近年、国内企業が太陽光発電産業から撤退しているのをご存じでしょうか?太陽光発電と言えば、再生可能エネルギーのひとつとして、サスティナブルな発電システムとして注目されていました。決して市場が縮小されているわけではありません。ではなぜ産業から撤退をしている企業がいるのかについて解説していきます。
多くの国内太陽光発電メーカーが撤退している
2000年頃は、京セラ、シャープ、三洋電機(パナソニック)、三菱電機の大手メーカー4社で世界シェア50%を占めていました。しかし現在、国内の太陽光発電メーカーが次々と撤退しています。
ここでは太陽光発電の普及と撤退するまでの流れを解説していきます。
現在では日本の世界シェアは1%くらい
太陽光発電が最も普及したきっかけは、2009年に施行された余剰買取制度です。これは、太陽光発電で余った電気を電力会社に売ることを可能にした制度です。
また補助金制度も同年に設けられたことから、一般家庭のニーズが高まり、太陽光発電事業者も増えていきました。
また2011年に起こった東日本大震災や原発事故をきっかけに、さらに太陽光発電の価値が見直されるようになりました。
しかしその頃から、中国が太陽電池モジュールの生産に一気に参入し始めました。大量生産でコスト競争し、2019年の太陽光発電メーカーの出荷量ランキングのトップ10には、中国メーカーが8社ランクインしています。
中国の太陽光発電市場は急成長し、2021年の年間導入量は最多で54.9GW、累積導入数は380.5GWで全体の三分の一を占めています。それに対して、2021年の日本の累積導入数は6.5GWと大きく引き離され、世界シェアは約1%しかありません。
太陽光発電から撤退していった理由とは?
国内の太陽電池メーカーは続々と撤退を余儀なくされており、2020年3月には三菱電機が完全撤退、パナソニックも2021年に太陽電池生産を終了しました。
メガソーラー建設の実績があり、世界展開も視野にあった出光興産グループのソーラーフロンティアも、2021年10月に太陽光パネルの国内生産から撤退しています。つまり太陽電池の国内メーカーは完全に消えてしまったといっても過言ではありません。
ここでは、国内メーカーが撤退に追い込まれた理由をそれぞれ解説していきます。
1.海外との価格競争に勝てなかった
昭和シェル石油(現・出光興産)は、1970年代のオイルショックを期に、太陽電池の基礎研究を進めて事業に参入しました。1980年代にはCIS太陽電池の技術開発がスタートし、2006年にはソーラーフロンティア(昭和シェルソーラー)を設立してCIS太陽電池の事業化を進めました。
CIS太陽電池とは、銅・インジウム・セレンを主成分とし、製品1枚を生産するのに必要な金属は1円玉たった8枚分という、生産性に優れた電池のことです。従来の結晶シリコン系太陽電池と比較して、kWあたりの発電量が高いことが特徴です。
また発電層の厚みが約100分の一で済むので、より少ない原材料で作れるという点もメリットです。
2007年からは商業生産を開始し、2012年の固定買取制度も相まって大量生産体制を強化しました。宮城県の東北工場は最大規模の投資を行い、整備を進めましたが、売上高は伸び悩む結果となりました。固定買取価格が下がって価格競争が激しくなると、中国メーカーが市場を独占し始めました。
2.『単結晶シリコン型』の安価なパネルの登場
中国メーカーが世界市場を占めたのは、すでに技術が確立している単結晶型シリコンや多結晶型シリコンに集中したことが理由です。大量生産により製造コストを下げることが、将来的に市場で評価されると先読みしていたのです。
2000年代は単結晶シリコン型の価格は高く、多結晶シリコン型がコスト面で優位でした。しかし、P型単結晶シリコンを使用したPERC(裏面不動態型セル)の生産拡大とともに低価格化が実現しました。もともと変換効率性で優位だった単結晶型シリコンは、低コストになり、マーケット拡大につながりました。
3.FIT制度の失敗
2009年にスタートした余剰買取制度に代わる形で、2012年にスタートしたのがFIT(固定価格買取制度)です。
FIT(Feef-in-tariff)は、家庭用などの10kW未満の太陽光発電を10年間、固定価格で買うよう電力会社に義務付けた制度のことです。再生エネルギーで発電された電気を買い取る際の必要な費用は、消費者から「再エネ賦課金」として徴収しています。
2010年代に中国メーカーとの価格競争に敗れた日本。経済産業省は、FITによる国内企業の太陽電池生産の黒字化を目標に掲げました。
しかしFIT導入によって一気に市場拡大はできるものの、買取価格が下がると同時に売上高が激減するリスクを考慮した国内メーカーは、最初から大型投資に踏み切ることはしませんでした。
中国メーカーは多国籍で優秀な人材を確保し、サプライチェーンを構築して、こうしたリスクに備えます。2004年にFITを導入していたドイツに参入してシェアを拡大、同じようにFITを導入したスペイン・イタリアにも参入して成長を続けました。
撤退した国内の主な太陽光発電メーカー
価格競争に追いやられ、次々に撤退を余儀なくされた国内太陽光発電メーカーが多くあります。ここでは主な企業の太陽光発電システムの特徴や撤退後の気になる保証について解説していきます。
Panasonic(パナソニック)
パナソニックは、2021年に自社工場での太陽光電池の生産を終了しました。パナソニックの太陽光発電パネルは「HIT」というアモルファスシリコンと結晶シリコンで構築された三層構造のハイブリッド型太陽光パネルです。
アモルファスシリコンは、暖かい時期になると発電量が高くなる特徴があるので、季節を問わず安定した発電量が期待できます。HITは、三層構造の他にも低反射ガラスを採用したことで、散乱光を防ぎ、発電量を増やす仕組みがあり、高い評価を受けました。
狭い屋根でも十分な発電量が見込めることや、形状を問わない点もメリットと言えるでしょう。またエネルギー変換効率も19%以上と高く、コンスタントに発電できます。パナソニックで照明器具やエアコンを揃え、スマートHEMSを導入すれば、電気の見える化も容易に行えます。
▽撤退後の保証は?
太陽光発電システムの保証は継続しています。ただし、パナソニックが規定した設置工事が行われているという条件をクリアしていなければなりません。モジュール保証と機器痂疲保証は、無償で25年という長期です。
パワーコンディショナーや接続箱など周辺機器の保証期間は15年なので安心です。
ソーラーフロンティア
出光興産グループのソーラーフロンティアは2021年に国内生産を終了し、OEMに切り替えることを発表しました。宮崎県に工場を持ち、年間で1GWの生産が可能な体制を整備して、2015年からは東北工場を稼働しました。
グッドデザイン賞特別賞を受賞したCIS薄膜系太陽電池は、発電量が他メーカーと比較して最も多く、価格帯も安いことが特徴です。
その理由はCISの光照射効果にあり、太陽光を浴びることで出力が上昇します。kWあたりの発電量が多い反面で発電効率は低いため、屋根面積が広い住宅に向いています。
また太陽光パネルに影ができたとしても、出力具合は比較的変動しにくいのも魅力でしょうです。海外パネルを使用せず、国内生産のみで品質管理しているところもメリットです。
▽撤退後の保証は?
ソーラーフロンティアの撤退後も、保証やアフターサービスは受けられます。システム保証は10年間で、有料で15年保証にすることも可能です。また、モジュール出力は20年の長期保証なので安心でしょう。
ソーラーフロンティアは、人工衛星にも採用されるほどの耐久性を持っているので、災害にも左右されず長く利用できます。
東芝
東芝は2010年に太陽光発電システムの事業を開始し、2021年に販売を終了しました。これまでに国内で10万戸以上の販売実績があります。
東芝の太陽光パネルは「Sシリーズ」と呼ばれる単結晶型シリコンです。
発電効率を改善させるためにバックコンタクト方式を採用しており、日射量の少ない朝や雨天時にも発電量の確保が実現します。
また、反射防止膜やARコートの搭載で、限られた太陽光を有効利用することが可能です。
業界随一の発電力で、枚数を抑えても発電量が期待できる点はメリットでしょう。
▽撤退後の保証は?
生産終了で撤退したシャープの太陽光発電システムですが、保証については継続しています。
モジュール保証の期間は25年で、周辺機器の保証は15年です。該当する機器には、接続箱やコンバータなどが含まれます。
国内企業の太陽光発電撤退に関するまとめ
この記事では国内の太陽光発電の撤退が相次いだ経緯や原因、主な撤退企業の太陽光発電システムの特徴や保証について解説しました。
太陽光パネルは、メーカーによって値段だけでなく発電量や出力量など特徴がさまざまです。保証期間やサポート内容も確認して、屋根の形や重視したいポイントに合わせて太陽光パネルを選びましょう。