適用されます。つまり64メカニズムへ参加している国は、5~15年間、温室効果ガスの排出量削減や吸収活動に注力しなければいけません。
さらに64クレジットが発行されているので、国同士での取引も可能とされています。
日本政府や自治体系のカーボンクレジット
日本政府では、Jクレジット制度というカーボンクレジットに関する制度の整備や管理を行っています。
Jクレジット制度は、省エネ設備や再生可能エネルギーによる温室効果ガスの排出削減実績、森林の保護活動などによる二酸化炭素吸収実績をクレジットとして認証してもらえる仕組みです。また対象者が中小企業や農業、森林を所有している方、地方自治体など幅広いのも特徴です。
Jクレジットを発行・販売したい場合は、Jクレジット制度事務局へ相談しプロジェクトの申請や登録を行います。審査に通過した場合は、Jクレジットを発行することが可能で、売却量に応じた収益を得られます。
一方、Jクレジットの購入者は、温室効果ガスの削減実績として活用できますし、製品やサービスに環境価値を追加することも可能です。
企業によるカーボンクレジット
カーボンクレジットには、民間事業者で立ち上げられた制度も存在しています。
たとえば、Verified Carbon Standard(VCS)は、IETAなどの民間団体で設立された制度です。また世界で取引されている制度の1つなので、カーボンクレジットの信頼性という点でもメリットがあります。さらにクレジットの活用先が11種類と非常に多く、さまざまな事業で使用できるのも強みです。
他にもGold Standardという制度は、WWFなどの環境団体が設立したカーボンクレジットで、クレジットの発行や購入に関する取り組みだけではありません。人権保護や労働環境の改善といった持続可能な開発への貢献、カーボンクレジットの過剰利用による温室効果ガス増加への対策など、多角的な視点で環境保護へ向けた活動が重視されています。
カーボンクレジットの活用メリット
ここからは、カーボンクレジットの発行・活用によるメリットをわかりやすく紹介していきます。
発行や購入によってCSR活動や脱炭素経営をアピールできる
カーボンクレジット制度を活用してクレジットの発行・購入を行えば、自社のCSR活動につながります。また、脱炭素経営をアピールできるのが主なメリットの1つです。
企業は、製品やサービスの提供だけでなくCSR活動も求められています。CSR活動は、社会貢献活動といった意味を指しています。たとえば、人権保護に関する取り組みや自社の労働環境改善、環境保護活動などが代表的です。
再生可能エネルギーを導入し、二酸化炭素の排出量を削減およびカーボンクレジットを発行することは、環境保護につながる活動です。
またカーボンクレジットを購入し、自社の温室効果ガス削減実績を伸ばすことで、消費者や取引先からの評価も高めることができます。
このようにカーボンクレジット制度は、単に社会や環境のためというだけでなく、自社のブランディングや信頼性向上といった点で役立つのです。
二酸化炭素の削減が難しい業種でも脱炭素へ貢献できる
カーボンクレジットを購入すれば、二酸化炭素や温室効果ガスの排出量削減が難しい業種でも脱炭素・環境保護活動を進められます。
一般的に、鉄鋼業や化学、航空業界などは二酸化炭素排出量が多い状況で、なおかつ大幅な削減も難しい傾向にあります。そのため脱炭素経営へシフトしていきたいと考えていても、簡単には切り替えられません。
そこで、カーボンクレジットを購入することで自社の二酸化炭素排出削減量を伸ばすことができますし、比較的簡単に脱炭素経営をアピールできます。
生産設備や作業工程の都合上、二酸化炭素を大幅に削減できない場合は、カーボンクレジット制度を活用してみるのもオススメです。
購入の場合は設備投資が不要
カーボンクレジットを購入する場合は、設備投資が不要です。脱炭素経営へシフトするための資金が不足している企業にとって、大きなメリットといえます。
Jクレジット制度では、3つの方法でカーボンクレジットを購入できます。またクレジットの購入時には、事前にクレジットの保管用口座の開設手続きが必要です。
- 売買仲介
- 相対取引
- 入札制度
売買仲介は、カーボンクレジットの仲介業者(J-クレジット・プロバイダーなど)を介してクレジットを購入する方法です。相対取引は、Jクレジット制度HPの売り出しクレジット一覧に表示されている事業者から直接取引を行い、クレジットを購入します。
また入札制度は、J-クレジット制度事務局で実施されている入札へ参加し、落札していく方法です。
このようにカーボンクレジットの購入にかかる手続きは必要なものの、省エネ・再エネ設備の導入や大規模な費用負担などを避けられます。
カーボンクレジットの課題
カーボンクレジットは、メリットばかりではありません。ここからは、カーボンクレジット制度の課題やデメリットについて1つずつ確認していきましょう。
二酸化炭素の吸収に関する認証方法があいまい
カーボンクレジット制度の認証方法は実施団体によって異なるため、信頼性という点で問題視されている側面もあります。
カーボンクレジットの運営団体は、二酸化炭素や温室効果ガスの削減・吸収の実績を正しく見極めなければいけません。しかし認証方法や定義、ルールがあいまいなので、どの程度環境保護につながっているのか効果は未知数というケースもあります。
制度が乱立していてわかりにくい
民間のカーボンクレジット制度は、国内外で多数設立されています。さらにルールや申請方法が独自の内容ということもあり、活用しにくい・わかりにくいといったデメリットもあります。
さらにカーボンクレジット制度の詳細を理解せずに利用してしまうと、あとから定義やルール上の問題によって、さまざまなトラブルに巻き込まれる可能性があります。また適切に管理されていない不正なカーボンクレジットは、二酸化炭素の削減実績のない・少ない状況です。そのため、脱炭素経営の役に立たないものに投資してしまうリスクもあります。
カーボンクレジット制度を検討する際は、実施団体の情報を確認したり規約を理解したりした上で、慎重に確認するのが大切です。
温室効果ガスの直接削減率が低下してしまう可能性
カーボンクレジットが乱立し、なおかつ多用されてしまうと、温室効果ガス・二酸化炭素排出量削減や吸収につながる活動が減少してしまう可能性もあります。
カーボンクレジットを購入してしまえば、自社の二酸化炭素削減量を数字上簡単に増やすことが可能です。しかし、別の企業や団体で削減された二酸化炭素の実績を購入しているだけなので、実際に削減しているわけではありません。
このような事例が増えると、結果的に持続可能な社会の実現につながりません。また、気候変動問題が深刻化し、私たちの社会を維持することも難しい状況へ変化してしまいます。
カーボンクレジットの価格
カーボンクレジットの価格は、制度や発行事業者、販売方法によって大きく異なります。ここではJクレジット制度で発行されているカーボンクレジットの価格をいくつか紹介します。
北海道標津郡中標津町で発行されているカーボンクレジットは1tあたり12,100円(税込)、山梨県南アルプス市のカーボンクレジットは1tあたり13,200円(税込)でした。(2023年2月時点で販売終了)
1tあたり12,000円前後で販売されている傾向なので、再エネや省エネ設備の導入費用と比較して低コストです。中には、1万円未満の価格で販売されているケースもあります。
また、発行事業者や自治体によっては購入量に応じた割引を行っているので、さらにコストを抑えながらカーボンクレジットの購入を進められます。
カーボンクレジットを活用したビジネス事例
国内の企業では、カーボンクレジットで自社の温室効果ガス、二酸化炭素排出量削減実績を伸ばしています。
たとえば、建設会社の株式会社安藤・間では、Jクレジット制度を活用して7tもの温室効果ガス削減実績を持つカーボンクレジットを購入しました。また、購入先の企業は段ボール製造企業で、工場内のボイラー更新に伴い温室効果ガスを削減しています。
他にも第一生命保険株式会社は、住宅用太陽光発電による二酸化炭素排出削減実績を持つカーボンクレジットを4t購入および活用し、温室効果ガスの削減活動に努めています。
Jクレジット制度のカーボンクレジット購入企業は、金融機関や印刷会社、電子機器メーカー、自治体と多種多様で、積極的に活用されていることもわかります。
カーボンクレジットは二酸化炭素の排出量削減効果をスピーディに進められる
カーボンクレジットは、温室効果ガスや二酸化炭素の削減・吸収実績をクレジット化させたもので、企業や自治体間で取引されています。また、カーボンクレジットを販売した場合は売却益を得られます。購入した企業の場合は、カーボンクレジットに記載されている温室効果ガス・二酸化炭素削減量を自社の実績として記録することが可能です。
しかし、カーボンクレジットの購入では実際に温室効果ガスや二酸化炭素を削減できないため、課題も多く残されています。
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