国境炭素税は、貿易業を展開している事業者の他、消費者や貿易以外の事業を展開している企業も間接的に影響を受ける可能性があります。また、市場での競争力にも関係するため、多くの企業にとって把握すべき内容です。
今回は、国境炭素税の意味や特徴、日本への影響について詳しく解説します。脱炭素経営につながる情報を調べている方や貿易業を展開している方などは、参考にしてみてください。
国境炭素税とは?
まずは、国境炭素税の意味や対象品目についてわかりやすく解説していきます。
脱炭素対策に応じて課税されるEU考案の制度
国境炭素税は、別名、国境炭素調整措置(CBAM:Carbon Border Adjustment Measure)と言い、EUで導入された新しい環境関連の規制および制度です。気候変動に関する対策の少ない国から輸出された製品に対して、炭素税が上乗せされるという内容です。
つまり、環境対策の進んでいる国で製造された製品の方が、規制の緩い国より関税を多くかけられずに済むようになるということです。
導入国はEU加盟国
EU(欧州連合)は27の加盟国で構成された組織で、経済や安全保障、政治などに関する共通の枠組みが組み込まれています。また、EU域内での貿易に対しては関税がかからない、共通通貨ユーロでの取引可能といった特徴があります。
国境炭素税(国境炭素調整措置)を導入しているのは、2023年10月時点でEUのみとされています。
そのためEU加盟国向けに製品を輸出する場合は、国境炭素税をかけられる可能性があります。
対象の輸入品
国境炭素税(国境炭素調整措置)の対象となる主な輸入品は、以下のとおりです。
主に、製造過程で二酸化炭素排出量の多い分野が課税対象とされている状況です。
- 鉄鋼
- セメント
- 電気
- 肥料
他にも対象品目があり、今後はさらに拡大される見込みです。
貿易事業を展開している企業の中でEU向けに製品を輸出している企業は、特に対象品目を確認しておく必要があります。
国境炭素税はいつから始まる?
EUの国境炭素税(国境炭素調整措置)制度は2023年10月から予備段階が始まっていますが、実際に国境炭素税が課税されるようになるのは2026年とされています。そのため企業は、2026年までに製品の製造時に発生する二酸化炭素を削減していく必要があります。
2023年10月から既に始まっている予備段階での取り組みは、二酸化炭素排出量の報告義務です。
これは、EUに加盟していない国は、EU向けの製品輸出時に二酸化炭素排出量を報告しなければいけないというルールです。報告の結果、EUの設定した枠を超える二酸化炭素排出量を記録していた場合は、その分を国境炭素税という形で負担することになります。
国境炭素税が考案された理由
EUで国境炭素税が考案された理由は、主に2点あります。
1つは、気候変動対策を推進させるためです。温室効果ガスである二酸化炭素の排出を放置してしまうと、地球の平均気温上昇などといった問題を解決できません。
もう1つは、カーボンリーケージの発生による市場の歪みを抑えるためです。気候変動対策関連の規制が厳しい国で製品を製造する場合、規制に対応した設備を導入したり製造方法を考案したりしなければいけません。すると、製造にかかるコストが上昇します。
一方、気候変動対策の規制が緩い国で製造された製品コストは、比較的安価な傾向です。
コスト面の差が生じると、企業によっては規制の緩い国へ製造拠点を移してしまうことも考えられます。
このように、気候変動対策によって産業の拠点が規制の緩い国へ移動してしまう現象をカーボンリーケージと呼びます。
国境炭素税を導入して製造コストの差額をカバーすることで、気候変動対策による産業拠点の移動というリスクを抑えられます。
気候変動対策は経済に影響を与えることがあるため、国境炭素税のような対策などが考案されています。
国境炭素税の開始による日本への影響
貿易業を展開している企業は、国境炭素税の開始による影響を特に受けやすい可能性があります。
それでは、国境炭素税制度が日本に及ぼす影響について確認していきましょう。
日本からEUへの対象輸出品は少ない
国境炭素税の対象品目に該当する日本からの輸出量は比較的少ないと言えます。そのため、日本経済への影響は限定的とされています。
ただしEU向けに製品を輸出している企業にとっては、2023年時点で大きな影響を受ける可能性があります。前半でも触れたように、2023年10月から対象品目をEU向けに輸出する際は、二酸化炭素排出量の報告を行なう必要があるからです。
そのため、事前に製品の製造過程で排出されている二酸化炭素の計測および計算を進められる体制づくりが求められます。
例えば、自社の事業活動で排出された温室効果ガスの計算は、各排出量に地球温暖化係数を掛けます。また、電力・ガス会社から供給されたエネルギーの利用によって間接的に温室効果ガスを排出している場合は、それぞれの使用量(活動量)に指定の係数を掛けて算出します。
対象品目が拡大すれば大きな影響を受ける可能性も
EUでは、国境炭素税の対象品目を増やしていく方向で調整を進めています。そのため、日本のEU向け輸出品が対象品目に多く含まれてしまうと、製造コストの増加といった負担につながることも考えられます。
製造コストの削減を目指しつつ低炭素化された製品をつくるには、再生可能エネルギーの導入をはじめとした事業に必要なエネルギーの脱炭素化、輸送や製造設備といった各プロセスにおける環境負荷の低減に向けた取り組みを本格化させる必要があります。
国境炭素税の課題
国境炭素税は、気候変動対策と市場での競争力を両立させる上でメリットのある制度と言えます。しかしEUのルールに対する反発など、さまざまな課題も出てきています。
ここからは、国境炭素税の主な課題についてわかりやすく解説します。
EUとその他の貿易国との間でトラブルが発生するリスク
EU向けの輸出が多い国にとって、国境炭素税は環境対策費用の増加といったさまざまな負担につながります。
さらに、EUの定めた国境炭素税制度は、他国の承認を得たものではありません。そのためEUと貿易を展開している国からすると、EU側に有利な政策として認識される可能性があります。貿易摩擦に発展した場合は気候変動対策の足並みが乱れるリスクもあり、企業も各国の動きに注目している状況です。
二酸化炭素の排出削減のカギはアメリカと中国
二酸化炭素の多くは、アメリカと中国から排出されており、EUによる国境炭素税制度導入のみでは、気候変動対策という点で充分とは言えません。
つまり、炭素税を含めて気候変動対策を進めていくには、アメリカや中国を中心に足並みを揃えていく必要があります。
アメリカの場合は、炭素国境調整措置(国境炭素税)について議論を重ねているものの、WTO(世界貿易機関)との整合性について他国から疑問視されたり、国民負担などが懸念されたりしているため、制度として発足するまでに時間がかかる状況です。
ちなみにWTOでは、国産と同程度の税金の基準を輸入品に課さないというルールがありますが、国境炭素税についてはまだ前例がないため、整合性について多くの不明点が残されています。
一方、中国では、排出量取引制度を導入したり2060年までのカーボンニュートラルを掲げたりしているものの、EUの国境炭素税には反対の立場をとっています。そのため、国境炭素税の制度が各国に受け入れられるかは不透明な状況です。
国境炭素税の導入がビジネスチャンスにも?
国境炭素税の導入によって、世界がさらに脱炭素・低炭素化された商品やサービスを評価する方向へ大きくシフトしていけば、新たなビジネスチャンスにつながります。
例えば二酸化炭素排出量の少ない製造設備は、国境炭素税の負担を抑える上でも価値の高い製品として認識されます。また再生可能エネルギー由来の電力供給サービスは、火力発電由来の電力消費量を抑えたい企業にとってニーズの高い内容と言えます。
国境炭素税をリスクとして捉えず、ビジネスチャンスと考えて対策を講じるのが、脱炭素経営において重要な考え方の1つでもあります。
脱炭素化の第一歩におすすめなのが非FIT型太陽光発電
国境炭素税をはじめとした気候変動対策重視の社会へシフトしつつある今の時代、自社を成長させるには脱炭素化へ本格的に取り組む必要があります。
そこでおすすめなのが、非FIT型太陽光発電です。FIT制度の認定を受けない運用であるため、非FIT型と呼ばれています。
最後は、脱炭素化の第一歩として非FIT型太陽光発電がおすすめの理由について紹介します。
設計や施工まで専門業者へ委託できる
非FIT型太陽光発電を導入する際は、設備の設計から施工・保守運用までを専門業者に任せることが可能です。
そもそも、太陽光発電所の設計から施工、保守運用には、資格と技術が必要です。そのため、設置後のメンテナンスや修理交換、発電量監視などに関しても、O&Mという専門サービスで対応してもらえます。
脱炭素経営は新しい考え方なので、なかなかアイデアが浮かばなかったり実現までに時間がかかったりしてしまいます。
非FIT型太陽光発電なら、施工販売会社へ相談すればいいため自社のリソースを残せますし、導入決定から1年以内に事業を始められます。
発電によって二酸化炭素排出量を削減できる
非FIT型太陽光発電によって電力を自家消費すれば、二酸化炭素排出量の大幅な削減効果が見込めます。
企業に求められている気候変動対策の1つが、二酸化炭素排出量の削減です。しかし、輸送や製造の際は二酸化炭素を排出します。また、電力会社から購入した電力には、化石燃料の燃焼によって発電された電力も含まれており、間接的に二酸化炭素を排出していることになります。
非FIT型太陽光発電は太陽光パネルで発電された電気を消費するため、発電時に二酸化炭素を排出しません。また既存の設備を残したまま二酸化炭素排出量の削減効果を得られるため、脱炭素に関する事業の中でもシンプルで導入しやすい事業です。
さらに、電気料金負担を年間数10%削減できるので、固定費削減という点でもメリットがあります。
FIT制度の規制に左右されることなく運用可能
非FIT型太陽光発電の場合は、FIT制度の規制に左右されることなく運用することが可能です。
FIT制度は、国による再生可能エネルギーの導入支援制度で、一定期間固定の単価で電力を買い取ってもらえるという内容です。しかし、FIT制度の認定失効を避けるにはさまざまなルールに沿って運用する必要がありますし、今後ルール変更による影響を受ける可能性もあります。また環境価値を残せないため、脱炭素経営をアピールする上でデメリットがあります(※電力の買取コストを電力会社と国民の再エネ賦課金によってまかなっているため、環境価値のない電力としてみなされている)。
一方、非FIT型太陽光発電として導入した場合は、FIT制度の認定を受けるための申請が不要で、さらに売電だけでなく自家消費、環境価値の売買などさまざまな事業に応用できます。
太陽光発電を活用した事業を展開する際は、非FIT型の方がおすすめです。
国境炭素税は今後日本にも影響を与える可能性も!
国境炭素税はEUで始まった制度で、EU域外の対象輸入品目によっては課税される可能性があります。日本はEU向けに輸出している製品が少なく、影響をあまり受けていない状況です。
しかし、EU以外の国でも同様の制度を始めたり国境炭素税の対象品目が拡大されたりした場合は、大きな影響を受けることが考えられます。
脱炭素経営の重要性を理解したものの何から始めればいいかわからない方、自社設備の省エネ化を行いたいが難しいと感じている方は、非FIT型太陽光発電の導入を検討してみてはいかがでしょうか。
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