太陽光発電設備では、国が定めたルールとして「使用前自己確認」が必要です。今回新たに制度内容が改正され、対象範囲が拡大されました。これから太陽光発電設備の導入を検討しているならぜひ確認しておくべきでしょう。この記事では、改正される使用前自己確認制度について詳しく解説していきますので、ぜひ参考にしてください。
【基礎知識】使用前自己確認とは?
太陽光発電設備は、国から許可をもらわなければ稼働させられません。そのため、安全性を確かめる試験を実施して、経済産業省にその結果を報告する制度が使用前自己確認です。
近年では、太陽光発電設備が増加傾向にあります。設備増加に伴い、風や台風などにより太陽光パネルが飛ばされ、第三者に被害を与える事故も報告されています。
経済産業省は、使用前自己確認を導入することで太陽光発電の事故防止を図っており、試験項目の基準値をクリアしなければ、電気設備の稼働が許可されません。使用前自己確認の詳細を詳しくみていきましょう。
電気事業法により定められている
太陽光発電を所有している場合、使用前自己確認の実施が規定されています。電気用法第51条の2(設置者による事業用電気工作物の自己確認)によると、事業用電気工作物の設置者は、保安監督部に安全性を示さなければ、電気工作物の運用が許可されません。
電気設備の安全性を示すには、電気事業法の定める技術基準をクリアする必要があります。また新設する事業用電気工作物だけでなく、すでに設置してある事業用工作物が変更工事を実施した場合も電気事業法に該当するため、注意しておきましょう。
【太陽光発電】使用前自己確認制度の改正はいつから?
使用前自己確認制度について理解していただいたと思います。今回、新たに制度が改正され、変更点などがあります。また制度が適用される時期についても知りたいところです。ここでは使用前自己確認制度の改正がいつから適用なのか?また変更した部分について解説していきます。
新制度の施行は2023年3月20日
太陽光発電の使用前自己確認制度は、2023年3月に改正が決定しています。制度改正の影響で対象範囲も拡大するため、すでに所有している設備や取得を考えている設備が該当するかチェックが必要です。年度変更となる4月1日ではないため、注意しましょう。
対象設備要件
新たな制度の開始により、「10kW〜500kW未満」の太陽光発電も使用前自己確認に該当します。現行制度では「出力500kW以上2,000kW未満」の発電設備が対象です。一方、2023年3月の改正により「10kW以上2000kW未満」の発電設備も対象範囲に含まれます。
基本的に既存設備は、使用前自己確認の提出を義務付けられていません。しかし、既存設備に一定の変更工事を施した場合は届出が必要となります。
変更工事を実施した次のような設備は、使用前自己確認が必要です。
- 10kW以上の増設または支持物を含む取り替えで、合計出力が2,000kW未満の設備
- 10kWかつ出力5%以上の太陽電池パネルのみの取り替えで、合計出力が2,000kW未満の設備
- 20%以上の電圧の変更で、合計出力が10kW以上2,000kW未満の設備
- 支持物の強度の変更で、合計出力が10kW以上2,000kW未満の設備
- 支持物の強度に影響のある修理で、合計出力が10kW以上2,000kW未満の設備
これまで出力10kW以上の太陽光発電はすべて「事業用電気工作物」で統一されていました。一方、新たな制度の導入により出力10kW以上50kW未満の発電設備は「小規模事業電気工作物」という名称に改名されます。
使用前自己確認の試験方法
使用前自己確認の改正日と拡大する対象設備が理解できたところで、試験の方法についても確認しましょう。試験項目には、設備本体を調査する電気関連の試験と付随設備を調査する構造関連の試験があります。
経済産業省が定める電気または構造の技術基準をクリアしなければ、太陽光発電設備を稼働させる許可が得られません。使用前自己確認の具体的な試験方法や内容を詳しくみていきましょう。
電気関連の試験
はじめに、使用前自己確認には、設備本体が安全に発電できるかを調査する電気関連の試験があります。測定や検査などに問題があれば、太陽光発電を稼働させられません。試験を実施せずに設備を運用した場合は、漏電や火災などの事故にも発展するおそれがあります。
試験項目には電気設備が安全に稼働するかを調査する以外に、事故発生時の正常なシステム停止も確認項目です。経済産業省から公表されている具体的な試験項目は次のものがあります。
- 外観検査
- 接地抵抗測定
- 絶縁抵抗測定
- 絶縁耐力試験
- 保護装置試験
- 遮断器関係試験
- 総合インターロック試験
- 制御電源喪失試験
- 負荷遮断試験
- 遠隔監視制御試験
- 負荷試験(出力試験)
- 騒音試験
- 振動試験
各試験では細かく規定があり、基準とされるルールを満たさなければなりません。数多くの試験がありますが、太陽光発電設備のトラブルを防止して安全性を示す重要な検査です。
構造関連の試験
使用前自己確認は電気関連の試験だけでなく、構造関連の試験も実施します。構造関連の試験は、太陽光発電設備の架台強度・地盤の緩み・環境耐性などの確認が目的です。
構造物関連に必要な要点は次のものがあります。
- 各種荷重に対して安定した構造
- 支持物は安定した品質、腐食・腐朽しにくいまたは防食措置を施した材料
- 部材間の存在応力を確実に伝達できる接合部
- 沈下、浮き上がり、水平移動を生じない基礎
- 高さ9mを超える設備の建築基準寒冷法令への適合
太陽光発電が安全に稼動していても、設備を支える支持物の安全性も確認しなければなりません。主に支持物の形状・材料・強度・構造などが技術基準を満たす条件です。
また、常時・積雪・暴風・地震など環境の変化によってJISで定められた荷重対応も試験項目に含まれます。
構造関連の試験は、短期〜長期で太陽光発電を安定して稼働させる重要な検査です。
使用前自己確認結果届け出を提出
すべての試験を終えた後に「使用前自己確認結果届」を経済産業省へ提出します。太陽光発電は、経済産業省から安全に稼働できると認定されなければ運用できません。使用前自己確認届を提出せずに、設備を運用開始しないよう注意しておきましょう。
また「使用開始前」とは、「送配電事業者や既存の設備との連系前」という意味ではありません。売電や自家消費の場合では、発電力の使用を開始する前のことを指しています。試験項目に連系を行わなければ実施できないものも含まれているため、連系されていても問題ありません。
もし、届け出を提出しなかった場合や虚偽の届け出を申請した場合は、電気事業法第120条第1号により30万円以下の罰金が課せられます。
使用前自己確認結果届け出の提出方法
最後に、使用前自己確認結果届の提出方法を解説します。提出者は規定で決まっており、それ以外の人物は提出できません。またビジネスケースによっても提出者が変わるため、注意しましょう。
使用前自己確認結果届は発電所の条件によって提出の有無が変化します。提出方法や規定を詳しく見ていきましょう。
届け出は設置者(オーナー)
使用前自己確認結果届は、設置者(オーナー)が提出する必要があります。設置者とは発電所を保有し、維持または管理している者のことです。施工業者や販売店、O&M事業者は代わりに申請できないため、注意しましょう。
また、混乱する第三者所有の例としてオンサイトPPAと太陽光発電リースがあります。オンサイトPPAの場合、PPA事業者がメンテナンスまたは管理を実施しているのが一般的です。そのため、設置者に該当するのはPPA事業者となり、使用前自己確認結果届を提出しなければなりません。
太陽光発電リースの場合、発電事業者や需要家がメンテナンス・管理を実施していることが一般的です。需要家や発電事業者が設置者に該当し、使用前自己確認結果届を提出しなければなりません。
届け出が必要な設備・不要な設備
使用前自己確認届の必要性は、電気設備によって違います。使用前自己確認届け出が必要な電気設備は次のものです。
- 10kW以上2,000kW未満の太陽光発電設備
- 既存の太陽光発電設備に一定の変更工事を施行した場合
序盤でも解説したように、一定の変更工事とは次のような設備の変更を指します。
- 10kW以上の増設または支持物を含む取り替えで、合計出力が2,000kW未満の設備
- 10kWかつ出力5%以上の太陽電池パネルのみの取り替えで、合計出力が2,000kW未満の設備
- 20%以上の電圧の変更で、合計出力が10kW以上2,000kW未満の設備
- 支持物の強度の変更で、合計出力が10kW以上2,000kW未満の設備
- 支持物の強度に影響のある修理で、合計出力が10kW以上2,000kW未満の設備
使用前自己確認届け出が不要な設備は次のものです。
- 10kW未満の太陽光発電設備
- 10kW以上50kW未満の太陽光発電設備でFIT認定を受けている場合
- 10kW以上50kW未満の太陽光発電設備ですべての発電を需要家が使用している場合
使用前自己確認届け出が不要な設備でも、パネルの増設や支持物の取り替えなど変更工事を実地した場合は届け出の対象となります。
提出方法
使用前自己確認結果届の提出方法を解説します。提出方法は以下のいずれかになります。
- 申請書類の郵送
- 申請書類の持参(管轄の産業保安監督部)
- 保安ネットからオンライン申請
保安ネットは、産業保安・製品安全関連法令に関する申請手続きをオンラインで完結できるシステムです。提出物の記入・申請・審査状況の確認・交付される通知文書の確認などもできます。24時間365日いつでも届け出や申請ができ、再提出や変更も可能であるため、使い勝手の良いシステムです。
保安ネットを使用するには、gBizID(GビズID)からIDとパスワードを取得する必要があります。gBizIDを取得すると1つのID・パスワードで、助成金や行政システムなどさまざまな行政サービスにログインが可能です。
gBizIDにはプライム、メンバー、エントリーという3種類のアカウントがあります。
- gBizIDプライム:印鑑証明+登録印鑑で申請する必要がある、法人または個人事業主のアカウント(2週間以内の作成)
- gBizIDメンバー:gBizIDプライムが承認したサービスを利用できるアカウント
- gBizIDエントリー:オンラインで即日可能なアカウント
使用前自己確認のまとめ
太陽光発電設備は経済産業省が定めたルールとして、使用前自己確認届け出の提出が義務付けられています。2023年3月20日に使用前自己確認の制度は新しく改正され、対象となる太陽光発電設備が変更されます。
具体的には「10kW以上500kW未満」の発電設備が新たな対象となりました。また、既存設備でもパネルの増加や構造の変更工事など実施すると、申請対象となります。
使用前自己確認結果を届け出なかった場合や虚偽の申請を行うと、電気事業法により30万円以下の罰金が課せられるため注意しましょう。
これから太陽光発電設備の導入を考えている方は、使用前自己確認制度の詳細を確認しておくことが大切です。