日本は2050年のカーボンニュートラル達成へ向けて、さまざまな取り組みや方針を示しました。同方針の中には、サプライチェーン排出量という内容および目標も組み込まれています。しかし、どのような対策を進めればいいのか分からない企業も多いのではないでしょうか?
そこで今回は、サプライチェーン排出量の意味や特徴、企業側でどのような取り組みを行えばいいのか詳しくご紹介します。サプライチェーン排出量についてよく分からず悩んでいる方や太陽光発電を含む脱炭素経営を目指す方は、参考にしてみてください。
サプライチェーン排出量とは?
サプライチェーン排出量は、事業者単体ではなく事業活動全体で排出される温室効果ガスの総排出量を指しています。
サプライチェーン(供給連鎖)とは、製品の原材料調達から部品の加工、生産、物流、販売、商品までの流れのことです。現在、多くの製品は、複数の企業で作り上げたり流通させたりしています。
そのため、ある企業が生産に伴う温室効果ガス排出量を削減しても、原材料調達や物流、販売に関わる企業も環境対策を施さなければ、全体の温室効果ガス排出量を大幅に削減できません。
そこで1998年、世界資源研究所(WRI)と世界経済人会議(WBCSD)でサプライチェーン排出量について着目しました。また、日本政府では、1998年に温暖化対策に関する法律を制定し、企業も温室効果ガスの排出削減について取り組み、さらにサプライチェーン全体で取り組む方向へ動き始めています。
サプライチェーン排出量が重要視されている理由
サプライチェーン排出量の定義について把握したあとは、なぜ重要視されているのかについて確認していきます。
自社排出量より多い
サプライチェーン排出量は、自社の事業活動によって排出される温室効果ガスの4倍にのぼるとされています。
気候変動情報開示推進NGOのCDP作成されているCDPサプライチェーン報告書では、製品の原材料調達から販売までの一連の流れで排出される温室効果ガスの排出量について分析しました。
つまり、企業単体の温室効果ガス排出量よりサプライチェーン排出量の方が多い、という分析です。
もっと簡単に説明すると、企業単体で環境対策に取り組んだとしても、取引先の企業A、B、C全体で取り組まなければ、温室効果ガスの大幅な削減につながらないということです。
また、日本政府が掲げている2050年のカーボンニュートラルを達成するには、各企業で個別に環境対策を施すだけでは難しい状況です。そこで近年、サプライチェーン排出量について注目され始めています。
どの工程で温室効果ガスが発生しているか見える
サプライチェーン排出量を基準に温室効果ガスについて分析した場合、より効率的に対策を進められます。
1つの製品を製造・販売する際、原材料調達から消費者へ届くまでのさまざまな工程で温室効果ガスが発生します。そこで温室効果ガスを削減するには、自社の事業見直しではなく、取引先の作業工程を含めて分析・整理することが大切です。
また、サプライチェーン排出量の考え方に基づいて分析対策を進めていくと、どの工程を優先的に改善していけば、効率的に温室効果ガスを削減できるか判断することが可能です。
世界的に取り組まれているため国内でも重要視される可能性
サプライチェーン排出量に着目した環境対策は世界的に取り組まれていて、今後も推進されていく考え方の1つです。
海外でサプライチェーン排出量に関する取り組みが加速すると、国内のテレビやネットメディア、新聞などでも積極的に取り上げられる可能性もあります。消費者に広く認知された場合、国内企業も早期にサプライチェーンの温室効果ガスについて分析・対策を施さなければ企業イメージや価値にかかわります。
そのため、企業は、サプライチェーン排出量をベースにした取り組みを早期に始めることが重要です。
サプライチェーン排出量はScopeで分類
サプライチェーン排出量の基本を知る上で欠かせないポイントが、Scopeという分類方法です。
各取引先の温室効果ガスを効率よく分析、整理したい時は、Scopeを把握しておくことで悩まずに整理できます。
それではサプライチェーンのScopeについて確認していきましょう。
Scope1と2は自社の排出量
サプライチェーン排出量には、Scope1とScope2という考え方が定められています。
Scope1とは、自社の事業活動で排出している温室効果ガスのことです。日本語では、直接排出とも呼ばれています。
たとえば、以下のようなケースは、Scope1として区分されます。
- 自社工場の稼働時に排出される温室効果ガス
- ディーゼル発電機の稼働時に排出される温室効果ガス
- 自社の敷地内にある焼却炉から排出される温室効果ガス
Scope1に該当する温室効果ガスを削減するには、省エネ設備の導入、熱排出削減につながる機器導入や対策の実行などといった方法を検討する必要があります。
一方、Scope2は、他社から供給されたエネルギーを自社で使用した際に排出された温室効果ガスを指しています。別名、間接排出と呼ばれています。
電力会社の火力発電所で発電された電気を使用している場合は、間接的に温室効果ガスの排出につながります。そこで、このような活動はScope2に該当します。
Scope2に該当する温室効果ガスを削減したい時は、再生可能エネルギー由来の発電所を設置することが大切です。特に太陽光発電所は広く普及しているため、対応している施工業者や販売店が多数あり、導入検討しやすいといえます。
上流と下流はScope3に分類
Scope3とは、サプライヤー(自社と取引、関連している企業)で排出されている温室効果ガスのことです。
Scope3は上流と下流に分けられ、さらに15のカテゴリに細かく分類されているのが特徴です。
カテゴリ1 | 購入した製品・サービス |
カテゴリ2 | 自社の資本財の建設などに伴う温室効果ガス排出 |
カテゴリ3 | Scope1や2に含まれない燃料およびエネルギー活動 |
カテゴリ4 | 上流工程における輸送、配送 |
カテゴリ5 | 事業活動から発生する廃棄物 |
カテゴリ6 | 取引先企業の従業員の出張時に間接排出される温室効果ガス |
カテゴリ7 | 取引先企業の従業員の通勤時に間接排出される温室効果ガス |
カテゴリ8 | 自社で借りている資産の使用などで排出される温室効果ガス |
カテゴリ9 | 下流工程における輸送、配送 |
カテゴリ10 | 自社で販売した製品を他社が加工 |
カテゴリ11 | 自社で販売した製品を消費者が使用 |
カテゴリ12 | 自社で販売した製品を廃棄される |
カテゴリ13 | 自社の資産を他社へ貸し出し、他社で使用された際に排出される温室効果ガス |
カテゴリ14 | 自社のフランチャイズ企業、店舗の事業活動における温室効果ガス |
カテゴリ15 | “投資による間接排出 1株あたりの排出原単価から、自社の投資額に応じた排出量を算定、” |
カテゴリ1~9は上流工程、カテゴリ10~15は下流工程に該当します。
Scope3における上流は、以下のようなケースを指します。
- 自社の事業活動で排出された廃棄物を輸送、廃棄してもらう際に発生する温室効果ガス温室効果ガス
- 取引先の社員が通勤する際に間接排出される温室効果ガス(電車、バス、車など)
- 自社で借りている資産に関連する温室効果ガス(重機を借りた際、重機の製造および燃料の燃焼によって排出される温室効果ガス)
一方、下流は、自社で生産・販売した商品を他社や消費者が使用した際に排出される温室効果ガスを指しています。
- 自社で製造販売したガスバーナーを消費者が使用、燃焼によって温室効果ガスが排出
- 自社で販売したペットボトル飲料を消費者が使用、廃棄によって温室効果ガスが排出
- 自社のフランチャイズ店舗運営の際に排出された温室効果ガス
このように温室効果ガスは、自社の製品やサービスを消費してもらう、自社で原材料を仕入れる、自社で使用した製品の廃棄など、さまざまな場面で排出されていることが分かります。
サプライチェーン排出量の算定方法
サプライチェーンから排出される温室効果ガスを正確に測定、算定するには、取引先の事業活動から1つずつ確認する必要があります。
しかし、自社の事業活動を行いながらリース先や原材料調達先などの温室効果ガス排出量を測定するのは、非常に難しいところですし現実的ではありません。
そこで簡易的な算定方法が作成されています。
簡易的な算定方法は、活動量×排出原単位という計算式です。活動量というのは、企業の社内データや業界の平均的なエネルギー使用量から構成されたデータを指しています。排出原単位とは、各活動量の最少単位から導き出される温室効果ガス排出量のことです。
たとえば、電気使用量500kWhという活動量を収集した場合、排出原単位から1kWhあたりの温室効果ガス排出量を確認することで、総排出量を計算できます。
サプライチェーン排出量の見える化を行うメリット
続いては、サプライチェーン排出量の見える化へ力を入れるメリットについて紹介していきます。
社会的信用の向上から企業価値アップにつながる
サプライチェーン排出量を算定し、データを公開することは、社会的信用の向上および企業価値アップにつながります。
企業活動は、単に利益を追求するだけでなく、環境や社会、人権などに配慮されているかどうかという点も評価されます。そのため、サプライチェーン排出量の算定と公開は、取引先や消費者からの評価アップ、事業成長につながる重要な活動です。
ESG投資の対象企業としてみなされやすい
ESG投資先としてみなされやすくなるのが、サプライチェーン排出量へ取り組むメリットの1つです。
近年、多くの投資家は、環境と社会、ガバナンスというESGに力を入れた企業への投資を行っています。また、ESGにつながらない、社会や人にとってリスクのある事業を行っている企業は、投資先として選ばれにくい傾向です。
サプライチェーン排出量への理解と対策の実行は、今後の事業活動にとって重要な要素といえます。
脱炭素経営の指標として活用できる
サプライチェーン排出量の算定は、脱炭素経営の指標として活用することが可能です。
脱炭素経営は、これからの事業運営において重要な経営方法です。しかし、脱単炭素経営の達成度を確認するための指標は少ないため、現時点でどの程度環境対策が行われているか分かりにくい側面もあります。
サプライチェーン排出量の調査と算定を行っておけば、自社の温室効果ガス排出量やサプライチェーン全体の排出量削減効果を一目で把握できるようになります。
サプライチェーン排出量のダブルカウントに注意
サプライチェーン排出量を算定する時は、ダブルカウントしないようカテゴリの区分について注意しておく必要があります。
Scope3に該当する温室効果ガスは、他社のScope1と重複してしまいます。そのため、サプライチェーン排出量は、日本の温室効果ガス総排出量ではありません。
Scopeに基づくデータ収集および活用を行う時は、日本全体の温室効果ガス排出量として分析・情報の公開を行わないよう気を付けましょう。
サプライチェーン排出量を確認し脱炭素経営を加速させよう!
サプライチェーン排出量とは、製品の原材料調達~販売、廃棄やリサイクルまでに排出された温室効果ガスのことです。また、より効率的に温室効果ガスを削減するために重要な考え方で、脱炭素経営の指標として活用することが可能です。
脱炭素経営を検討している方や温室効果ガスの削減方法を模索している方は、今回の記事を参考にしながら脱炭素経営について検討してみてはいかがでしょうか?
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